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魔導具、製作

 僕はレイリーがこちらを見ているのを、横目で感じながら魔導具の製作に取り掛かった。と、言っても材料は何も買っていない。お手軽な工作を始めようと思った。これまでは魔力を何か別のものに纏わせる事を行なっていた。だから、今回はその別のものを省く事にしてみた。要するに、魔力だけで何かを行う実験だった。


 両手を机上に置くと、円を描く形を作った。そして、魔力を体内で循環させてから、最終的に手の先から放出する方法を取った。剣に纏わせる時もこの方法を選ぶと、魔力がいとも簡単に動かせた。自分の色に染まる事で動かしやすくなるのだった。

 静電気が発生する時のように、バチバチと音を鳴らしながら両手の空間の中心で輝く球が現れた。魔力の濃度が上がるに連れて、僕はそれを同じ魔力で無理矢理押し留めようとした。だから、逆に中側の反発する魔力が音を出していた。それは線香花火のようにも見えたが、明らかにいつでも爆発しそうな雰囲気を見せていた。


 壁を見つめていたレイリーがぎょっと、こちらを凝視して来た。爆発は起こらないと分かっていても、その顔には少し焦りがあるようだった。

「あわわっ…」

 と、彼は手で今にも叫び出したいのを抑えていた。


 騎士団長室がこの光の球で、激しく光で覆われた。僕が力を込める事で、静電気のような音は控えめになりつつあった。外から閉じ込める、魔力に押された状態で少し時間が経つと魔力の球は完全に落ち着きを見せた。

 僕の目前には、きらりと光を反射する魔力で出来た球があった。魔力が隅々まで込められているため硬いが、手で持つと特に重くはなかった。不思議な事に魔力には余り重さがなかった。ビー玉より軽いぐらいだった。


「ーーこれが…騎士団長の魔力で出来た、球ですか」

 と、いつの間にかレイリーが何とも顔を近付けていた。


 そこには騎士らしさはなく、心から好奇心で覆われている少年のようだった。

 僕はそのように思っていたが、ふと気付いた。そして、脱力した。


「あー間違えた。これを作りたい訳ではなかった…」


 僕は子供を楽しませる何かを作るはずだった。これは僕の魔力を込めたもの。だから、ただ魔力が入っているだけである。今、魔力がどこにでもあるのなら、役に立たないのだった。その事を知った。折角作ったのだから、団員には非常用に渡す事にした。特殊なダンジョンでは、何故か魔力がなくなる所もあったからだった。

 と、すぐに団員分の魔力玉を作った。そして、まずは一つをレイリーに手渡した。


「ごめん。失敗作だけど、いつか役に立つかもしれない。魔力を込めたものだから、誰でも使えるものだよ」


「ありがとうございます。一生大切にしますっ」

 と、レイリーは意気込んだ。


 が、僕からしたらそこまでするものではなかった。ただの魔力を込めたものは誰でも出来ると言うイメージがあったからだった。丁度、使用期限がないのがそれのいい点だった。



 ふと、この失敗作が活用出来ると僕は気付いた。もし、この中に魔法を込めたら使えると言う事だった。それも発動寸前の起動状態で用意していれば、後は誰かが魔力を流せばいい。いや、魔力はもうこれが覆っていた。後は一つ刺激さえすれば発動するように、出来るのだった。だが、誰もが使えるようになるのは嫌だった。こう言う画期的なものほど、悪意に使われやすいのだった。だから、最初に悪意があれば発動しなくなる、僕が初めて思い付いたトラップを仕掛ける事にした。

 悪意があれば、その場で魔法が発動しないまま、この玉が粉々に砕ける。悪い方向に使うのなら、それは砕け散るべきなのだ、と僕は思った。


「よし…やるぞ」

 と、僕は今度は片手だけを机上に置いた。


 これは魔力操作を学ぶためにも、僕が自身に行う訓練法だった。両手で出来た事を次は片手でする。そうする事で、僕は更に細かい操作が出来るように訓練していた。これも過酷なダンジョンの世界では大切な事だった。


 僕は掌に少量の魔力を纏めると、その中に悪意に反応する魔法を永遠に発動するようにした。それも絶対砕け散る効果を付けて。そして、自分の目的でもある、子供が楽しめる魔法を起動状態をそれに貼り付けた。それから、大きく魔力を覆わせた。表面上に塗らなかったのは、奥に仕込めれば仕込むほど解析がしにくくなるからだった。時間が経つと、中の魔力の混ざり合うようになる。それで普通の人なら識別が出来ないようになっていた。だから、ぱっと見では魔力玉と、この魔法玉の違いが分からなくなる。


 どちらがどちらであると分からなくなるのも、嫌なので魔法玉は何の魔法にするかで色を変える事をした。魔法玉の中の色ごとに種類があれば、面白そうであると言う遊び心も実はあった。




 コツコツと作って行くと、いつの間にか沢山の魔法玉が出来上がっていた。

 赤色の火魔法。水色の水魔法。白色の氷魔法。黄色の光魔法。黒色のブースト的な身体強化。これは僕が作った魔法だった。

 今の所はそれだけにして、また出来るのならバラエティーを増やす事にしようと思った。



 騎士団長室の机が溢れそうになった時に、セイスが扉を開けて入って来た。

「失礼しますって、何を作っているのだ、レイ?」

 と、何とも不思議そうで驚いた顔をしていた。


 僕が顔を上げると、そこには他の団員の顔もあった。そして、何故かミーシャもいた。


 僕は頭の後ろを触りながら、答えた。

「新たな、魔導具…を」


「明らかに怪しいものに見えるが? ()()()魔導具はそんな形をしていない。そして、そんな一瞬で量産も出来ないが…」

 と、セイスがじーと見て来た。


 それは何ともジークを思わせるような顔だった。僕はふと、君はジークじゃないよね、と確認を取りたくなった。


「…子供を楽しませる魔法と言う事で、魔法が使えるようになる魔法玉を作ったのだよ」

 それだけが僕が答えれる精一杯だった。


 彼らは今にも叫びそうなのを我慢していた。

 セイスは今度は、レイリーを見た。


「で、護衛騎士は団長を止めなかったのですね?」

 と、その顔は笑顔だが笑っていなかった。


 何故か騎士であるはずのレイリーが、後退っているのを僕は目撃した。


「ついつい面白そうなので、済みません」

 と、土下座をしそうだった。



「いや、もういいです。もうこれは終わった事なのでどうしようもないです。折角なので、子供達に試して貰ったらいいでしょう。それをするためだけに作った、と考えます」

 と、セイスは静かに言った。


 その声は騎士団長室に、よく響いていた。どの氷魔法よりも、冷たく。流石、上級魔法の氷の世界が使えるだけあるのだった。だから、彼の性格が一気に変わっていた事はもう無視した。



 僕も少々、やってしまったな、と理解していた。これからは好奇心だけで物事を進めるのは、よくないと僕は今回、心から学んだ。いや、ここまでしたら学ぶのが当然と言えるほどだった。でも、それは子供を楽しませたいと言う思いからだった。弟がいると言う事もあり、ついついやってしまったのだった。


 これまで危なっかしい事を行なった魔法師がいると聞いた事があるが、僕はその一人ではない、と自分の中で考える事にした。それに魔法は誰も使わなければ、折角の技術が廃れる事になる。それも今の魔法社会のように。僕は技術を盗まれるのは嫌だったが、更なる進歩を図るためにすでに公開したものを何かするのは別によかった。そして、それをどう使おうと法律を守っているのなら。

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