魔剣と魔法 3
「よし、頑張ってねっ」
と、僕は少し横に下がった。
ここで巻き添えられたりするのは、洒落にもならないからだった。
アレスはじっとしていた。
が、ゴーシュや、アイガン、ザリファーがまずは先頭に立ち、強力な一撃を放った。辺りの埃が一度飛び上がる威力だった。僕の髪も軽く、靡いたのを感じた。が、黒鴉を攻撃が届く事はなかった。黒鴉は彼らを一度見ると、それがただの虫であるようにすぐに視線をずらした。それは黒いオーラを放ったままで行っているので、あたかもどこかの神殿の石像がじっくりと動いているようだった。威厳を放ち、見た者に恐怖を抱かせるには十分だった。
見ていた様子のセイスが一歩前に出た。相手がどのように動くかを眺めていたようだった。彼は深呼吸をすると、剣を持つ手に意識を集中させた。辺りの空気が冷え出し、今にも氷どうだった。そこに白い雪の世界が広がっていると思えるほど、セイスが解放した魔力の濃度は濃かった。
セイスが持つ剣が手の先から、白い氷で包まれた。ピキピキと氷出す、綺麗な音が辺りを覆った。下を見ると、彼の足元も白色で染まり出していた。副団長と言えるほどの実力を彼は持っているのだった。
「ふん…」
と、セイスは一気に振り下ろした。
剣が辿った道を描くように、空中に白い線が現れた。それはそのままの形を維持しながら、黒鴉に向かって放たれた。何かを察知した黒鴉はそれを避けるように、横に飛び立とうとした。が、上級魔法を元にしているセイスの攻撃の方が、動くスピードが速かった。地面に付いていた、足から黒鴉は氷に囚われた。頑丈な氷がもう完全に動きを封じていた。
それは意外とやっかいな魔法だな、と僕は思った。強さも速さも問題ないなど、何とも素晴らしい魔法である。元の氷の世界は詠唱は長いとしても、ここまで実用性。いや、実践用の魔法があるのは珍しいのだった。僕はその貴重さを一層理解した。彼はそれが一発しか放てない事から、ここに左遷されて来たとも言えた。が、今は身近な剣があれば同じような事が出来ると言う事だった。
そこまで出来るとは思っていなく、セイスは呆然と立ち竦んでいた。アレスと訓練をしていた時より、勢いもあった事でこれまでない威力を目の当たりにしたからだった。彼もただ少しだけ放てると、思っていただけだからだろう。
「ーー散れっ」
と、これまで見ていたアレスが瞬時に動き出した。
そして、一番弱っている様子の黒鴉に最後の一撃を加えた。アレスの手慣れた魔力操作により、剣で黒鴉は真っ二つに割れた。それも散るようにだった。
僕としては、死ねと言うよりかはましだったけど、まだ怖いままだった。普段は物静かな少年なのに、こう言う時だけ豹変する。将来はそうなるのか、少し心配になった。
「何か言った、レイ?」
と、またまたアレスが聞いて来た。
が、僕は丁寧に頭を左右に振るだけで終えた。アレスの攻撃もセイスのように、怖かったから。決して魔物役にはなりたくなかった。
「うん。結構慣れている様子だね。後は実戦でどう使えるかに懸かっているのか…これからも頑張ろうか」
と、僕は疲れている様子の団員に言った。
アレスはと言うとまだ戦い足りない様子だったので、僕は別の話題を振った。
「アレスは冒険者のランクはどうなったの? 順調?」
「うん、順調だよ。レイが教えてくれた事を取り組んだから、もう後少しで次のランクに行けるぐらい。今では放課後の日課になっているほど。ジークは少し忙しくて、出来ない様子だけど」
やっぱり、早いなと僕は思った。流石とも言えるけど、早い。
「そうか。なら、よろしくと伝えてくれ。これからこっちはする事があるから、帰る前にどこかに回って来てもいいと思うよ。ジークが許可したのだから」
「うん、そうだね」
と、アレスは頷いた。
「なら、適当にどこかに行くね」
僕とアレスは別れた。彼の背中を見つめながら、背後で誰かが呟いていた。これぞ、一瞬で現れては去る不思議な子供だな、と。僕も一度攻撃された時には驚いたけど、それが彼らしいとも言えた。
剣を直したセイスが近付いて来た。
「ここまで出来るとは思わなかったよ、レイ。でも、これで魔物狩りでの死傷者も減らせると思う。誰もが魔力を持っているから、誰もが使えるようになる」
「そうだね…」
僕はそう言う観点から物事を考えた事がないのだった。そう言う考え方もあるのだと、一人納得した。
「だけど、その前に少し休憩を入れたいかな。これまで以上に体力を使ったかもしれないから」
「あぁ…そうですね。私なら、死にそうになりそれだけでは済まないが」
「そう? セイス副団長なら結構いい線だと思ったのだけど」
と、僕は両手を頭の後ろで組んだ。
セイスはいやいやと言う風に、片手を顔の前でぶんぶん横に振った。よほど、嫌のようだった。
「嫌です、無理です。まだ死にたくなので。第一騎士団長をやると言う事はそれだけで十分」
「そうか…なら、そう言う事で」
と、僕は頷いた。
隣のセイスが何とも嬉しそうに深呼吸をするのが聞こえた。
「なら、帰ろうか…家にっ」
「はい」




