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第四十四話 プレイン・バーン作戦 後編 Ⅰ

第四十四話 プレイン・バーン作戦 後編







 剣と魔法の世界ローミリア大陸。

 この世界で絶対的な力を持つ、大陸最大の宗教勢力グラーフ教。ホーリスローネ王国内に存在しているグラーフ教会を中心に、大陸で広く信仰され続けている。この宗教の歴史はとても古く、大陸全土に戦火が広がったあのローミリア大戦以前より、絶大な影響力を持って存在していた。

 グラーフ教は、この大陸がまだ剣と魔法の世界と呼ばれる以前から、その前身となる宗教勢力として存在していたと言われている。その時代、人々から女神と崇め奉られ、グラーフ教を創りし存在がいた事は、今も伝説として語り継がれている。

 但し、グラーフ教を創った女神が今も尚、グラーフ教の真の支配者として生き続けている事は、極限られた人間しか知り得ない。


「んふふふっ⋯⋯⋯、あれも中々やるじゃない」


 グラーフ教会大聖堂に隠された地下神殿。いくつも置かれた魔法石の光が照らし出す、地下に造られた幻想的な空間。そこには、永劫の時を生き続けていると言われている、グラーフ教の女神の姿がある。

 女神の名は、ジャンヌ・ダルク。永遠を生きる妖艶な女神は、自らの玉座と言える神殿内の台の上で、自分の身よりも大きな羽毛のクッションの上に寝転がっている。右眼は赤く、左眼は緑のオッドアイを持つ彼女は、宝石の様なその二つの瞳を台の下に向けた。

 彼女が向けた視線の先には、報告のためにここまで足を運んだ、グラーフ教会大司教の姿がある。顎に白髭を蓄えた六十歳を超える大司教は、興味津々で話の続きを待つ彼女のために、今朝入ったばかりの最新の報告を続けた。


「オズワルドが盗み出した物の内、大規模結界を張る魔導具は今も使われているようですな。結界で兵を隠して奇襲を行ない、同盟軍相手に善戦していると聞きます」

「もう一つの方はどうなの? まだ使い渋っているのかしら」

「そのようで。陣地には運び込まれているはずですが、未だ起動を躊躇っているようです」


 大司教の報告を聞いたジャンヌは、一瞬だけ顔をしかめて機嫌を損ねたが、少し考えて直ぐに邪悪な笑みを浮かべた。怪しく、狂気に満ちる笑みを浮かべた彼女は、自らの確信によって機嫌を取り戻していた。

 

「王国の雑魚共は役に立たないけど、精強なゼロリアスとジエーデルがいる以上は使わざる負えなくなる。その時あれは、地上を地獄へと変える最高の舞台を開いてくれる」

「そのために、あれらをわざと持ち去らせた。ジャンヌ様の企み、オズワルドは気付いているでしょうな」

「企みだなんて人聞きの悪い。私はあれに道を示してあげただけ」


 グラーフ教打倒のために戦争を起こした、新興宗教勢力ボーゼアス教。それを率いる男の名は、オズワルド・ベレスフォード。かつてこの男は、グラーフ教会に席を置く神官の一人だった。

 

「あれは賢い方よ。私の考えを知っているから、私を倒すための矛盾に苦しんで躊躇っている」

「しかし、いずれは必ず使うと御考えで?」

「間違いなくね。本当はもっと早く使って欲しかったけど」


 かつてのオズワルドは、熱心にグラーフ教を信奉する神官だった。大陸の秩序と平和を願い、グラーフ教の教えを説き続けていた。その彼を変えてしまったのが、女神ジャンヌの存在だった。

 永劫を生き続ける女神の存在を知り、地獄と絶望を求める彼女の飢えを知ってしまった。その瞬間彼は、自分の信じていた神の全てが間違っていた事に気付き、この世界を支配する諸悪の根源を知ったのだ。

 女神ジャンヌ・ダルクを生かしておけば、これから先も多くの人間が命を弄ばれ続ける。それを阻止するためには、女神を倒す以外に方法はない。女神の打倒を決意したオズワルドは、グラーフ教会の宝物庫から二つの魔道具を持ち出して脱走し、教会が放った追手からも逃げ延びた。

 そして彼はボーゼアス教と言う名の宗教を創り上げ、グラーフ教相手に宣戦を布告したのである。全ては、大陸に争いを引き起こし続け、人々を苦しめ続ける女神を打ち倒すためだった。それだけが、教祖となって平和のために立ち上がった、オズワルドの望みなのである。

 

「ところで、例の女は調べ終わったの?」

「はい。ジャンヌ様が知りたがっておられたヴァスティナの宰相ですが、名はリリカという金色の髪の女だとか」

「リリカ⋯⋯⋯。んふふふっ、やっぱりそうだったのね」


 ジャンヌが大司教に調べさせていた、ヴァスティナ帝国宰相についての情報。宰相の名と特徴を聞いただけだが、彼女は一人自分の勘が正しかったと知った。

 あの女がこの世界にいる。その事実は、ボーゼアス教の大反乱以上に彼女を興奮させた。何故なら、ヴァスティナ帝国宰相が自分の知る通りの女であったなら、ボーゼアス教が起こした戦争などとは比べ物にならない、この世界の全てを呑み込む絶望を生み出せるからだ。


「汝、憎悪を捨てることなかれ。さすれば汝、紅き芳醇な美酒を得られん」

「⋯⋯⋯如何致しますか?」

「ジエーデルの鴉に会って私の存在に気付いたなら、時期にあの女の方から逢いに来る。久しぶりに話がしたいから放っておいていい」


 ヴァスティナ帝国宰相リリカ。ジャンヌが彼女の存在を知ったのは、ヴァスティナ帝国が急速に国力を増大させ、大陸中央へと進出を果たした事がきっかけだった。

 大胆不敵な手段と圧倒的な美貌を武器に、帝国の政治を支え、各国と外交交渉などを行なう彼女は、大陸中で目立つ存在となった。目立つからこそジャンヌの耳に話しが届き、もしやと思った彼女が調べさせた結果、予想は的中していたのだ。


「ああ、早く逢いに来ないかな。こんなに胸が躍るのはローミリア大戦以来だわ」


 最高の楽しみが増えたと思い、ジャンヌは妖艶な笑みを浮かべて嗤い続けた。

 美しい女神なのは姿形だけ。見る者を戦慄させる今の彼女の姿は女神というより、禍々しい姿をした邪神だった。

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