第四話 リクトビア・フローレンス Ⅱ
剣と魔法の世界、ローミリア大陸。
この大陸の南には、小さな帝国が存在する。その名は、ヴァスティナ帝国。
豊かな土地と自然に恵まれたこの国は、かつて強大な帝国であった。しかし、それは昔の話であり、今は南に位置する、小さな国家に過ぎない。
帝国を中心に、その周囲には、いくつかの小国と街があり、集落も存在しているのだが、今回旅に出たリックたち一行は、帝国と友好関係にある、とある小国を目指していた。
国の名前はチャルコ。帝国よりも小さな国で、経済力も軍事力も小さい。
そんな国に対して、帝国軍参謀長であるリックの用とは、ここに集まっているという、新たな戦力獲得と、周辺諸国の状況確認であった。
彼の気持ち的には、修学旅行のようなものである。
「小さいけど良い国だな。チャルコって言ったか、飯は美味いし城下は綺麗だ」
「同感です。特に料理は素晴らしい」
「平和なところだね。争いとは無縁の国に見えるよ」
帝国を出発したリックたちは、特に何事もなく、チャルコへと到着した。
到着してすぐ、先に食事を済ませたリックたちは今、街の中を散策している。
「ねぇリック、あの屋台のお菓子が食べたい」
「自分で買ってくれ。というか、さっき飯食ったばかりだろ」
「ふふ、お菓子は別腹さ。それに、レイナも食べたいみたいだよ」
リリカに言われて、レイナの方を向く。確かに彼女は、屋台の菓子に目が釘付けである。
とても食べたそうだ。目がキラキラしている。
「お前たち・・・・・・。本来の目的忘れてるだろ」
そう、この旅の目的は、チャルコの城下町食べ物巡りではない。
リリカが独自の情報網で手に入れた、新戦力獲得こそが目的である。
情報によると、小国チャルコに対した軍事力は存在しない。しかし、ここ最近にあった野盗集団の襲撃で、チャルコは傭兵戦力を集めていた。
野盗集団の大規模行動で、この国自体は損害を被ることはなかった。だが野盗集団は、周辺のいくつかの村を襲い、さらには街一つを蹂躙したのだ。
その野盗集団は、ヴァスティナ帝国軍と騎士団で壊滅させ、前代未聞の大規模襲撃は、短期間の内に鎮圧されたのだが、この事件は周辺諸国に危機感を覚えさせた。
実害がなかった国でも、今回のようなことが今後起こっても対処できるよう、防衛力の強化に努めたのだ。
小国チャルコもそれは同じで、野盗などに対する防衛力強化のために、戦闘慣れした傭兵部隊を雇い入れ、自国の兵士を訓練させている。実戦に慣れている傭兵部隊から、戦闘のノウハウを学ばせることにより、防衛力の強化を図ったのだ。
リックたちの目的は、このチャルコにいるという傭兵部隊である。
この傭兵部隊の隊長は、リック配下の戦闘部隊員ヘルベルトの知り合いらしい。ヘルベルトの話では、昔この部隊の隊長の命を、戦場で助けたことがあるらしく、自分の名前を出せば、どんなことでも聞いてくれると言うのだ。
獲得しようとしている新戦力。それはこの傭兵部隊のことであり、ここまで足を運んだ目的なのだ。
「先に用事を片付けるぞ。散策はその後だ」
「まったく、両手に花の旅であるというのに、仕事のことしか頭にないのかい?」
「そんなことはない。正直、俺はお前たち二人とイチャイチャしたい」
「そうかそうか。ふふ、正直でよろしい」
妖艶な笑みを浮かべるリリカは、リックの左腕に手をまわして抱きつく。腕に当たる豊満な胸と、漂う女性の香りが心地いい。
「正直者にはなんとやらだよ」
「そうだな。俺、これからは正直に生きるぞ」
「リック様、リリカ様!公衆の面前でそのような・・・・・」
確かにリリカの行動は目立つ。唯でさえ、誰もが見惚れる美貌の持ち主なのだ。
それが男と一緒にいて、しかも抱きついている。周りの羨ましがる視線が突き刺さった。
当然それは、招かれざる者たちを引き寄せる結果となる。
「おい兄ちゃん、えらく美人な女と一緒にいるな」
「なあ美人さんよう、こんな大したことねぇ男といるより、俺らといいことしようぜ」
五人組のがらの悪そうな若者たちが、リックたちの前に立ち塞がり、安い挑発をかけてきた。
平和な国であろうと、こういった者たちがいるのは、当たり前なのであろうか。何にせよ、一つだけ言えることは、彼らは己の分というものを、理解していないということだ。
若者たちのリックに対する挑発で、一瞬にして怒りが募るレイナを、手を出して制止するリリカ。リリカが制止していなければ、彼らは彼女の槍で、秒殺されていただろう。
「お前たち、私は今機嫌がいい。だから言うのだけれど、死にたくなければ今すぐ消えるといい」
「はあ、なに言って---------」
若者たちの一人が言いかけたその時、突然伸びてきた右手によって、一人が顔面を鷲掴みにされた。さらにそのまま、片手で持ち上げられ、若者の足は宙に浮く。
持ち上げられた若者も、他の四人も、起こったことが信じられずにいた。先程まで、自分たちが挑発していた男が、なんと、右手一本で若者を軽々と持ち上げたのだ。信じられるわけがない。
しかし、この驚異的な力を見慣れてしまっているリリカとレイナは、やはり平然としていた。
「くそが。せっかく人がいい気持ちに浸ってたっていうのに、邪魔しやがって」
「ぐわっ!?痛い痛い痛いっ!!顔が砕けるっ!!」
若者を苦しめているリックは、本気の力を出しているわけではない。だがリックの握力は、人間の顔面を掴んで、体を宙に浮かせられることが簡単にできてしまう程、強力なのだ。腕力も常人を超えている。
この力は元々、リックに備わっていたものではない。この世界で気が付くと、勝手に身に付いていたものである。この力は日を追うごとに成長し、今ではこの程度のことも、楽に行なえてしまう。
リンゴなどの果物は、本気を出さずとも握り潰すことができ、本気を出せば、人間の頭を握り潰すこともできるだろう。無論、まだ試したことはないが。
「このまま握り潰そうかな。こんな屑一人殺しても国に影響ないだろ。寧ろゴミを掃除したんだから感謝して欲しいくらいだ。なあそこの四人、こいつ殺していいか?」
「やっ、やめあがああああああああっ!!」
少しずつ力を入れて、痛みと恐怖を与えていく。じわじわと迫る痛みと恐怖で、悲鳴を上げる若者。
他の若者たちは、目の前で起こっている光景に、恐怖を抱いて動けない。何よりも、リックの目に宿る怒りと殺意が、彼らから抵抗しようとする意志を奪ってしまった。
リックは今、リリカに近寄る者たちのせいで、怒り心頭である。自分の心地よい時間を邪魔されたという理由もあるが、彼女を脅かそうとする下衆の存在が、どうしても許せないのだ。今の彼には、怒りと殺意しかない。
その怒りと殺意の対象が、街のチンピラであろうと、彼には関係がないのだ。
「リック、こんなところで流血騒ぎは困るよ。私の食欲がなくなる」
「悪い、その考えはなかった」
リリカの言葉に、先程までの怒りはどこへやら、右手を離して、若者を解放する。
地面に落とされた若者は、痛みに苦しみながらも、恐怖の存在であるリックから、一刻も早く逃げ出そうと駆けだしてしまった。同じように恐怖にかられ、他の若者たちも逃げ出す。
あっという間に、事態は解決してしまった。
「リリカ様、何故私を止めたのですか?あのような輩など、リック様のお手を煩わせずとも、私が」
「可愛いねレイナは。こんなに忠義に厚くて可愛いというのに、あの若者たちは、私にしか目がいかなかったよ」
「わっ、私はリリカ様が言うように可愛くなどありません。ですが・・・・・・・、あの破廉恥剣士も言いますが、私、そんなに女としての魅力がないのでしょうか・・・・・・」
真面目な性格だからなのか、他愛ないことでも本気で悩んでしまう。
クリスには出会った瞬間に、何もかも中途半端の女と言われ、今までも彼女は、誰かに綺麗だの可愛いなどと言われたことはなかった。レイナを可愛いと褒めるのは、彼女を可愛がるリリカくらいだ。
「そんなに悩むなよレイナ。お前は可愛い」
「リック様っ!?」
「真面目なところとか、意外と大食いなところとか、綺麗な赤い髪とかさ。こんないい女の子と一緒に旅ができて、嬉しいと思ってる」
「はうっ!」
驚きと恥ずかしさに妙な声を上げ、耳まで真っ赤にして、照れてしまったレイナは、人に見せるのも恥ずかしい表情を隠すため、冷静さを失い、急いでリリカの胸元に顔を埋める。
こういう反応もまた、彼女の可愛さだと思う二人であった。
少々問題に遭遇したリックたち一行であったが、本来の目的を果たすため、道を進んで行く。途中、聞き込みなどをしつつ、傭兵部隊のいるという場所を目指していった。
「ふーん、見かけによらず凄いんだ」
先程までの一部始終を、物陰から観察していた者が呟く。
その者は、獲物を見つけた狩人の様に、舌なめずりしてリックたち一行を見ている。
三人はその者の存在に気付くことはなく、楽しそうに会話をしながら歩いて行った・・・・・・。
それから次の日。
チャルコの城下にある宿で、一日休んだリックたち一行は、興味がてら街を散策していた。
今こうして散策しているのは、勿論旅の目的を果たしたからに他ならない。
「それにしても、簡単にことが運んで良かったな。おかげで早く帝国に帰れそうだ」
「ふふ、後は陛下や皆にお土産を買っていくだけだね」
「陛下はどんなもの喜ぶんだろう。女の子が喜びそうなものってなんだ?」
「リックが買ったものならなんでも喜ぶさ。あの子はお前のことを好いているのだから」
帝国に戻った時のために、小国チャルコで売られているものを、お土産にと考えている。
お土産選びに悩むことが出来るのも、目的を達成できたからだ。
昨日、目的の傭兵部隊はすぐに見つかり、三人は部隊長に接触するため動き出した。傭兵部隊はチャルコ城の近くにある、チャルコ軍駐屯地にいると聞き、三人は駐屯地前まで到着した。しかし部外者である三人は、当然駐屯地に、正面から乗り込むことはできない。
下手に乗り込んで問題になれば、友好関係にある国同士の、外交問題となる可能性がある。それは避けなければならない。そのためリックたちは、見つからないよう駐屯地に侵入した。
所謂、潜入任務というやつである。幸いなことに警備は甘く、潜入が素人のリックとレイナでも、何とか見つからずに済んだ。
驚くべきはリリカである。このようなことが初めてではないのか、警備の薄いところを見抜き、サクサクと進んでいったのだ。リックとレイナは、頼もしい彼女の背中に続いただけである。
彼女のおかげで見つからず、無事に傭兵部隊のもとへと到着した、一行を待ち受けていたのは、鋭い目つきをした男たちと、男たちを指揮する隊長であった。
隊長の名はロベルトと言い、リックがすぐにヘルベルトの名前を出したことで、侵入者だなんだという騒ぎにはならずに済んだ。
ロベルトは昔、とある戦場で孤立無援となったことがあり、その時彼を助けたのが、ヘルベルトであったと語る。命を助けられた借りがあるため、ヘルベルトの頼みであれば聞くと、彼は言った。
ロベルト曰く、「奴は命の恩人だ。俺がこうして戦えるのも奴あってのことだ」と言うことらしい。ちなみに、二人の名前が似ているのは偶然らしい。
ヘルベルトが今現在、自分の部下であると教えたリックは、ロベルトとその仲間たちに、帝国に来るようにと説得した。帝国に来てリックの配下となることが、命の恩人であるヘルベルトの頼みだと教え、ロベルトはそれに従うと宣言したのだが・・・・・・。
「俺たちの命を預ける価値があるかどうか試させろ。俺と勝負だ」
そう言ってロベルトは、リックへと戦いを挑み、気が付けばお互い、素手で殴り合っていた。
やはりというのか、いつも通りと言うべきか、結局、戦わなければ気が済まないと言うことなのだろう。リック自身も、こういう事態は覚悟していたため、特に驚くことなく勝負に応じた。
二人の殴り合いに、ロベルトの仲間たちは湧き上がり、どちらが勝つかに金を賭け始めた。大陸共通通貨のベルを賭ける男たち。大半はロベルトに賭けられていたが、どちらが勝つかわかっていたリリカは、自分の手持ちからリックへと賭ける。
結果は彼女の予想通り、二十分ほどの激闘の末に、リックが勝利を収めた。ロベルトは素手の格闘戦に技があり、思うように戦えなかったリックではあるが、普段の訓練の成果と、持ち前の運が、勝利をもたらしたのだ。
リックが知る中で、誰よりも強い存在であるメシアが、普段から彼に稽古をつけている。彼女の強さに比べれば、ロベルトの技など、打ち破れないはずがない。何より、ヘルベルトたち鉄血部隊と大乱闘を繰り広げ、見事勝利を収めたこともある彼が、ロベルトに勝てないという道理はない。
それを知るリリカにとって、リックの勝利に賭けないなど、ありえない選択であった。
ロベルトに勝利し、約束通り彼の率いる傭兵部隊は、リックの配下となる事を誓った。力ある者に従うことが、この部隊の特徴で、ロベルトとその仲間たちは、彼の力を認めたのだ。
この国での仕事を済ませたら、彼らは帝国へ向かうと約束し、帝国軍は新たな力を、予定通り獲得したのである。
「ところでレイナ。賭けに勝ったから沢山お金があるのだけれど、何か食べたいものはない?なんでも買ってあげるよ」
「しかし私は------」
「今回なにもしてないってか?」
「はい。ですから、何か買って貰うなど・・・・・」
「レイナは私とリックを護衛する役目を果たしているよ。だからご褒美をあげたいのさ」
レイナに近付き、その頬に触れて、優しく語りかけるリリカは、まるで娘を可愛がる母親の様である。
リックもであるが、彼女もレイナに対して、ついつい甘やかそうとしてしまう。
遠慮しながらも、リリカに勧められるまま、何を選ぶかを考え始めた彼女に、お菓子などの食べ物はどうかと、リックがいくつかの屋台を勧める。
そんな時だった。
「ねぇねぇ、そこのお兄さん。よかったら僕と良い事しない?」
リックの背後から、急に目の前に現れた存在。見た目は可愛らしい女の子であり、歳はレイナと同じくらいに見える。桃色の髪をショートに整え、星形の髪飾りを付けているこの少女は、男であるリックに話しかけた。
薄着で、上も下も露出の多い服装の、明らかに誘っているこの少女。人のいないところで、男に体を売って金を貰う、その手の商売女であることは明白だ。
「リック、私たちがいるというのに、まさか誘いに乗るなんてことはないよね?」
「もっ、もちろんだ。俺がこんな誘いに金を使うわけないだろ、はははは・・・・」
「えー、僕と遊んでくれないの?一緒に楽しもうよ、お・に・い・さ・ん」
「・・・・・・・・」
今、リックの心は激しく揺れている。
けしからん格好の、けしからん美少女が、自分のことを僕と言って迫るのだ。心揺さぶられないわけがない。もし一人でいたのなら、間違いなく誘いに乗ってしまっていただろう。
ここで乗らないなど、男ではない!
(僕っ子だぞ。僕っ子美少女がリアルにいるんだぞ!何故だリリカ、ここは男としていかなければならんだろ!!)
彼女がいる限り、この美少女と一緒に楽しむことは不可能だ。無理にでも一緒に行けば、後が怖い。
「貴様のような痴女の相手をリック様がするものか。失せるのだ」
「こわーい、そんなに怒んないでよ。お兄さんリックって言うんだね。僕と遊ぼうよ、リックお兄さん」
そう言って、この僕っ子美少女はリックへと抱きつき、自分の体を擦り寄せてくる。背は低く胸はないが、綺麗な肌と小悪魔のような笑みが、男心を刺激する。
少女がリックの足へと自分の足を絡ませ、彼が逃げられないようにしてしまう。その時だった。
「ん?・・・・・お前、もしかして」
「あれ、ばれちゃった?」
ある違和感で、少女の正体に気が付いてしまったリック。だがリリカとレイナは、彼が一体何に気が付いたというのか、わからずにいる。いや、普通はわからないであろう。
正体を確認するため、話しかけようとしたその瞬間、突然の怒号と、四人の横を慌てて走り去っていく男のせいで、話しかけられなかった。
何事かと、怒号が聞こえた方を向くと、ものすごい剣幕の男が、走り去っていった男を睨んでいる。
「待ちやがれ泥棒が!!」
どうやら、店の商品を盗まれた店主が、走り去っていった泥棒へ怒鳴ったところに、遭遇してしまったようだ。
泥棒は慌てていたために、逃げる途中、道を歩く人にぶつかり、そのせいで見事に転んでしまった。何とか立ち上がろうとする泥棒。リックたちとの距離は、約九十メートル以上はある。
捕まえようと考えれば、リックの身体能力で簡単に捕まえられる距離だ。
そう考えたリックだが、近くにあった武器を取り扱っている、屋台のような店を見て、あることを思いつく。
「この距離なら弓矢で仕留められるな。俺には無理だけど」
「そうなの?じゃあ、僕が仕留めるね」
無邪気に笑った少女は、近くの武器屋から、弓と矢を無理やり持ち去り、立ち上がって逃げようとする泥棒目掛け、弓を引いて矢を放つ。
少女が放った矢は、泥棒の右足を正確に射貫き、刺さった矢の痛みによって、その場で倒れ込み動けなくなる。動けなくなった泥棒に、怒る店主が追いつき、店の商品を取り返した。
少女のたった一本の矢と活躍により、泥棒騒ぎはあっけなく終結。武器屋に弓を返した少女は、小悪魔笑顔を浮かべ、再びリックたちのもとへと戻ってくる。
ただの娼婦かと思えばこの少女、弓の扱いに長けている。一体何者なのか。
「いい腕をしてるな。あの距離で殺さずに、足だけを狙うなんて」
「あれくらい余裕余裕♪♪もっと距離があっても射止められたよ」
「どこかで訓練でも受けてたのか?」
「昔教わっただけだよ。別に弓じゃなくても、飛び道具なら弩でもなんでも百発百中だから」
「確かに弓の腕は見事だったが、その話は信用できない。リック様に嘘をつくなど、私が許さないぞ」
たった一発であったが、その一発で、少女の弓の技量を正しく評価できる。
武術家であるレイナの目は、少女の放った先程の矢が、まぐれでないことを理解している。しかし、飛び道具ならば、どんなものでも同じことができると言うのは、流石に信じられるものではない。
それは最早、天才的才能を持っていることを意味するからだ。或いは、どこかで特殊な訓練を受けた兵士であるか。
いつもの悪い癖ながら、少女に興味を抱き始めるリック。先程までの僕っ子への興味ではなく、この少女の飛び道具の技量にである。
弓矢だけでなく、飛び道具なら、何でも百発百中であると公言するこの少女に、リックはあることを試させてみたいと、思わずにいられない。
今ならば、量産体制に入ろうとしている試作品が、帝国で完成しているはずなのだ。
だがその前に、ある重大なことを確認しなければならない・・・・・。
「それで、リックはこの少女の何に気が付いたんだい?」
「私も気になっておりました」
興味津々の二人の言葉に急かされ、正体を教えるため、少女の股間へと指差し、一言。
「この子、ついてるんだ」
言葉を理解し、開いた口が塞がらないほど驚愕するリリカと、彼の言ったことがまったく理解できず、何がついているのかを、真剣に悩むレイナ。
「リック様、一体なにがついているというのですか?」
「なにって・・・・、だからナニがついてるんだけど」
「申し訳ありません、私にはそのナニというのがわからないのです・・・・・・」
「つまりだな、この僕っ子にはお〇〇〇んがついてるってことだよ」
「なるほど、お〇〇〇んですか。それならば私にもわかります。・・・・・・・・・・・・・・えっ」
その場に凍りついてしまった彼女は、少女の股間を凝視する。
冗談ではないかと、リックの顔を確認するのだが、その表情は真剣そのものであった。
再び股間を凝視し、リックの顔を確認。股間を凝視、顔を確認、股間を凝視、顔を確認・・・・・。繰り返すこと五往復。
「おっ、おっ、お〇〇〇んが本当についてるというのですか!?」
「そうだ。この子にはお〇〇〇んがついてる」
「信じられません!どう見ても女にしか見えませんし・・・・・。ほっ、本当に・・・、おっ、お〇〇〇んが・・・・・!?」
「間違いない。この少女の股間には、間違いなくお〇〇〇んがついてるんだ!」
信じられない事実と、その衝撃によって、頭のネジが何処かへ飛んでいってしまったのか。熱くなって、卑猥な言葉を連呼しているリックとレイナに、何事かと奇異の視線を向ける道行く人々。
「やめないか二人とも。流石の私も恥ずかしいよ・・・・・・・」
珍しく恥ずかしさに赤面したリリカの言葉に、自らの異常さを思い返す二人は、冷静さを取り戻して、咳払いをした。
とにかく落ち着いて、小悪魔笑顔の最早少女と呼べない子を見る。
見た目はどう見ても女の子であるのだが、この子には、女性には絶対についていないものがついていたのだ。
「えーと、とりあえず自己紹介してくれないか?」
「いいよー!」
先程までのやり取りで、何故そうもご機嫌でいられるのだろうか。
どう考えても一番被害を被ったのは、彼女・・・・・いや彼だというのに。
「僕の名前はイヴ。イヴ・ベルトーチカ。見た目は美少女だけど男の子です!よろしくね♪♪」




