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第二話 狂犬の戦士たち Ⅰ

第二話 狂犬の戦士たち







 剣と槍を武器として戦う多くの兵士たち。

 広大な戦場で、数えきれない程の兵士の波が蠢いている。先程までこの戦場は、多くの兵士が人海戦術をもって戦い、両軍の戦況は、五分の戦闘を繰り広げていた。

 だがその戦局は、この戦場に似つかわしくない、異形の軍団によって変えられることになる。


「進め、帝国の戦士たちよ!帝国と将軍閣下への忠誠を示す時は、今をおいて他にはない!」

「炎槍殿の号令が聞こえたか!全軍、突撃するぞ!!」

「「「「「ヴァスティナ帝国万歳っ!!」」」」」


 異形の軍団は全てが違っている。剣と槍が主力の武器として使われている戦場で、この軍団だけは、火薬の力で弾丸を撃ちだす、銃火器で武装している。他の軍団が甲冑などの防具を着けているのに対して、銃火器武装の軍団は、野戦戦闘服を着込んだ現代の軍隊のような姿であった。

 軍団では、何十両もの戦闘車両と装甲戦闘車が一緒になって行動している。このような装備と編成の軍団は、他には存在しない。先程、軍団の戦車砲が戦場で一斉に火を噴いて、突撃してきていた軍団に大打撃を与えていた。

 銃火器から弾丸が放たれ、戦車の主砲が咆哮する。車両に装備された重機関銃が唸り、後方陣地で榴弾砲が轟音を上げる。爆発で大地が地震の如く震動し、大きな粉塵が巻き上がる。

 銃弾と爆発でファンタジー世界の兵士たちは、瞬く間に殲滅されていった。


「圧倒的ですね、我が軍は」

「はは、なんだレイナ?戦いを見て疼きだしたのか」

「いえ、私は閣下の護衛という役目があります。決してそのようなことは」

「俺は大丈夫だ。行って遊んできてもいいぞ?お前が前線に立って敵軍を切り崩してくれれば、味方の士気も上がる」

「・・・・・・閣下がそう仰るのであれば。レイナ・ミカズキ、閣下の槍として敵を討ち掃います」


 将軍と呼ばれる男の傍に控えていた、赤髪の少女は槍を持ち、戦場へと歩みを進めていく。レイナと呼ばれた少女の後ろには、同じく槍を持った兵士たちが続いていった。

 槍を武器とした部隊は、前線で暴れている味方とは違い、銃火器ではなく、ファンタジー世界兵士と同じように槍装備だが、少女レイナだけはただ一人、十文字槍を武器としている。


「我ら、ヴァスティナ帝国烈火騎士団!戦場に我らの武を轟かせよ!全軍突撃!!」


 レイナの号令とともに、三百人の槍兵が槍を突出し、突撃を開始する。銃弾と爆発に恐れをなしている敵軍に肉薄し、一糸乱れぬ陣形と連携をもって、敵兵を討ち取っていく。 

 銃ではない、槍ならば恐れることはないと思い、手柄を立てる為に襲いかかった敵兵士は、尽くその槍の餌食となり、この軍団の練度の高さを示すことになった。

 味方の砲撃支援は止み、残った敵を掃討するため、銃火器武装の兵士たちも敵軍に近づき、近距離で銃弾を浴びせ戦った。瞬く間に敵は切り崩され、残った敵兵士たちは、皆が恐怖でばらばらに逃げ出し始める。


「くそっ!狂犬の犬が!」

「あいつだけでも討ち取れ!」


 未だ戦う意思のある敵兵士たちが、槍部隊の指揮官であるレイナ目掛け襲いかかる。その数は二十人を超えているのに対して、彼女は一人で対峙した。


「まだ戦う気概があるようだな」

「死ねえええーーーっ!!」


 口々に叫びながら、それぞれの武器を持ってレイナに肉薄する。だが彼女は、それに真正面から応える。

 まず、先頭の一人を、正確かつ鋭い突きで心臓を一突き。すぐさま槍を引き抜き、続けて襲いかかる敵にも、見事な槍さばきで急所を一突きの内に、沈黙させる。

 相手が武器を振り切るよりも早く、槍の長さと恐ろしく速い突きで、次々と敵兵が餌食となる。十文字槍が華麗に舞うように振り回され、彼女は十五人目の兵士の喉元を、一瞬の内に斬りつける。彼女の武は止まることがない。


「後ろもらったっ!」

「遅い!」


 一人の敵兵士が彼女の後ろに回り込み、剣を掲げて斬りかかろうとした。だが、その動きは彼女にとって、止まっているに等しいものだ。

 槍を持つ手が一瞬で動き、彼女は背中を向けたまま、槍の切っ先を後ろへと突き出す。切っ先は正確に、兵士の心臓を貫いて倒してしまう。見事なまでの彼女の武に、周りから感嘆の声が湧く。

 そうして一分が経った後、動く敵兵は存在しなくなっていた。たった一人の槍使いの少女が、二十人を超える敵兵を、死体へと変えてしまったのだ。

 周りもほぼ全ての敵を殲滅し、レイナの武勇と勝利によって、全体の士気は益々上がっていく。

 戦いはまだ終わっていない。士気は高ければ高いほどよく、これからの戦いのためにも、これを維持し続ける必要がある。


「我らの指揮は将軍閣下が執られている!故に敗北はない!!」


 少女の名はレイナ・ミカズキ。ヴァスティナ帝国精鋭槍兵部隊「烈火騎士団」隊長である。将軍の右腕であり、将軍からも部下からも信頼の厚い少女である。将軍に絶対の忠誠を誓い、一度先陣をきれば、十文字槍と彼女が敵陣を、鍛えられた武芸で粉砕することから、「炎槍」という異名で呼ばれている。


「ミカズキ隊長!敵の援軍が現れました!」


 部下の報告を聞いたレイナが見た先には、こちらに全力で向かってくる軍団を見ることができた。今しがた壊滅させた軍団よりも、多いであろう兵力規模である。

 その軍団に向けて、味方の戦車部隊が隊列を組み、一斉に戦車砲が放たれ、砲弾が敵軍団へ数秒の内に着弾する。炸裂した砲弾は敵兵を簡単に吹き飛ばし、一度に多くの命を奪っていくのがわかる。

 しかし、圧倒的な力を見せつけても尚、この軍団は突撃を止めることがなかった。数は何千人もいるのがわかる。


「こりゃあ敵の精鋭部隊っぽい感じだなぁ。面白くなってきたぜ」

「・・・・・何をしに来た。ここは私と烈火騎士団だけで十分だ」

「何言ってやがる、お前だけ前線で遊ぶなんてズルいだろ?だから俺も遊びに来たんだよ」

「私は閣下の命令でここに居る。遊んでいるわけでは断じてない」

「どうだか。傍から見たら結構楽しんでるように見えたぜ」


 赤髪の槍使い少女レイナの隣に現れ、彼女に声をかける者がいる。それは金髪の男で、顔は二枚目を思わせるものであり、腰には一本の剣を差している。言葉遣いと違い、見かけは気品が感じられる、所謂美男子と呼べる男だ。


「あの軍団は俺に譲れよ。お前はもう楽しんだろ?」

「遊んでいるわけではないと言っている」

「活躍してこいっていう命令なんだよ。それなら文句ねぇだろが」

「閣下の命令だと?・・・・・わかった、貴様の光龍騎士団の実力を拝見しよう」

「へっ、お前の烈火騎士団なんかより、俺らの方が上手くやってやるぜ」


 犬猿の仲とはこういうものを言うのだろう。この二人は、会って話始めてからというもの、誰が見てもわかるほど仲が悪い様子で、常にお互いを睨み合っている。

 とにかく相容れない様子だが、何故だか二人は、何処となく似た雰囲気を纏っていた。男と女、剣と槍、金髪と赤髪。共通点は全くない二人だが、似ているのは二人の纏う、戦いを求めた戦士の風格。

 この男もまた、ヴァスティナ帝国騎士団の隊長であり、彼女と対を成す存在でもある。

 突撃してくる軍団に対して、男は恐れることなく前進していく。その男の後ろから、剣で武装した三百人ほどの兵士たちが続いた。三百人が動くと同時に、味方戦車の砲撃は止む。

 騎士団は全員、目の前の敵に怯むことなく、そして男は、腰の剣を抜き放って眼前で構える。

 その構えは歴戦の騎士を思わせ、男の気品もあって、そこに立っているだけで目の離せない魅力があった。


「勢いだけの軍団だな。いくぞ!我ら、光龍騎士団!!眼前の猪軍団など敵ではない!」


 高らかに叫ぶ男の声に呼応する、剣を掲げた光龍騎士団。しかし彼らは動かない。

 何故ならば、戦い始めるのは、彼らの隊長が先陣をきってからと決まっているからだ。

 隊長である男の目前まで迫った、何人もの敵兵が武器を振り上げ、目の前の男を殺そうと、全力で突撃を仕掛ける。


「聞け!我が名はクリスティアーノ・レッドフォード!!お前らを今から地獄に送る男の名だぜ!」


 クリスティアーノと名乗った男は、剣を右手に敵の軍団へと一人で突撃し、肉薄した瞬間、眼前に見えた敵兵の胸を刺し貫く。レイナと同様に、心臓を正確に刺したその一撃で、敵兵は絶命し、刺した一瞬の内に剣を心臓より抜き、目にも止まらぬ速さで、眼前の何十人もの敵兵に剣突きを放つ。

 まるで、無数の剣が同時に突き出されている様に見える、正確かつ速い斬撃で、その刃の餌食になっていく兵士の死体が、次々と出来上がっていく。突くだけでなく、華麗な剣さばきで、流れるように敵を斬り伏せるクリスティアーノは、先程までのレイナのような戦い振りであった。

 一人で無双する自分たちの隊長を、しばらく静観していた騎士団も、二十人以上の敵が死体へと変わるのを確認すると、全員が突撃を始めて、瞬く間に剣で多くの敵を討ち取っていく。

 敵軍団の勢いは失われ、自分たち以上の強敵に接敵した敵兵は、当初の攻勢の主導権を完全に失くしていた。

 たった三百人の騎士団が、自分たち以上の大軍を蹴散らしてしまっている。

 ヴァスティナ帝国精鋭剣兵部隊「光龍騎士団」。隊長はクリスティアーノ・レッドフォード。「雷剣」の異名で呼ばれ、将軍の左腕として恐れられている。


「よーし、そのまま押しつぶせぇ!!」


 クリスティアーノが号令を放つ。

 だがしかし、光龍騎士団が敵兵を斬り殺し続けている最中、突然槍を掲げた烈火騎士団が突撃をかけ、先程までクリスティアーノたちの獲物であったものを、横取りするように敵兵を討ち取っていく。

 二つの騎士団の力は圧倒的で、数で勝るはずの敵は全く歯が立たずに、徐々に後退していく。

 この有利な状況に納得のいっていない者もいるが・・・・・。


「おい!ふざけてんのかよ、こいつらは俺らのもんだろ!」

「貴様に任せていては日が暮れる。それは閣下の作戦に支障をきたす」

「なにが日が暮れるだ!俺の方がお前よりも多く敵を斬ってるぞ!」

「そんなことは関係ない」


 また始まったと言わんばかりに、周りの騎士団の兵士は、皆がめんどくさいといった表情を浮かべる。レイナとクリスティアーノは、いつもこんなものなのだ。平常運転である。


「まったく、この泥棒猫が。俺はお前が右腕なんて認めてないんだよ。俺に代われ」

「ふざけるな!貴様に将軍閣下の右腕が務まるわけがない!私の方が相応しい」

「お前ら・・・・・・。戦場のど真ん中でまた喧嘩かよ」


 二人が驚き振り返った先には、二十代前半に見える一人の男が立っている。レイナはすぐさまその場に跪き、クリスティアーノは笑みを浮かべる。


「将軍閣下、見苦しいところお見せしてしまい申し訳ありません・・・・・」

「なんだよ、前線で遊びたくなったのか?将軍なんだから指揮だけしてればいいだろ」

「そうです閣下!ここは我ら烈火騎士団にお任せください。閣下の身にもしものことがあれば・・・・」

「大丈夫だ。クリスの言うとおり俺も暴れたくなってな。レイナが心配してくれるのは嬉しいけど、後方に籠ってるのは退屈なのさ」

「いえ、閣下の身を案じるのは私の責務ですので・・・・・」

「こいつ照れてやがる。脳筋槍使い様もリックの前じゃあ大人しいもんだな」

「貴様・・・・・、どうしても死にたいようだな」

「へっ、ここでやるってのか?」

「落ち着け落ち着け」


 それぞれ殺気を漲らせ、今にも戦闘を開始してしまいそうな二人の隊長。また始まったと言わんばかりに、溜め息をつく将軍。

 将軍の名はリック。しかしそれは、本当の名前ではない。

 リックが最も尊敬する女性に一瞬でつけられた名前であり、この世界で生きていくための名前でもある。

 彼はヴァスティナ帝国国防軍最高司令官で、その立場上将軍と呼ばれているのだ。だからこそ、将軍の護衛であるレイナは、彼に危険な最前線に出て欲しくはないのだ。

 もっとも、彼女がリックの身を案じるのは、彼が将軍だからという理由だけではないのだが・・・・・。


「喧嘩するのは戦闘に勝利してからだ。この戦いは圧倒的な勝利で飾らなければならない。それが女王陛下とヴァスティナ帝国のためになる」

「リックの女王陛下好きは相変わらず病気だな。まあ、俺はお前のそういうところも好きだぜ」

「必ずや、閣下の望みに応えてみせます。どうぞ、ご命令を」


 将軍であるリックの周りには、装甲車両部隊に銃火器武装の歩兵部隊。そして彼の両の腕である、烈火と光龍の騎士団とその隊長二人。

 あの頃。そう、この世界に迷い込んでしまったあの時には、想像もできなかったことだ。女王陛下と交わしたあの約束を叶える為に、今日まで戦い続け、今ではこれほどの軍をを従えるまでになった。

 これはリックの力だ。リックだったからこそ、ここまでの力を集めることができたのだ。


「全軍!奴らは獲物だ。一匹残らず殲滅せよ!!」


 命令とともに進軍を始める、ヴァスティナ帝国軍。機械の駆動音が鳴り響き、彼の軍はゆっくりと、確実に勝利へ向かって前進する。

 レイナとクリスティアーノも、自身の指揮する騎士団を率いて、次なる敵を探し前進を始めた。

 二人の頼もしい姿を見たリックは、信頼する両腕二人との、出会いを思い出す。


(あの出会いからどれだけ経ったか・・・・・)



 あれは運命だったのか宿命だったのか。

 一つだけ言えるのは、あの出会いがあったからこそ、今この力があるのだということだ。

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