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気合を入れなおし、戦闘モードよろしく肩をいからせてオフィスに戻ろうとした。
しかし、いよいよ戦場入口というところで。パートの佐田さんに声をかけられ、また廊下の隅へ引っ張られていく。
佐田さんはキョロキョロ辺りを見回しながら、人気のない角で落ち着いた。
「森田ちゃん、お節介かもしれないんだけどね、S社から待ってるのに電話がない!ってクレーム来てるよ。早く電話しなさいな」
「! えっ……そう、だったんですか」
「しっかりしなさいよ。清水ちゃんが花田主任に連絡してくれてたから、お礼言うんだよ」
佐田さんはそう言うだけ言って、先にオフィスへと戻って行った。
以前のように親し気に話しかけてくれることはなくなったが、”お節介”は焼いてくれるようだ。
気を張りつめていたのに、急に優しくされると泣いてしまいそうになる。ひっこめひっこめと目頭をグリグリと強めに押した。
ほんと、皆にどんな話が伝わっているのだろうか。
でも『本当なの?』だとか聞いてこないというのが答えなんだろうな。
それにしても、S社から連絡が来ていたことは知らなかった。連絡を見落としていたかと未だ電話中の清水さんを横目に、自分のデスクまで戻る。
一瞬席を外しただけで見知らぬ書類と資料が雑多に積まれている。ここ最近のよくある光景だ。溜息を殺しながら書類を軽く分けていくと、積まれたばかりの書類の間から付箋が出てきた。
それはS社から至急の連絡があったというメモだった。受け手の名前は記載されていないが、この筆跡は清水さんのものだ。
このメモが、置かれたばかりの書類の間から出てくるのもおかしいし、うちの部署ではこういったやりとりはチャット機能を使うことになっている。時間もやり取りも残るチャット機能では無く、わざわざ紙のメモを書類の間に挟むというやり方で来たか。
取引先を巻き込んでまで嫌がらせがしたいほど嫌われているのかと頭が痛い。
電話が終わった様子を確認し、清水さんのデスクに近づくと徐々に周りの声が落ちていく。
「清水さん、すみません。今、よろしいでしょうか」
「……はぁ、忙しいんですけど。誰かさんのせいで仕事増えちゃってー」
「……S社さんの件、対応してくださってありがとうございます。助かりました。それで、この清水さんがS社の連絡を取った際に書いてくれた付箋が書類の間から出てきたのですが」
「え!? 森田さんが連絡するのを忘れてクレーム連絡が来たのに、私のせいにするんですか?」
清水さんは私の手にある付箋をちらりと見て、声を張り上げた。
オフィス内のカタカタとキーボードを叩く音や話し声がピタリと止まる。
皆、何事かと手を止め注目していることがわかった。
「……いえ、次からチャットで連絡を飛ばしてもらえると助かります」
「えーっ。助けてもらったくせに文句言うんだ。こわーい。はぁ、こんなこと言われるんだったら森田さんの仕事のフォローするの嫌なんですけど」
隙を見せないように固めていた顔からストンと力が抜けたのがわかった。
その様子に清水さんも気付いたのか、眉を寄せ身を固くした。急にキレて殴りかかってくるとでも思っているんだろうか。そんなことをしたら私の立場が悪くなってしまうじゃないか。ああ、でももう悪いか。それなら