5ー⑤
「縁ぃ!!」
今度は叫ぶようにその名を呼ぶと、乙型の左脛に右掌で大きく平手打ちを放った。ぐわあんと、鈍い残響が響く。
「お前の母ちゃん、大人げなさすぎんだよこの野郎!!」
「何だと!?」
英雄の言葉に、思わず祥子は反応した。が、英雄は構わず続ける。
「なぁ縁、俺はまだソッチには行けねえや。お前の墓参りの時にも言ったけどよ、俺はお前たちの分まで生きて、どんな形でもいいから平和を守る為、軍に残るって決めたんだ…」
その形が、 整備兵として戦場に出る者たちを支えるという事だった。
「それに、今はもう一つ死ねない理由が出来たんだ。平行世界の俺が可愛い娘達を遺して死んじまったんだよ。俺はその子たちの世界を救うって約束したんだ……だから、まだお前らの所には行けねえ。 来るべき時が来たら俺もそっちへ行くから、クリスにもタマにも伝えといてくれ!」
英雄はもう一度乙型の脛をぴしゃりと叩くと、反転し祥子の元へ歩を詰めた。
「ババ……艦長!」
「…貴様、今『ババア』と言おうとしたな!?」
祥子の問いは咳払いで誤魔化し、 英雄は続ける。
「私は3年前、縁の墓前に誓いました。 あいつの分まで戦い続けると。それに、MMSに乗れなくなったのはもう大丈夫です。この子たちは私の本当の娘ではありませんが、父親は娘の為になら何だって出来ます!」
数十センチの間合いで目と目を合わせる英雄と祥子。
「いい目をするじゃあないか、 英雄くん。立派な戦士の目であり、親の目だ」
負けたと言わんばかりに視線を外し、祥子は頭を下げた。
「済まなかったな。息子の友である君までも死なせたくはなかったのでな」
そして、顔を上げると更に続ける。
「君の覚悟と志は解った。歓迎しよう、《《来満大尉》》」
祥子の差し出した手を、 英雄は握り返した。
「私と、あの世の縁を失望させるな。そして、その子たちを悲しませるなよ!!」
「了解!!」
力強く答える英雄。 霞、早坂、遠野、藤原の4人は思わず拍手を鳴らしていた。
「よし。早坂くん、遠野くん、藤原くん!手の空いた者を集めて食堂で歓迎会の準備を……何事だ!?」
霞が言い終わる前に、激しい揺れが香山を襲う。波の振動ではない。
「エゲツナー帝国だ! 総員、戦闘準備に就かせろ!」
「艦長!我々も戦います。 出撃命令を!」
早坂たちに指示を出す祥子に対し、 英雄は申し出る。
「解った。 君たちの覚悟を見せてもらおう! 来満大尉以下5名、出撃せよ!」
「了解!いくぞ、みんな!!」
英雄と娘たちは、甲板に立たせたままのキリンオーの元へと走り出した。




