キャラクターメイキング その1
4話目です。はたしてこの中に仕込んだネタに気づくひとはいるのだろうか…
「another world chronicle へようこそ」
柔らかな女性の声が耳に届く。どうやらゲームが始まったらしい。とは言え、目の前に広がるのは延々と広がる白い空間である。
「キャラクターネームを入力してください」
声とともに半透明のウィンドウが目の前に出現した。そこには名前を入力する欄とキーボードがあった。これで入力するようだ。
とりあえず、思いついた名前を入力してみる。名前の「想」をもじってThor…ダメか。既に存在しますとある。名前の重複はダメなようだ。ならdonner…これもダメ。まあどっちも北欧神話の有名な戦神を指しているし、ぶっちゃけ同一人物だし、すぐ思いつきそうな名前ではあるか。なら趣向を変えて、bediなどはどうだろう。
「入力に成功しました」
よかった。これでだめなら、次はTyrと入力していたが、流石にあからさま過ぎる。とりあえず先に進もう。
「次に、アバターの調整を行います」
そう言って眼前に出現したのは実に良く見慣れた自分の身体である。しかし、ここで何をするのだろう。以前読んだ科学雑誌で、あまりに大幅なアバターの変化は可能ではあるが現実の肉体との乖離が発生するのでできないようになっているとあったのだが。
「問題ありません。精々顔や身体のパーツの微調整ぐらいですから」
おおっ。思考を読まれたのだろうか。女性の声が頭の中で発した問いに答えてきた。ん?ここでこんな風に話しかけてくるという事は…
「はい。わたしはAIですよ。今のところ、皆様の案内役をさせていただいております」
やはりというか、彼女(?)はAIだった。しかしここまで違和感のない会話を行えるとは。すごい技術としか言いようがない。
「問題がなければ、アバターの調整を続けましょう。失礼なことを言わせて頂きますが、このままではプレイもままなりませんし」
それはそうなのだが、AI君。これ、どうやって調整を行えばいいのだろうか。
「ウインドウに、アバターと調整メニューが出現しているので、そこから調整を」
いや、そのメニューとやらがどこにも表示されていないのですが。
「……ゑ?」
押し黙ること、数秒。
「しょっ、少々お待ちくださいっ」
そう言って彼女の気配がいきなり消失した。AIの彼女が慌てるという事は、もしかしなくてもまずい事態らしい。バグだろうか?もしそうだったらいろいろとアウトだ。何しろこのままのアバターで放り出されるとなると100%「詰み」だ。
そんなことを考えていたら、思っていたよりも時間が経っていたらしい。唐突に「彼女」の気配が共に2つの人影が光と共に現れた。
「あのー、お二方は…」「初めまして。私、このゲームの運営と開発を行っている合同作業チームの責任者の吉岡と言います」「同じく、システム開発のチームリーダーの高野です」
そう言ってスーツ姿の二人が名乗った。
「どうも、佐賀美と言います…」「佐賀美様、今回、アバターの調整を行えないとのことでしたが、我々の方で調査したところ、一切の異常を検知することができませんでした...」
えーっ。それはどういうことなのだろうか。
「わかりません。まさかと思って、バグチェック班と専用のAIたちがトリプルチェックを行ったのですが、結果は『何もなかった』という事になっております」
嘘でしょ…けど実際何も出来ないんですが。
「ええ…しかし、同様のバグが発生したという報告も上がっていません。となると、あとはソフトではなく、ハード側の問題が考えられるのですが、お心当たりはございますでしょうか」
うーん…自分の行動を振りかえってみたが、機械に何か重篤なダメージを与えるような行動はしていない。
「一応、確かめておくべきでしょう。一旦簡易ログアウトを行って、ハードの自己診断を行ってみてください」
吉岡さんがそう言ってくれたので、試してみよう。もしかしたら何かあるかもしれないし。
「……どうでしたか」「…何も」
健康そのものでした。僕のESは決して故障したわけではないようです。
「やはり…」
どこからともなく彼女の声が聞こえてきた。
「ここまで調べても解らないとは…もう心当たりないぞ…」
高野さんが呻いているが、状況は変わらない。打つ手なしか…そう思っていると、
「あの、佐賀美様?」
そう声をかけてきたのはAIの彼女である。
「何か」「今までの情報を精査してみたのですが、佐賀美様、このままの状態でプレイするというのはいかがでしょうか」
成程そう来たか、それなら確かにこの不毛な状況を打破でき「いや待って。さっき自分でこの体じゃプレイもままならないって」「ええ。ですから…」
そう言って、彼女は自分のアイデアを語り始めた…
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