幕間 こちら運営管理室
36話目です。バロールさんとラグくんをナチュラルに間違えていた…不覚…!という訳で30話の文を一部修正。
「おーおーおー…よく見破ったな」ここはどこでもない場所。世界から隔絶された、全てを見渡せる場所。「なーに裏でカッコいいナレーションしてんだ。そんなことよりお前も来てこのログ見てみろよ」へーい。今行きますよー。
…改めて。ここは電脳空間。世界初のVRMMORPG『another world chronicle』の管理運営を行う場所。世界中にある物理サーバー管理者間の交流やサーバーを超えた監視を行う場所だ。そしてオレはここで様々なデータをあの世界に送り込む仕事をしている。
「うげ、あのビームの嵐を躱すか―。その割にその前のは躱しきれてないけども」「多分視界に入ってなかったんだろうな…他のプレイヤーに目向けてたし」「《ブランチ》を使いこなせてる…ほんとにあんな使い方出来るなんて…」「あ、あれ確か室長が『お人好し用』に用意したクエストの報酬だっけ」「例の完全隠しクエスト?あれクリアした人から問い合わせ来たんだけど…」「じゃあ次のアプデで公表するか。プレイヤーによってはバグ報告してきた人もいるし」
こんな風に、ここは様々な人達がプレイヤーたちのプレイ状況を見て楽しむ場所でもある…
「しっかし、アメリカサーバーのカオスはどうにかならんのかね」そうなんですよね~。あっちの人は血の気が多いのか、始まりの町が開始2週間で修羅の国と化しているし。「まあ室長は『それもまた世界の在り方』と笑ってたけども」吉岡さん…「アッハッハッハ」上座から渋い高笑いが聞こえてきた。あそこで高笑いしているダンディなおじ様こそ、この運営管理室の室長の吉岡さんである。こっちからすれば笑い事じゃないですよ…
もっとも、このゲームはそういう風に出来ている。設計段階ではこれはワールドシミュレータとして作られていたのをゲームとして作り替えたのだからそもそも何でもありだ。世界を壊すも救うも自分次第…という訳である。
「それはそれとして、だ…あのイレギュラーなプレイヤー…いまメインモニターで出ずっぱりの彼だが…彼のアバターのバグについて何かわかったか?」室長がそう空間内を睥睨すると、さっきまで漂っていたスチャラカな雰囲気は失せ、皆仕事用の顔つきになった。
「調べてみたんですが、やはりバグに相当するものは見受けられませんでした」「AIたちも何もないと…」「もしやと思ってシステム全体を探ってみましたが、不審なデータの揺らぎも見つかっていません」「そうか…」
そう言って室長は椅子に深く腰掛け、システム開発担当者の方を向き直ってこう言った。「高野君、君が以前言っていた『ハード側のトラブル』についてはどう思う」
「ハード側の自己診断プログラムでは異常なしとされていましたが…これだけ探しても見つからないとなるとやはり残るは…」「e-shpereのブラックボックスか…」
e-shpere。日本の新興ハードウェア・ソフトウェア開発会社「エンデュミオン」が開発した、VR・AR対応型マルチデバイス。その根幹システムである『人間の意識を仮想空間の肉体に転送する』技術は、ブラックボックスとして社内外に秘匿され、その詳細を知るのは世界に数名、そしてシステムの全容を把握しているものとなると、実際に制作を行うAIを除けばこの世にただ一人となっている。
「先方に問い合わせは?」「とうの昔に。ですが未だ音沙汰なしですね」「ハァ…」
つまり現状、オレたちに出来ることはなく、全くの手詰まりという事だ。
「まあ仕方なかろう。あちらも忙しいだろうしな…この件は継続調査という事で、引き続き頼む。それじゃあ…次の話をしよう。アップデート、ひいては公式イベントについてだ」
そしてオレたちは目下の課題である、次のアップデートについて、意見を戦わせるのであった。
「だからカッコいいモノローグはいいからこっち来い」「へーい」
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