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円卓の空席はC  作者: 隆成
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「例の未解決事件のことで話があるの」息を呑んでから語気を強めた。「私、犯人に目星がついたの」



 世田谷区の結婚相談所に配属されて三年目の春。オフィスビルの裏通りに並ぶ桜木が色づくくらい目まぐるしい早さで、美織は仲人として着実に成長していった。

 彼女の最大の武器は持ち前の社交性だ。人懐っこく世話焼きの性格である。誰に対しても親しみと思いやりを込めた計らいで、恋に悩む相談者たちの心を掴んでいた。


 結婚支援の企業に勤めることは学生時代からの憧れだった。その頃の経験が少しは役立っている。部活で会得した恋愛術も存分に発揮できた。また、最新の流行り物の調査や時代の流れで微妙に変動する男女の心理動向についての勉学にも抜かりがなかった。だが、ここまで切り開いた道のりは決して穏やかではなかった。


 高校卒業とともに上京したのだが、初っぱなから(つまず)いた。予定していた結婚相談仲介業の職に就けなかったのだ。面接すら漕ぎ着けられないという始末だ。

 知識も経験もない若造が希望通りの職種ですんなりと働けるはずもない。当然の結果と言えた。こうして結婚まで思い描いた未来の戦略は、早期の段階で打ち砕かれたのだった。

 それから三年間、アルバイトに明け暮れた。昼は飲食店のホール店員で夜は隔週でホステスを演じて生計を立てた。親に後ろめたい気持ちはあったが、自己投資の資金集めには近道だ。それに人間観察の目も養える。接客業に拘ったのも、今後のことを見据えての選択だったのだ。


 転機は突然訪れた。街で配布されるチラシを手に取ったのが好転の切符だった。

 そこには異業種の数社が合同で行う街コンの企画が記されていた。街ぐるみで盛り上げる大型の合コンに、あなたも参加しませんか――と、そのように書いてあった。だが、一番彼女の目を惹いたのは、宣伝ビラの下方に印刷された主催側の情報だった。


 未婚者の恋愛を後押しするクリスマスキャンペーンに力を入れていた当時の弊社が、人員募集していたので、美織は思い切って連絡してみた。これまでの接客業の仕事ぶりと、そこに至った経緯などの熱弁をふるう。その結果、二十一歳の冬に念願の仲介アドバイザーとしてスタート地点に立てたのだった。最高のクリスマスプレゼントになった。


 それから地道に実績を積んだ甲斐もあって、同期の中でも美織が担当した会員の成約率は極めて高かった。業務に実直で信頼評価も上がり、今春より新人教育係を任され二人の後輩もできた。手持ちの業務が増えるにつれ毎日の残業も度重なったが、その分やり甲斐はあった。心の底から仕事を楽しんだ時期。藤村壮太に出逢ったのもその頃だった。


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