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初仕事、初報酬 1

 闘技場は闘技大会の時でなければ、本当に何もない静かな街で、幻想的で魅力的ではあったのだけれど、一泊しただけでイベントもなく通り過ぎた。

 そこから更に南下するのだが、街道沿いの宿がある街は暫く無く、二晩ほど野宿をすることになった。

 子供は寝ろと、不寝番は大人四人が交代でやってくれた。


 鞄を枕に、マントに包まって寝るというのは、中々に貴重な経験をしたと思う。

 まあ、この旅では半分はそうなるのだし、貴重どころか煩わしくなってくるのだろうけれど。

 それでも、二晩の、星空の天上と草木の布団を楽しんだ。


 そうして着いた街がここ、ガイエスである。

 人口は王都と比べるとはるかに少なく、闘技場と比べるとはるかに多い。ローラレンス王爵領の南部の中規模な街である。辺境伯都よりも小規模になるが、充分に王国有数の街といえる。

 この街が発展している理由は、王都とユグドーラ大公都を繋ぐ一直線上にあることもあるが、それ以上に、地脈の上にあるのである。


 地脈。あるいは龍脈。

 人間の持つ魔力管のように、大地を通う魔力の流れである。ほぼ無尽蔵に魔力の溢れるそれは、例えば王都などでは、下水道と時計の基である、水を生成する魔道具に使われている。

 そして、もう一つの特徴として、地脈の上では()()が発生するのである。


 そんなわけで、ガイエスの冒険者ギルドは非常に活発だ。王都のそれに勝る。

 王都にはかなり太い地脈が通っているのだが、都を作る際に、安全のため全ての魔物を狩りつくしたので、現在は通常の狩猟採集しか行われていない。

 ガイエスでは、動物狩猟よりも難易度の高い魔物狩猟のクエストが、常態的に掲示されている。難易度が高いと言っても、最低ランクの「鉄」でも受けられるものもある。


 ガイエスにある宿屋に男女一部屋ずつ確保した俺たちは、冒険者ギルドにやってきて、そんな魔物狩猟クエストの依頼を手に取った。

 いよいよ、初仕事である。

 ウォルフガングが受付嬢に依頼を差し出す。


「このクエストを受けたい。処理を頼む」


「畏まりました……はい、遂行中に処理しました。報酬は書いてある通りの金額になります。パーティー内でのトラブルに関しては責任を負いかねますのでご了承ください。このランクですと、失敗の場合も違約金等はありませんが、その場合も報告は必ずお願い致します」


「分かった」


 ウォルフガングが首を縦に振った。

 それに俺達も返し、活気のある冒険者ギルドを出た。

 目的地はガイエスのすぐ隣なので、徒歩で行く。




 地脈の通っている場所は、正確に言うと、ガイエスの真下ではない。

 街のすぐ近くに森があり、その下だ。名前は捻りもなく、「ガイエスの森」と呼ばれている。


 今回のクエストは、一角兎(コミューン・ハビッツ)の狩猟である。

 一角兎は名前の通り角のある兎で、魔術と身体強化を使ってくる、歴とした魔獣である。

 角が武器の材料になる他、動物の兎よりも、毛皮の質が高い。


「さて、初仕事だ! 張り切っていこう」


「はい、頑張ります!」


 俺が森の前で拳を掲げると、レイナが両のこぶしを握って脇を絞めて気合を入れた。応援団の「押忍!」のポーズであるが、レイナがやれば可愛らしい。

 他の四人も「はい」や「ああ」と返事はしてくれたけれど、雰囲気から分かる。皆、狩猟に慣れている。

 国の上層部にいる人たちで、うち二人は女性であるのにもかかわらず、否、むしろその二人の方がより慣れていそうですらあった。


 剣を持った俺達や、カリンから教わった投げナイフを使うレイナに対し、狩猟用の取り回しやすい弓を持った女官二人は、明らかに()()だ。

 冒険者というものは、ロマンチストが多いから、どうしても剣使いが多い。そんな中だから俺たちが浮くわけではないのだが、狩猟ということを念頭に置くと、より良いのは弓であるだろう。


 そんなメンバーで森の中に入った。

 多くの人が入っている森であるから、獣道はたくさん出来ていて、歩きにくいということはない。


「地脈のある、魔物の出る森といっても、案外普通なのだな」


 予想以上に何もなくて、思わずそんな言葉が漏れた。

 皆が集中していたからか、少しの間空白が出来、返答をしたのはフリッツだった。フリッツは作ったような、設定に忠実な砕けた口調で言う。


「生きているのが動物か、魔物か、という違いだけだからな。会えばわかるさ、魔物は強い。まあ、馬以外の動物に触れたことがないジークにはピンとこないかもしれないが……」


「……そうですね、速いです。前方に三匹ほど、大きさから言って目標かと」


 俺がフリッツに返答しようとしたとき、カリンがそのように告げた。

 森の前で気合を入れた後、全く喋らなくなったのだが、どうやら索敵をしていたようである。

 超級の風属性魔術で、珍しく攻撃魔術ではないものに、空気の振動を増幅して術者に伝えるものがある。簡単に使えるものではないが、カリンならば使えても不思議はない。


 ウォルフガングとフリッツが前方に出る。

 俺も一応は剣を抜くが、どうやら出番はなさそうで、力を抜いて対応していた。

 フランツィスカが第一矢を放つ。


「フッ――」


 息と共に放たれた矢は、真っ直ぐに飛んでいき、正面の草に突き刺さった。小動物の呻き声が上がる。

 続けて、カリンが第二矢を放つが、意外なことに、それはフランツィスカのものより精度に劣っていた。フランツィスカのものの精度が高すぎただけであるが。


「詰めて、()るぞ。後衛は警戒を!」


 ウォルフガングが叫び、前衛の二人が一気に詰める。

 俺は警戒の意味を理解しきれていなかったが、身体強化を増やし、剣を中段で構えなおした。

 これが良かった。


 ()()()()()()()()

 視界で捉えることが出来た俺は、最高速で動き、それを剣の腹で弾き落とす。


「は?」


 思わず声が漏れる。

 前世の俺なら死んでいた。

 確かに、特段強いわけでも無い俺でも反応出来るものではあるし、仮に当たっても回復魔術が存在する――ましてや、俺には「聖女」(レイナ)がいる――とはいえ、この世界の魔物は案外強いのかもしれない。


 そう思った直後、更に一匹の断末魔の悲鳴が上がる。どうにも締まらない。

 ともあれ、一角兎は後一匹だ。


 気合を入れなおして、再び剣を中段に構えた。

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