表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/126

初仕事、初報酬 2

「すまん、後衛、対処!」


 フリッツが声を上げた。

 直後、最後の一個体が俺の前に躍り出る。


 戦闘は流動的なもので、創作作品のように、目の前で立ち止まって威嚇などはしてくれない。

 先程の()()は地属性魔術によって作られた槍で、今まさに一角兎(コミューン・ハビッツ)はそれを生成している。

 そして、生成しながらも、角を槍として、最も前にいた俺に対して突っ込んできた。


 目には目を歯には歯を、ということで、俺も地属性魔術を行使する。

 具体的なイメージはしないが、硬くなるように、高密度をイメージする。ここで金属などの具体的なものをイメージしてしまうと、それが出来る代わりに、消費魔力が増えてしまうので注意が必要だ。

 さながら盾のように展開したそれは、無事に敵の弾丸を受け止めた。


 それでも、まだ本体がいる。

 返り討ちにするために、剣を振り下ろすが、頭に生えた角によって受け止められてしまった。まさか、魔物と打ち合いをするとは思わなかったが、だったら相応の対応があるというものだ。

 剣を角と交えたままに、身体強化を増やした。ここで、安易に腕の力を増やすのではなく、足腰の方に重点を置くと、身体を傷めずに思いっきり力を発揮できる。


 地面を思いっきり踏みしめる。

 剣の位置を少し奥に入り込ませ、剣の腹を兎にあてがう。バットよろしく打ちぬいて、ホームランといったところだ。

 一角兎の体は宙に浮き、本人の制御によって変動するものではなくなった。


 そこに、一本のナイフが飛んだ。

 偶然か実力かは、今日の時点では定かではないが、喉元に突き刺さったそれは生物を絶命させるのに充分であった。

 息を吐く余裕が出来た。初めての狩猟は、成功と言うことが出来そうであった。


「流石、ありがとう、マリーナ」


「ジーク様がチャンスをくれたのですよ」


 レイナにお礼を言うと、彼女はむしろこちらを褒め称えてくれた。とどめを刺したのは彼女であるのだから、もう少し誇っても良いのだけれど、それが彼女の良いところでもあった。

 叢から、それぞれ一匹ずつ獲物を抱えて、護衛の二人が出て来た。

 ウォルフガングが抱えるものは腹に大きな傷があり、フリッツが抱えるものは脳天に矢が突き刺さっていた。頭に角を持つ一角兎の脳天を射貫くとなると、今までに見る機会がなかっただけで、フランツィスカの弓の腕は相当なものなのだろう。


 一か所に集まり、一応は警戒態勢を取る。

 先程と同じように、魔術で周囲を確認していたカリンが、大丈夫であることを示すように、首を縦に振った。今のところは、周りには何もいないようだ。

 しかし、血の臭いがするこの場所では、そのうちに魔物が寄ってきてしまうだろう。三匹狩って、最低限の目標数は達したので、今日のところは街に帰ることにした。


 大したことをしたわけではないが、初めての実践的な戦闘で、中々に精神力の方を消費したように思う。

 俺はそうであったし、帰り道も相変わらず、俺と褒め合いを交わすレイナにも疲労の色が見られた。

 対照的に大人四人は慣れているのか、あの程度では疲労の鱗片すら見せていなかった。




 ギルドのクエスト報酬と換金の担当者は、持ち帰った一角兎の死体を確認して、評価をくだした。


「うん、どれも状態は悪くないです。今回は部位採集の依頼ではなく、一角兎狩猟でしたから、全てをクエスト報酬の分で扱うことになります。一角兎一匹につき五千ロルクですから、合計で銀貨一枚と銅貨五十枚です。ご確認ください」


 一枚の銀貨と、袋に入った大量の銅貨が、ウォルフガングに手渡される。

 ウォルフガングは笑顔を作ると、それを俺とレイナの方へ差し出した。軽い銀貨をレイナが、思い銅貨を俺が受け取る。

 ずっしりと重みが伝わってくる。それと同時に、それを自分たちで稼いだのだという、実感が湧いてきた。


 ああ、そうだ、初報酬だ。

 お小遣いではなく、初めて自分で稼いだ金である。

 このうち五分の一は、俺が本当の意味で自由に使っても良いものである。


「自分で稼いだのですよね、このお金は」


 レイナが感極まったように呟いた。

 彼女は銀貨を色々な角度から眺め、キラキラと反射させて、眼を細める。


「嗚呼、そうだ、俺たちが稼いだ金だ!」


 半ば自分自身で確認するように呟いた。

 レイナはそれを聞いて頷いた。

 大人四人はそれを見て、笑みを浮かべている。カリンですら、今は優しい微笑みを浮かべていた。


「さて、ジーク、マリーナ。初めての報酬は、その範囲内で派手にやるものだ。酒場に行くぞ! 一人あたり三千ロルクならば、それなりに良いものが食えるはずだ」


 ウォルフガングがそう言った。

 彼も出発前に色々と聞いているわけで、それが平民のしきたりというのならば、そうするべきであろう。他の三人も頷いているからには、やはりそれで間違いないらしい。




 酒場は、仕事終わりの者たちが集う場所だ。

 今は空の色が温かみを帯びていて、よく反射するレイナの銀髪が、カリンそれと同じ色にも見える。

 活気に溢れた酒場では、ある者は自慢をし、ある者は愚痴を零し、ある者はただひたすらに飲み食いしていた。酒が全ての王であり、前世での最後の記憶よりも無秩序に思えた。


 八人がけのテーブル席を六人で陣取り、四杯の酒と、二杯のジュースと、大量の食べ物を注文する。飲み物の選択以外は全部カリンがやっていたから、飲み物をお代わりすることも含めて、綿密に計算されていると思う。


「「「「「「乾杯(プロージット)!」」」」」」


 すぐに出て来た木製の(さかずき)をぶつけ合って、一気に飲み干す。当然だが、盃を叩き割りはしない、念のため。

 盃に入っていものの、アルコール分は一切ない飲み物が、清涼感たっぷりに、喉を滑り落ちていく。

 大人たちはエールを飲み下し、一息吐いた。普段は高級なワインやブランデーを飲んでいるような身分の彼らだが、久しぶりのアルコール分は、満足に値するものであったらしい。


 ちなみに、俺たちの護衛なのに飲んでも良いのかということだが、一杯や二杯の酒で、支障が出るようなことは無いらしい。

 もとからアルコールに強いことに加え、最悪の場合魔力を回して、体外に出すことも出来るという。最終的な排出方法は、微量なら汗で、大量ならば尿とのことだ。


 しばらくして、注文した料理がやってきた。

 ソーセージとジャガイモが多いが、魚もあり、肉もあり、野菜もあり、豪華ということが出来た。

 俺たちは飲み物をもう一杯ずつ注文し、再び盃を打ち付け合った。


「初仕事に!」

「初報酬に!」

「「「「ジークとマリーナの初仕事・初報酬に」」」」


 完全素面なのにテンションの上がる俺たち二人と、微量のアルコールがあっても落ち着いている保護者四人の差は、アドレナリンの分泌量であっただろう。

 食事はなかなかのもので、流石に王城で食べたものと比べれば劣るが、達成感という最高のスパイスが、料理を主観的に最高のものにしていた。


 途中で、「なんだ、兄ちゃんと姉ちゃん、今日が初仕事か! めでたいな!」などと言いながら臨席の客が乱入してきて、こっちのものを勝手に食べた代わりに、同じ程度の料理を奢ってくれたりした。

 そこが発端となり、何故か大勢が入り乱れる大宴会となった。

 しつこくナンパされたカリンが、見事な動作で相手を床に抑え込んだので、拍手が喝采した。


 フリッツが自称ガイエス一の剣士と見事な剣舞を始めて、おひねりを貰っていた。

 マスターが気前よく、安い酒であるが、景品としてだして、ポーカー大会を始めた。トランプは俺が創ったものであるが、作り方が簡単であったので、既に王国全土に普及していた。

 将棋も、貴族だけでもいいから流行らないかな。


 そんな感じで色々あって、初めての仕事の報酬は、美味しくて楽しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ