初仕事、初報酬 2
「すまん、後衛、対処!」
フリッツが声を上げた。
直後、最後の一個体が俺の前に躍り出る。
戦闘は流動的なもので、創作作品のように、目の前で立ち止まって威嚇などはしてくれない。
先程の弾丸は地属性魔術によって作られた槍で、今まさに一角兎はそれを生成している。
そして、生成しながらも、角を槍として、最も前にいた俺に対して突っ込んできた。
目には目を歯には歯を、ということで、俺も地属性魔術を行使する。
具体的なイメージはしないが、硬くなるように、高密度をイメージする。ここで金属などの具体的なものをイメージしてしまうと、それが出来る代わりに、消費魔力が増えてしまうので注意が必要だ。
さながら盾のように展開したそれは、無事に敵の弾丸を受け止めた。
それでも、まだ本体がいる。
返り討ちにするために、剣を振り下ろすが、頭に生えた角によって受け止められてしまった。まさか、魔物と打ち合いをするとは思わなかったが、だったら相応の対応があるというものだ。
剣を角と交えたままに、身体強化を増やした。ここで、安易に腕の力を増やすのではなく、足腰の方に重点を置くと、身体を傷めずに思いっきり力を発揮できる。
地面を思いっきり踏みしめる。
剣の位置を少し奥に入り込ませ、剣の腹を兎にあてがう。バットよろしく打ちぬいて、ホームランといったところだ。
一角兎の体は宙に浮き、本人の制御によって変動するものではなくなった。
そこに、一本のナイフが飛んだ。
偶然か実力かは、今日の時点では定かではないが、喉元に突き刺さったそれは生物を絶命させるのに充分であった。
息を吐く余裕が出来た。初めての狩猟は、成功と言うことが出来そうであった。
「流石、ありがとう、マリーナ」
「ジーク様がチャンスをくれたのですよ」
レイナにお礼を言うと、彼女はむしろこちらを褒め称えてくれた。とどめを刺したのは彼女であるのだから、もう少し誇っても良いのだけれど、それが彼女の良いところでもあった。
叢から、それぞれ一匹ずつ獲物を抱えて、護衛の二人が出て来た。
ウォルフガングが抱えるものは腹に大きな傷があり、フリッツが抱えるものは脳天に矢が突き刺さっていた。頭に角を持つ一角兎の脳天を射貫くとなると、今までに見る機会がなかっただけで、フランツィスカの弓の腕は相当なものなのだろう。
一か所に集まり、一応は警戒態勢を取る。
先程と同じように、魔術で周囲を確認していたカリンが、大丈夫であることを示すように、首を縦に振った。今のところは、周りには何もいないようだ。
しかし、血の臭いがするこの場所では、そのうちに魔物が寄ってきてしまうだろう。三匹狩って、最低限の目標数は達したので、今日のところは街に帰ることにした。
大したことをしたわけではないが、初めての実践的な戦闘で、中々に精神力の方を消費したように思う。
俺はそうであったし、帰り道も相変わらず、俺と褒め合いを交わすレイナにも疲労の色が見られた。
対照的に大人四人は慣れているのか、あの程度では疲労の鱗片すら見せていなかった。
ギルドのクエスト報酬と換金の担当者は、持ち帰った一角兎の死体を確認して、評価をくだした。
「うん、どれも状態は悪くないです。今回は部位採集の依頼ではなく、一角兎狩猟でしたから、全てをクエスト報酬の分で扱うことになります。一角兎一匹につき五千ロルクですから、合計で銀貨一枚と銅貨五十枚です。ご確認ください」
一枚の銀貨と、袋に入った大量の銅貨が、ウォルフガングに手渡される。
ウォルフガングは笑顔を作ると、それを俺とレイナの方へ差し出した。軽い銀貨をレイナが、思い銅貨を俺が受け取る。
ずっしりと重みが伝わってくる。それと同時に、それを自分たちで稼いだのだという、実感が湧いてきた。
ああ、そうだ、初報酬だ。
お小遣いではなく、初めて自分で稼いだ金である。
このうち五分の一は、俺が本当の意味で自由に使っても良いものである。
「自分で稼いだのですよね、このお金は」
レイナが感極まったように呟いた。
彼女は銀貨を色々な角度から眺め、キラキラと反射させて、眼を細める。
「嗚呼、そうだ、俺たちが稼いだ金だ!」
半ば自分自身で確認するように呟いた。
レイナはそれを聞いて頷いた。
大人四人はそれを見て、笑みを浮かべている。カリンですら、今は優しい微笑みを浮かべていた。
「さて、ジーク、マリーナ。初めての報酬は、その範囲内で派手にやるものだ。酒場に行くぞ! 一人あたり三千ロルクならば、それなりに良いものが食えるはずだ」
ウォルフガングがそう言った。
彼も出発前に色々と聞いているわけで、それが平民のしきたりというのならば、そうするべきであろう。他の三人も頷いているからには、やはりそれで間違いないらしい。
酒場は、仕事終わりの者たちが集う場所だ。
今は空の色が温かみを帯びていて、よく反射するレイナの銀髪が、カリンそれと同じ色にも見える。
活気に溢れた酒場では、ある者は自慢をし、ある者は愚痴を零し、ある者はただひたすらに飲み食いしていた。酒が全ての王であり、前世での最後の記憶よりも無秩序に思えた。
八人がけのテーブル席を六人で陣取り、四杯の酒と、二杯のジュースと、大量の食べ物を注文する。飲み物の選択以外は全部カリンがやっていたから、飲み物をお代わりすることも含めて、綿密に計算されていると思う。
「「「「「「乾杯!」」」」」」
すぐに出て来た木製の盃をぶつけ合って、一気に飲み干す。当然だが、盃を叩き割りはしない、念のため。
盃に入っていものの、アルコール分は一切ない飲み物が、清涼感たっぷりに、喉を滑り落ちていく。
大人たちはエールを飲み下し、一息吐いた。普段は高級なワインやブランデーを飲んでいるような身分の彼らだが、久しぶりのアルコール分は、満足に値するものであったらしい。
ちなみに、俺たちの護衛なのに飲んでも良いのかということだが、一杯や二杯の酒で、支障が出るようなことは無いらしい。
もとからアルコールに強いことに加え、最悪の場合魔力を回して、体外に出すことも出来るという。最終的な排出方法は、微量なら汗で、大量ならば尿とのことだ。
しばらくして、注文した料理がやってきた。
ソーセージとジャガイモが多いが、魚もあり、肉もあり、野菜もあり、豪華ということが出来た。
俺たちは飲み物をもう一杯ずつ注文し、再び盃を打ち付け合った。
「初仕事に!」
「初報酬に!」
「「「「ジークとマリーナの初仕事・初報酬に」」」」
完全素面なのにテンションの上がる俺たち二人と、微量のアルコールがあっても落ち着いている保護者四人の差は、アドレナリンの分泌量であっただろう。
食事はなかなかのもので、流石に王城で食べたものと比べれば劣るが、達成感という最高のスパイスが、料理を主観的に最高のものにしていた。
途中で、「なんだ、兄ちゃんと姉ちゃん、今日が初仕事か! めでたいな!」などと言いながら臨席の客が乱入してきて、こっちのものを勝手に食べた代わりに、同じ程度の料理を奢ってくれたりした。
そこが発端となり、何故か大勢が入り乱れる大宴会となった。
しつこくナンパされたカリンが、見事な動作で相手を床に抑え込んだので、拍手が喝采した。
フリッツが自称ガイエス一の剣士と見事な剣舞を始めて、おひねりを貰っていた。
マスターが気前よく、安い酒であるが、景品としてだして、ポーカー大会を始めた。トランプは俺が創ったものであるが、作り方が簡単であったので、既に王国全土に普及していた。
将棋も、貴族だけでもいいから流行らないかな。
そんな感じで色々あって、初めての仕事の報酬は、美味しくて楽しかった。




