3-17 先入観
全員『お花摘み』を済ますと、私達はおのおのの荷物を持ち、避難小屋を出る。
私はもちろん大きなリュックを背負っている。中身は大半が棺の小箱だが、結構な数が入ってるせいでそれなりに重い。
私達が来なければ、ナリザさんはこんな重くてかさばるリュックを背負って、たった独りで迷宮に潜っていたのだ。間に合って良かったよ。
ちなみに私のリュックも大きなリュックに入れている。避難小屋に置いていこうとしたのだが、盗まれても責任取れないので私物は手放さないようにと、ナリザさんから忠告されたためだ。街中は安全でも、一歩街を出れば危険が広がる無法地帯。それがオトギワルドなのだ。ゆめゆめ忘れてはいけない。
ハナナちゃんが持っているのはジャック・オー・ランタン一つのみ。右手はがら空きだ。まあ、腰の剣を使うためには当然か。もしもの時はよろしくお願いしますよ。用心棒ハナナちゃん♪
一方でナリザさんは両手に一つずつ持っている。一つはナリザさん用で、もう一つは私用。カボチャ頭はドッジボールサイズでかさばるため、さすがの大リュックにも入らないのだ。だけど大丈夫かな。両手が塞がっていては、もしもの時に対応できないと思うのだけど…。ハナナちゃんの腕を信じているって事なのかな?
「それでは杭のところまで行きましょ〜。間違っても草むらから近づいてはいけませんよ〜♪」
「うん…。知ってる…」
「おやおや〜? もしかしてお父さん、あの天然トラップに引っかかってしまいました〜? よくご無事でしたね〜」
「ハナナちゃんが間一髪の所で助けてくれまして」
「ほうほう〜、するとハナナさんは、お父さんの命の恩人というわけですか〜♪ じゃあ何かご褒美あげないといけませんね〜」
「別に気にするこたぁねーよ。でも、オトっつぁんがどうしてもって言うなら、酒を一杯おごってよ♪」
「わかった、酒以外だな! じゃあ女の子らしいかわいいアクセサリーでも探すか」
「いらね〜〜〜〜〜!!!!」
「ホント仲の良い親子ですね〜♪ 羨ましいです〜♪」
そろそろ罪悪感を感じ始めているのだけど……でも今更言い辛いなぁ……。
「話を戻しますけど〜、この草むら、縦穴を隠すように生い茂っているからホント危ないんですよね〜。これまで刈ったり焼いたりと、色々やってきたんですけど〜、繁殖力が高くて、一週間もかからずに元に戻っちゃうんです〜。
立て看板で注意を促すことも考えたんですけど〜、冒険者も大半は字が読めませんからね〜。処置無しですよ〜。困ったものです〜」
そう言いながら、ナリザさんはため息をついた。
遭難者回収用の道具を置かしてもらっている避難小屋はともかく、迷宮の管理責任がナリザさんや唯一神教団にあるわけではないので、純粋に善意から来るため息なのだろう。
だけど、万策が尽きたとも思えないんだけどなぁ。真っ先にやることがあるだろうに。
「でしたら、縦穴を柵でグルッと囲めばいいんじゃないですか?」
「えっ? それってどういう……」
「どういうって……言葉通りの意味ですけど…。
縦穴を柵でグルッと囲むんですよ。そうすれば柵の先に何かあるぞってアピールできますし、大抵の人は無闇に柵を乗り越えるより、柵の切れ目を捜すと思うんですよね」
気がつくと、ナリザさんが目を丸くして固まっていた。え? なに? どゆこと?
普通でしょ? 普通の発想だよね? 危険な場所に柵を作るってよくやるよね? 工事中とかさ。
なんでそんなに驚くの?
「青天の霹靂ですぅ!! 目から鱗ですぅ!! お父さんの発想の転換にナリザ、感激いたしましたぁぁっ!!」
「えええ??? そ、それほどのことですか?」
「すごいですよぉ! だって柵は小規模の防壁ですよ〜? 危険な外敵の侵入を阻止するために使う物です〜。
それを、危険な場所に人を近づけないために使おうだなんて〜。正に逆転の発想ですぅ〜〜!!
お父さんはもしかして、賢者さんですか〜!!」
ナリザさんのあまりの感激ぶりに、私はポカ〜ンとなっていた。
いやいや、おかしいですよ。それくらいのこと、誰だって思いつくでしょ? 思いつくよね?
先入観がそうさせるのか? だけど何故?
そこで私は気がついた。
王都ノイバラは巨大な城壁で囲まれている。中規模の町はもちろん、小さな村ですら大きな壁で覆われている。オトギワルドの都市は、ほとんど全てがそうだ。一体何のために? もちろん、町の人々を護るために決まっている!
この世界では外敵が恐ろしい。恐ろしくてたまらない。それこそ柵に対する先入観が凝り固まってしまうほどに。
城壁のおかげで街中は安全でも、一歩街を出れば危険が広がる無法地帯。それがオトギワルドなのだ。
ゆめゆめ忘れてはいけない。




