2-11 雄々しい靴屋さん
つい出来心で、ククルリさんを掘り下げてしまいました。話進まね〜〜〜(><)
ククルリさんの第一印象は『男前な美人』だった。
背は私よりもやや高く、体格もがっしりしていてハスキーボイス。胸の膨らみがなければ男と見間違えただろう。スカートではなくズボンを履き、ドレスエプロンではなく前掛けをして、化粧っ気はなく、髪も乱れないよう縛っており、色気も何もあったものではない。歳も四十代前半くらいだろうか。
だがしかし…。それでも美人であることは覆せない。彼女もまた野薔薇ノ民。すなわち、女神の子孫なのだ。
「なんだいなんだい! 男連れとは珍しいじゃないか。羨ましいねぇ♪」
「えっへっへ~~♪ いいでしょう♪」
社交辞令とはいえ、私なんかで羨ましがるとは、どれだけ男不足なのだろう。私はこの国の美しき乙女達の不遇を思い、心でむせび泣くのだった。
「ククルリおばちゃん、紹介するよ。オトっつぁん」
「………へ? オトっ…つ…ぁ…ん?」
一時の沈黙。明らかに気まずい空気が流れている。ま、まずい、ここは私がボケるべきか?……と思った矢先、ハナナちゃんが慌てて訂正した。
「…じゃなくてっ! オトっつぁんってのはあだ名みたいなもんでっ、え~っと、え~っと……
オトっつぁんの本名、なんだっけ?」
私はハナナちゃんの物覚えの悪さを嘆き、心でむせび泣くのだった。
「え〜…。はじめまして、雄斗次郎と申します」
「オトジローさんかい。それでオトっつぁんと。なるほどねぇ」
「ああ、そうそう。オトジローだったね。思い出した思い出した♪ しかもね、おばちゃん! このオトジローのオトっつぁんはねっ! ガングビトなんだよ!」
これにはククルリさんも目を丸くして驚いた。初めて見たって感じだ。
「お前さん本当かいっ! 本当にガングビトなのかい!? 本当にあの、おもちゃの世界からやってきたのかいっ!? 何か証明できるものはないのかいっ!」
おもちゃの国と言われて意表を突かされたが、言われてみれば確かに合点がいく。この世界の人から見れば、スマホなんてゲーム機みたいなものだし、車や電車だって人が乗り込めるおもちゃみたいなものだろう。そして初めて気付く。ガングワルドの『ガング』とは、『ガングニール』の略ではなく『玩具』の事だったのだと。
オトギワルドとガングワルド。御伽の世界と玩具の世界か…。なるほど…。
この世には様々な異世界が多数存在するらしいが、この二つの異世界ほど相性の良い世界はないのかもしれないな。
「証明できるものと言いますと……今はこれくらいしかありませんが」
私は胸ポケットに入れていたノック式のシャープペンシルを手に取ってみせる。百円ショップで買った安物である。
「これはですね〜。後ろをこうカチカチと押しますと……」
「おお〜〜〜〜〜!!! 先ッチョから針みたいなものが出てくるぅ〜〜〜〜〜〜!!!!! おもしれ〜〜〜〜!!!!」
ククルリさん、メッチャ食い付いてる! 貸してみたら、夢中になってカチカチしてる。
退屈そうにしているハナナちゃんとは対照的だ。
「ところでオトジローさんはいくつなんだい?」
「え? ……え〜っと、四十代半ば…ですが」
「へぇ〜〜〜。もっと若そうに見えるんだけどね。アタシより年上かい。ふぅ〜〜〜〜ん」
するとククルリさんは、イタズラっぽい顔をしながらこう言った。
「じゃあ、アタシのことは『ちゃん』付けで呼べるわけだ♪」
「ゴラァ! なに色気づいてんだよっ! 男前のくせにっ! 男前のくせにっ!」
「あははっ、冗談だよっ♪ 冗談っ♪」
ハナナちゃん、結構本気で殴りかかっているように見えるのだけど、ククルリさんは笑いながら全て避けていた。格闘技の心得でもあるのだろうか。だとしたら、かなりの達人だろう。
それにしてもこの二人、年は離れているけど、まるで姉妹のようだ。似た者同士の男前姉妹か。
まあそれはそれとして……。
リクエストされた以上、可能な限り応えるのがエンターテイナーだよな。
「え〜っと、じゃあ…ククルリ…ちゃん」
「ひぇっ!」
「ククルリちゃん」
「い………」
「ククルリちゃん♪」
「ぎゃ〜〜〜〜!! やめてやめて! ごめんなさいっ! ほんの出来心だったんですっ! たわけたことはもう言わないからっ! 許してっ!」
顔を真っ赤にして恥ずかしがるククルリさん。男前が台無しである。
この人はこの人で、かわいい人だった。




