#ハインツ17
ノックをすることさえ億劫で、ハインツは病室の扉を躊躇なく開けた。ベッドには大柄な男がいた。ベッドに腰掛けたまま、唖然としてこちらを見つめていた。
「――レオ、本当に生きていたんだな!」
泣き出しそうになった。自分だけでなく、失った戦友を取り戻した気持ちでいた。
そうだ、生きていているのだ。レオルドが動いているところを見て、ハインツはやっと実感できた。寝たきりのままの親友の姿を見て、密かに落ち込んでいたのが嘘みたいだった。
「ハインツ、お前なのか……!!」
「ああ、俺だよ。ハインツだよ!」
レオルドも驚いているが、無理もない。ハインツにしろ、あの極限の状況から生還したのは事実なのだから。
痛み、息苦しさ、そしてなにより死が迫ってくることの恐怖に接した。ハインツにとっても他人事ではない状況だ。
レオルドが感極まった様子で、呟いた。
「俺たちは、生き延びたんだな」
「ああ、一度は死んだとは思ったが、生きていたよ」
ハインツも、同じ心境だった。親友が生きていることで、やっと自分も生きている実感が湧いたのだ。
「生き延びたのは、俺たちだけなんだな……」
「そうだ。残念だが、他の隊員はみんな死んだよ」
戦闘機のパイロットとはそういう仕事だ。俺たちは戦争をしているんだ。その覚悟はあったはずだ。だが、いざ死を目の前にすると、尋常ではいられない。そのことさえ、この状況になってやっと知ったことだ。
「そうか、悪い奴らじゃなかったんだがな。あいつら、死んじまったのか……」
レオルドの体格に似合わないか細い声に、ハインツも密かに驚いていた。これだけ弱った様子を見たのは、今までに一度もなかった。
「俺は、出会った当初こそ、一度くらいあいつらのことを殺してやろうとは思ったよ。まさか、本当に死んじまうとはな。あいつらも、俺たちも、こんなに弱かったんだな」
「レオ……」
そのことを気付かされないまま、死を迎えた特務隊隊員たちはどう思っているのだろうか。地球時代の信仰には、死後の世界を想定する考えがあったらしい。ハインツにはやっと、その気持ちが理解できた気がした。
もう会えない。だが、会いたい。ご都合主義的ではあるが、信じたい気持ちはあるのだ。
「ハインツ、お前は今なにをしているんだ? パイロットに戻ったのか?」
「いや、俺は今、司令部で働いている。司令官の副官だ」
「副官……? そうか。戻れるのか?」
ハインツの本音は、言わないでも伝わっていたらしい。例え、死にかけたとしても、パイロットに戻りたい。その気持ちに変わりはない。たぶん、レオルドも同じ心境なのだ。
「目覚めたばかりのレオに言うのもどうかと思うが、戻れるらしい。お前ほど重傷じゃなかったからな、復帰の目処が立ったばかりだ」
「そうか。よかったな、ハインツ……」
レオルドの目にも涙が溜まっていた。他人事ではないのだ。お互いに、現状を誰よりも共感できる立場にあるのだから。
「レオも、パイロットに戻れるんだろう?」
「ああ、医官が言うにはそうらしい。だが、リハビリは相当厳しいそうだ。結局は、俺次第だとよ」
「でも、諦める気はないんだな」
「当然だ。――俺たちは、パイロットでなければ生きていけないんだ」
怪我をして死にかけてなお、求める実存がそこにあったのだ。理解され難いのは、ハインツにも自覚はあった。
それからも、ハインツはレオルドと共に語り合った。生きていることへの喜び、パイロットとしての今後。繰り返し、同じことを話した。
結局、いつまでも大人しくならない怪我人を快く思わなかった医官に追い出されるまで、ハインツは病室に居座った。
――また会えばいい。また、会えるんだ。
そう何度も胸のうちで呟きながら、ハインツは病室を後にした。




