PLAY149 片鱗①
振り下ろされる金棒。
それを見たショーマは刀の腹に手を添え、盾のように見立ててそれを防ごうとする。
一か八か。
ギャンブラー顔負けの、目に見えて負けることしか考えられない様な高望みの賭けに出るショーマ。
結果は――案の定負けだった。
金棒が触れた瞬間、重みが加わった瞬間、ショーマの刀は――『パキン』と可愛い音を立てて折れた。
完全に真っ二つになり、目の前に降りかかるそれを見たショーマは頭で考えるよりも先に、横に転がった。
瞬間――けたたましく地面が割れる音と同時に吹きあがる土煙。小さくなってしまった岩と少しだけ掘削された岩が辺りに飛び散り、それを見て、それら交じりの煙が目に入らないように目を瞑るコウガとツグミ。そして眼と言う概念がないデュランはそれを受けながらショーマのことを探す。
頭はないが見ることができる。
人間の様に目を守らないといけない状況でも見ることができるから、ショーマを探すデュラン。
砂利と掘削された小さな岩たちが辺りに飛び散り、同時に大きな岩も崩れ落ち、割れた地面からも崩れる様な音が聞こえた。
そのくらい力を込めたのだろうが、人間族の彼の力ではこの力は考えられない。
『強化』関連の瘴輝石を使っているのかわからないが、それでも人間族の力ではここまでの破壊力はまず無理だ。
そうデュランは考える。
痺れている体でも考えることはできる。打開できる策を何とかしてでも考えないと、全滅してしまう。その最悪の未来だけは回避しないといけないのだ。
――『エクリション』クラスでも、『イグニッション』クラスの瘴輝石だが、詠唱もなしに仕えるとは思えない。
――瘴輝石は聖霊族の強い想い、人々の言霊に呼応して力を発揮する。
――あの聖霊族の長ディーバが言っていたことだ。嘘をつくなど思えない。今となっては変な思考に染まってしまった偏愛だが、それでも嘘をついて得をしようと言う姑息な思いはない。
――嘘はあいつが最も嫌いとしている感情。
――だからあいつの言葉は信用できる。
信用できる。性格に難があっても、彼女のことを知っているデュランはそれだけはないと理解していた。だからこそ分からなかった。
人間族のアシバが、なぜあそこまでの力を発揮することができるのか。
疑問がどんどん湧き上がる。
だが、今心配すべきことは――
「――ぶっぱぁ!!」
「!」
声が聞こえた。そう思ったと同時に土煙の中から転がり出てきた人物を見て、デュランは安堵のそれを吐く。
煙の中から出てきたのはショーマ。
傷はないが服は地面に付着していた埃の所為で泥まみれ、更には肌と髪の毛にもそれが付着している状態だ。
転がったから無理もないが、幸いケガというケガはない。ないが………。
「い………! でで………っ!」
ショーマもアシバのチートの所為で体が痺れ、少しずつだがHPも削られている状態だ。思う様に動けない所為もあって身体中が軋み、数回ほど痛みの痙攣をした後、その場で蹲って体を震わせる。
痛みを和らげるように体を震わせ、少しでも距離を稼ごうと足や腕を少しずつ動かしてその場から離れる。
「おい………! ショー………ッ! が………っ!」
デュランもすぐに動こうとしたが、彼にもアシバが付与したチートの影響が出ている。コウガやツグミ、ショーマ程ではないが、それでも動けないことに変わりはない。
動かそうにも全身に迸る強く、そして痛みを伴う電気の何かに、デュランは唸りながらその場に倒れ込んでしまった。
――こんなわけのわからない何かに翻弄されるとは………!
――『12鬼士』の名折れ! 恥じだ!
――こんな時に動けない『12鬼士』など………! 只の木偶の坊だ!
「くそ………! くそ………っ!」
舌打ちを心の中でしながら己の不甲斐なさに苛立ちを募らせるデュラン。
だが状況がここで突然変わることもない。この状況を変える機転もなければ、奇跡もない。
あるのは――長引く恐怖と絶望。そして苦戦だけ。
ぬぅっと煙の中から顔を出した金剛の先。
それを見たデュランは息をのむようにショーマに向けて、今できる限りの大きな声で叫ぶ。
今ショーマの背後に迫る――危険を知らせるために。
「ショーマッッ! 横に避けろぉ!!」
「っ!? げぇっ!?」
デュランの声を聞いたショーマは驚いて顔を上げるも、痛みで顔を歪ませてしまう。だがデュランの言葉を信じ、真に受けた結果――そのまま痛みに耐えながら背後を見た瞬間、血の気が引いた。
まさに顔面蒼白なのだが、それでもショーマは目の前に振り下ろされるそれを見て、このままだと背骨に当たる。体が部位破壊される。それだけは避けないといけないと思い、反射的に横に転がって金棒の攻撃を避けることに成功した。
成功したが、それで攻撃が止むことはない。
むしろこの行動は――敵の逆撫でを促すことになる。
「お前には、わかんねぇだろうなぁ?」
アシバの声が土煙の中から聞こえる。
それを聞いたショーマはぎょっと目を見開き、すぐにその場から離れようと痺れる体を無理に動かし、痛みなんて無視して駆け出す。
よろける足。覚束ない走り方のまま離れた瞬間、土煙を払う様に金棒の強い振りが繰り出される。
風を切る音が醜く聞こえ、振るい終えたアシバはよろけながら走るショーマを見つめ、狙いを定めながら歩みを進めた。
ずんずんっと力強い歩みのアシバ。
よろめきながらも必死になって駆け出すショーマ。
距離が遠ざかることはなく、むしろどんどん縮んでいく。
アシバが近付いて来るという形で。
「俺が歩んできた半生なんて誰もわからない。そんなの大衆の一部で、一個人の、一モブの大したことのない過去に過ぎない」
ずんずん歩みながらアシバはショーマに言葉をかけていく。
心に突き刺さる言葉なんてかけていないが、なぜか心に軋みを与える様な言葉の圧を掛けて――
「だが俺にとってすれば大きな事なんだよ。お前が体験したことがない事を俺は体験したんだ。両親の離婚なんて砂粒程度の問題だった」
金棒を乱暴に振るい、近くにあったであろう石の柱を破壊する。
大きな音を立てて崩れるそれを無視して歩みを進めるアシバ。
「そのくらいあの団体は………、イカレ集団はまさに俺の人生の障害で、ガイアクだったんだ!」
痺れている、体力もどんどん削られているせいでショーマは疲弊していた。
今までならこんなことで疲れないのに、どんどん息が上がり、覚束ない足もさらに覚束なくなってよろめいて転びそうになる。
いつもなら、こんなに走っても疲れないのに………。
今に限って、今逃げないといけない時に限ってこんなに疲れる。
疲れてはいけない時に限って疲れると苛立ち。
痛みと苛立ちの所為で思考も霧がかかっている感覚。
まったく集中できない。頭に靄がかかっているせいで、体が不調なせいで、自由に手足が動かない所為で、まったく集中できない。
心の中でショーマはそう思いながら、自分に罵声を浴びせる。
くそ。
それだけを連呼して。
「『懺悔の輪廻会』は少しずつどころの話しじゃない。まるでウィルスのようにどんどん仲間を増やし、自分達の思い通りにいかないものを徹底的に追い詰めて服従させる。完全にやっていることが洗脳だよな?」
「っ! だぁ………! くそ………! いでで………!」
「なんだ? 話せないのか? あーそうかそうだった! 俺のマッドドックが効いているんだったな? それじゃ話せねぇよな? 逃げることで精いっぱいだもんな? あの時の勇敢な姿を拝めると思っていたのに、できないのは残念だなぁ?」
「う、うる………せぇ………!」
「うるせぇ? それはこっちの台詞だよ。お前の所為で俺達の復讐は完遂されなかったんだ! いいやあと一歩のところで出来たのに、お前達が全部台無しにしたんだ!」
「お、れ達………? 何を?」
「覚えてねぇのか? 覚えてねぇとは言わせねぇぞ? お前はあの時蓮舫を助けた時! あの日計画を実行できれば、あの時お前達が来なければ! 俺達は少しでも救われていたかもしれないんだ! あの地獄から! 解放されると! そう思っていたのに!!」
アシバの言葉を聞いてもショーマは理解できなかった。
アシバが言っている『蓮舫を助けた時』と言うのは、初めて恵と出会った時だろうが、なぜその時のことを今でも恨んでいるのかわからなかった。
なにより――あの時の行動はいじめではなかったのか?
そんな疑問がショーマの思考を混乱へと導いていく。
ただでさえ霞がかった頭の中。集中も困難な状況の中言われた言葉だ。
いじめではなく計画?
どういうことだ?
あぁくそ、頭が回らねぇ………!
こんな時、ツグミが動けねー時………、みゅんみゅんやはなっぺがいてくれたらわかったかもしれねーのに………!
どうして俺はこうも頭の回転が駄目なんだよ………!
もっとわかりやすく説明してくれ………!
ショーマの言いたいことは分かる。今の状態で正常な思考回路ができると聞かれたら、できないと答えてしまうほどぼやけている。
アシバが使ったチート『マッドドック』の所為でこうなっているのだが、それを待ってくれるほどアシバはお人よしではない。
否――アシバ自身そこまで頭が回っていない。
怒りで、思考も感情も単調になってしまっているから。
「お前等が邪魔さえしなければみんな幸せだったんだ! 義信も蘭もめいあも円次も!! みんなあのくそみたいな集団の被害者だったんだ!」
「………っ?」
「みんな犠牲者だったんだ! あの『懺悔の輪廻会』の所為で、家族全員が不幸のどん底に落とされた! 信仰していない俺達は信仰している奴らの格好の的だ! リンチの対象だった!」
「り………、リン、チ?」
「そうだよリンチだ! 集団で暴力沙汰を起こすアレだよ! あいつらは人間の屑の屑だ! 自分達が最も正しいと思いこみ、自分の行いこそが正しい正義と思い込んでいるくそったれ集団だ!」
荒々しくなる感情。
どんどん甦って来る記憶。
どの記憶も嫌な出来事ばかり。
楽しかった記憶は嫌な記憶に押し退けられ、そのまま記憶の海底へと沈んでしまう。
アシバの記憶はまさにそうだ。
彼の記憶に、楽しかった記憶はもう――無い。
「義信は母方の両親の不慮の事故の所為で母親が入信した! 両親の死がかなり堪えたそうだが、そのせいで両親の遺産も使い切った! 『懺悔の輪廻会』の言葉で言うならお布施と言う名の嘆願かなぁ? それに使ってもう後がない状態になった!」
「蘭は兄と一緒に『懺悔の輪廻会』に目を付けられ、兄は異常な野郎に目を付けられ! 蘭も被害に遭った! だがその事件も結局なかったことにされた! 事件をもみ消して! 全部蘭達の所為になった! そのせいで両親と兄は自殺した!
「めいあはその逆で、『懺悔の輪廻会』のお気に入りにされたことで腐った奴らの餌食だ! 両親や両親の祖父母たちが入信しているせいで貧困していた。その貧困に付け込んで『懺悔の輪廻会』はめいあを物のように扱った! 欲望のだ!」
「円次はもっとひどいぞ? あいつに至っては二世代と言われ続けて、精神的に狂っちまった弟二人はそのまま首を吊った! 両親はそんな弟たちを『異端者』とか抜かしていたそうだ! 残ったあいつは何とか平静を保っていたが、ぎりぎりだった………! お前達と会ったあの後、あいつは何度も何度も自殺未遂を繰り返していた!」
お前達が――のうのうと楽しい日常ってやつを送っていた時になぁっ!?
聞かされる内容はなんともおぞましい物ばかりだ。
現実と言う世界で生きていく中で、指折りのエピソードだろう。
それをアシバ達は経験してしまった。
彼らの見解で言う諸悪の根源――『懺悔の輪廻会』の所為で、人生が狂ってしまった。
ショーマはその宗教に入信していない。だからアシバの言葉を聞いて思ったのだ。
そいつらは、人間じゃない。
人間の皮を被り、聖なる使途とご認識している――屑だと。
そう思った瞬間、アシバから放たれる言葉を聞いてしまう。
最も聞きたくなかった。いいや――聞かなければ幸せだった、その言葉を。
「そんな宗教の長の娘と一緒に行動していたお前達は! 俺たちにとって! 今ここで死んでほしい奴だよっ!




