PLAY147 『懺悔の輪廻会』①
チーター
それはゲーム界隈に於いて最も聞きたくない言葉の一つだろう。
説明をすると――プレイヤーがゲームのシステムを不正ハッキング、不正に改造する行為のこと。
キャラの移動速度が速くなる。オートエイムの付加。他プレイヤーが見えるようになると言った透視。色んな不正改造が行われ、この時代でも不正ハッキングと改造による被害はゲーム界隈に於いて大きな問題となっていた。
勿論MCOも例外ではない。
MMOと言うこともあり、普通に遊べるオンラインゲームと言うこともあり、MCOも例外なくチーターの手によって改造されてしまった事件がある。
主な内容としてはHPやMPの数値を十万にするといった『キャラ改造』
敵NPCの弱体化。
過度なMOD。不正改造による『新スキル』など………、色んな改造が行われ、一時期MCOは無法地帯と化してしまった。
しかもこのゲームはカウンセリングなどの医療に携わっているので、個人情報を盗まれると言った二次被害もあった。
だがRCは被害を受けていたにも関わらず、MCOに関わったチーターを撲滅し、個人情報を全て取り返し、ネットからすべてもみ消し、被害を最小限に抑えた快挙を成し遂げた。
快挙と言えど被害は残ったことで、RCは緊急記者会見を開き、『今後このようなことが起きないよう、細心の注意と卑劣なチーターを世に出さない』ことを宣言。
この宣言はSNSのトレンドになるほど有名な事件と快挙として、RCの歴史の一つに名を残すことになった。
さて――話を戻そう。
むぃはアシバに向けて言った言葉。
「それ――五年前に見つかったMMOチートツール、『マッドドック』ですよね?」
その言葉を聞いた時、アシバは一瞬動きを止めてしまい、話しを聞いていたコウガとツグミは驚いた顔をしながらアシバとむぃを交互に見ていた。
デュランは知らないことなので、心の中で『一体何の話だ』と疑念を抱いているが、無理もない。
それはプレイヤーの中でしか成立しない言葉であり、本当に五年前にあった『マッドドック』と言う不正ツールを作ったチーターがいたことを証明する内容だったのだから。
そう………当時五歳のむぃが知ることすらない事件であったにも関わらず………。
◆ ◆
「なんで、それを知ってるんだ………?」
アシバは聞く。むぃに向けて、絶対に知らないであろうむぃのことを見ながらアシバは聞いた。
困惑が見え隠れしている。隠そうとしているが、それでも一瞬見せてしまった驚きは見られてしまっている。隠してももう意味がない事なのはわかるが、アシバは隠そうとした。
見た限り幼い子供が知っている驚愕。
同時に湧き上がる恐怖を隠して。
だが、そんなアシバを見てもむぃは答えなかった。
アシバの言葉を聞いて彼女が口にしたことは――説明だったから。
「MMOチートツール、『マッドドック』は攻撃した人物に解毒不可能な毒を与えるツールです。製作者の名前はウィリパム・セーバ。イギリスのプロゲーマーだったらしいです。『マッドドック』は一撃でも、掠ってHPが一減っただけでも付与できる。じわりじわりと体力を削り、最終的に残りのHPが十になった瞬間、急激な全身の激痛と幻覚、幻聴。最悪自害行為を行って、自ら命を絶つというバグを起こします」
「おい、待て………」
「でもそのバグで死ぬことはできない。HPは一分に一マイナスと言う速度で減り続け、自害行為をしてもログアウトできない。十分間と言う地獄を味わった後――ツールを受けた対象はやっとログアウトできるけど、その後の後遺症の所為で、総計二十六人が被害に遭いました」
「なんでそれを………知ってるんだ?」
「二十六人中十七名は社会人で、新卒の人も痛そうですが、全員PTSDを発症。ふとしたことで自害行為を行ってしまい十七名の内十五名が自ら命を立ちました。生き残った二名は現在もPTSDの治療を受けながら生きていますが、現在は引きこもってしまっているそうです」
「なんだ? その内容は………」
「そして二十六人中九名は学生で未成年。中には小学生もいたそうです。その九名もPTSDを発症し、歳を重ねていくうちに悪化し、当時未成年だった九名全員、十五名と同じような末路を辿ってしまいました。稀に見ない史上最悪のゲーム関連事件と言われ、『狂犬ゲーム事件』として名を残してしまいました」
「おいおい………、おいおいおいおい………!」
「この事件をきっかけにMCOは年齢制限を設け――十五歳以下の購入とプレイを固く禁じ」
「ちょっと待てっ!!」
と、むぃの説明が終わる前にアシバは声を荒げた。
頭を乱暴に掻き、呻くそれを出しながら彼は小さな声で呟く。
どういうことだよ………!
理解できない。
そんな言葉を吐きながらアシバはむぃのことを睨みつけ、荒げる声と共に手に持っていた金棒を地面に突き刺しながら言った。
めり込む音と金属音が二重の騒音を奏で、鼓膜に不快感を与えて脳に刺激を与える。
その音を聞いたむぃは猫の耳を震わせながら委縮してしまうが、それでも目を背けたりしなかった。逃げも隠れも………恐怖を見せることはなかった。
たった十歳の女の子が見せる顔ではない。
この時のコウガはそれを見て思った。
同時に、後悔してしまう。
自分達がこうならなければむぃが体を張ることはなかった。これは――自分達が動けなくなってしまった結果であり、慢心した結果だと………そう深く反省した。
反省している最中でも時間は進む。
だからコウガが考えている間、アシバはむぃに向けて荒げる声で聞いた。
「なんでお前がそんなこと知ってんだよっ? これはもう俺しか持っていないツールだ! しかももうこのツールは破棄されて、現存を持っているのは俺しかいない! 作った張本人はもうどこかに消えちまった! なのになんでお前が知ってるんだ?!」
ツールの詳細をこと細やかに話しやがって!
アシバの言葉を聞き、驚愕する彼の顔を見ながらむぃは答える。
自分の頭を、震える指先を添えて答える。
「――覚えているだけ、です………! 話しを聞いただけですけど、むぃの知り合いに、ツールに詳しい人がいるから、聞いたんです………!」
「聞いただけで覚えられるような内容じゃねぇっ! 被害者のこと! あろうことか製作者のこともお前は知っている! 俺が知らない情報もこと細やかに! 明らかに『調べた』だけじゃすまされねぇ内容ばかりだ! 欺くために派遣された『監視者』か? それとも別の組織か何かか? 何が目的でここにいるんだ? えぇっっ!?」
「? 何を言っているんですか? むぃ達は『監視者』じゃないです。一応存在は知っていますけど、むぃとコウガさん、ツグミさんもショーマさんも『監視者』じゃないですから安心してください。むぃ達が知っているのはシュレディンガーさんと言う人ですけど、その人に会ったことはありません。その人を………ログアウトにさせてしまった人には出会いましたが」
「安心って………! じゃぁ何で知ってるんだよ………? なんで俺の奥の手を知っているんだよ………!」
アシバの言葉を聞いて、むぃは断言する。
自分達は『監視者』ではなく、ただのプレイヤーだと。
なお、復習として話そう。
監視者。
それはRCの私服監視官のことである。
その詳細はいたってシンプルなもので、監視者と言っても、正式な社員がプレイヤーに扮しているのもある。しかしその多くがアルバイトなのだ。
社員もなれるがアルバイトの方が怪しまれなく、且つ情報が手に入る。アルバイトの人はRCに報告するだけでお金が手に入る。
『監視者』に特権はないが『監視者』はこのMCOに複数人だが存在している。
現在『監視者』として名が挙がっているのは――エレン。ネルセス。シュレディンガー。虎次郎とアクロマ、ボジョレヲとセスタ、Drである。
まだまだ『監視者』はりかもしれないが、今現在明かされているのは彼等だけである。
『監視者』はMCOの情報を知っている。置く深くまでとはいかずとも、ディープウェブ程度の情報は知っている。だからアシバはむぃのことを『監視者』かもしれないと思って聞いたが、はずれた。
違うことに関して、嘘はついていない様子にアシバは更に困惑し、荒げる感情のまま彼女に聞く。
なぜ知っているのか。
なぜ自分の奥の手がツールであることを知っているのか。
「お前は………! お前は何なんだよ! お前はどこまで知っているんだっ!」
「知ってるも何も………、むぃは知っていることを話しただけです」
嘘なんてこれっぽっちも話していない。
そう断言するむぃだが、それでもアシバは頭を掻きむしり、納得していない素振りをしながら彼は怒鳴った。
「そんなの嘘に決まっているっ!」
むぃに対しての困惑と恐怖。それを怒りで隠し、怒鳴ることで感情を怒りと言う名の風呂敷に包み込む処世術――否、これは虚勢。
「俺が使ったこれを知っている奴は少ない! 五年前に消滅して、もう知っている奴なんていないんだ!」
目の前にいる女に対し、彼は隠すように怒鳴ったのだ。
「知っているとしてもオタクか動画で金稼ごうとしている奴しかいない! そしてその関係者しか知らないはずなのにっ! お前はそれを知っているっ!」
自分の奥の手が明かされたことへの驚愕を。
「お前は何者なんだっ! ガキの姿で相手を騙そうとしているのかっ? 見え透いた嘘はつくなっ!」
自分の奥の手を知り尽くしているであろうむぃに向けて――彼は怒鳴る。
「お前は! 何者なんだぁっ!?」
「むぃはむぃです」
だが、そんな彼に対してもむぃは臆することなく、彼を見つめて言う。
僅かに震えている声も、アシバと比べたら大したことがないように感じてしまうほど、はっきりしている。そんな声で彼女はアシバに向けて言い放つ。
「むぃは十歳の女の子。現在小学校四年生で、頭の病気を抱えています。MCOにいる理由は、治療とワクチン製造のために、むぃはサンプルとしているんです」
覚えていますか?
知っていますか?
むぃは聞く。
「『膨張記憶集荷不病』」
「あぁ………?」
「………!」
むぃの口から放たれた言葉を聞いて、アシバは理解できないと言わんばかりに眉間にしわを寄せ、遠くで聞いていたコウガとツグミは驚きの顔をしてむぃのことを見る。
それは、いつぞやかむぃが話していた病名。
VRゲームが普及してから発病しだしたものではない。
遺伝子的でもない。突然発症するものでもない――生まれた瞬間発症する難病。
「外国では、『メモリ・バング症候群』と呼ばれている指定難病と言われている病気で、むぃはその病気の発症者。脳が小さいのに膨大な記憶力と暗記力の所為で脳への負荷が大きくなる病気。最悪脳の一部器官が壊死してしまう。そんな病気にむぃはかかっています」
その病気のお陰で、あなたの奥の手を見破ることができた――サンプル猫です!
そう言い切ると同時に、むぃは地面に爪を立てて駆け出す。
言葉通りの行動――本当に地面に猫の爪の痕を残して、むぃはアシバに向かって駆け出した!




