7話 脆い平穏
リヒトは昼食を食べると直ぐにトミーの家に向かった。
トミーの家のドアをノックせずに空けた。
「お邪魔しまーす」
ノックはわずらわしいから要らないとトミーの母親に言われているのだ。
彼女いわくリヒトは家族同然だからいちいちしなくても言いだそうだ。
曲がりなりにも、貴族相手にそれを言い切る事は何とも彼女らしい。
「リヒト兄」
レンカはリヒトを見つけると直ぐに抱きついた。
リヒトもレンカを片手で抱きしめもう片方の手で頭を撫でた。。
「元気だったかレンカ」
「レンカ、止めろよ」
トミーがレンカをたしなめた、領主の息子に不敬だと言いたいのだろう。
「相変わらずだな、レンカはこんな風になっちゃ駄目だぞ」
「リヒト……」
トミーが捨てられた子犬のような目でリヒトを見る。
彼は早くも、この年で世間の理不尽さを存分に味わっていた。
「おじさん、これお願い」
リヒトは手の中に握った物をトミーの父親に手渡した。
トミーの父親は頷くいた。
「リヒト兄、ねえねえ前のお話して!!」
カレンがねだってきた。
リヒトはイスに座った。
さも、当然の様にカレンがリヒトの膝の上に座った。
『御使いリグフィエルの裁定』それがカレンが気に入っている話だった。
話を要約すると以下の通りになる
遠い昔、あるくにの王は自分の二人の息子のどちらを跡継ぎとするか迷っていた。
王は二人の息子がどちらを民を愛しているか試す事にした
まず最初に弟呼び王はこういった。
『お前の兄を次の王にする事にした、お前は民の為に兄を支えるように』
弟は答えた。
『解りました父上、兄上が良き王となるように私が支えましょう』
次に王は兄を呼び出した。
『お前の弟を次の王にする事にした、お前は弟を支えるように』
兄はこれに対して弟にかしずく事などできないといって王をその場で切り殺した。
直ぐに兄は王殺しの罪で牢屋につながれる。
牢屋で兄は悪魔と契約し牢屋を脱しし、その後魔族の軍と共に王都に攻め込んだ。
王都に近づいてくる異形の軍を前に弟は天に祈った。
『神よ、もし私と民が明日を生きる事を許して下さるのなら。
我が祖国を救いたまえ』
神は弟の願いを聞き届け天使リグフィエルを使わした。
リグフィエルの槍が天井から落ちたときに底に魔族の軍は消え去り。
生き残った兄は魔族の軍に西の山脈の果てに追放された。
そんあ、御伽噺をカレンにもわかるように優しい言葉に代えながらリヒトは語った。
そして、話が終ったとき。
「スースー」
カレンはリヒトの膝の上で寝ていた。
リヒトは苦笑いしながらでもカレンの髪を優しく撫でた。
*****
教会暦743年 春季第3の月17日
帝国の北部のローヘンの状況は日増しに緊張を増していた。
ラティーシアは軍隊こそ出さない物のローヘンに住むラティーシア人達に武器を配り実質の民兵としている。
対するリーゼベレク統一帝国もやはり陸軍を出すのは躊躇ったが大量の保安警察の職員を送り込んでいた
もし、どちらかが正規軍を送り込めば即座に戦争になりかない。
両国の緊張はローヘン地方に住む住民達にも伝わり、民間人の間にも緊張が漂うようになっていた。
「定時だ、作戦を開始する」
ローヘン地方の谷の間にある村を覆面で顔を隠した男と保安警察の制服を着た男が見下ろしていた。
彼らの手に握られていたのは、火炎ビンとマッチロック式のライフル、それに何本もの筒に導火線を繋いだ爆竹だった。
「了解した」
制服を来た男が身軽に村の方降りていく。
覆面の男は魔術で火炎瓶に着火すると、それを眼下の家に向かって放り投げた。
火炎瓶は立て回転をしながら、民家に向かって落ちていく。
そして、民家の屋根に当たると木造の家が燃え出した。
家の中から住人らしき女が子供抱えて飛び出してきた。
「火事だー」
瞬く間に、集落が騒がしくなる。
そのとき、軍服を着た男が集落にたどり着き叫んだ。
「ラティーシアの民兵が武器を持って、ここに向かってくる。
速やかに周辺の集落に避難しろ!!」
男はそのタイミングを見計らい爆竹に火をつけ放り投げると、銃を構える。
爆竹が鳴り響いたタイミングに合わせて男は銃の引き金を絞る。
男は狙ったとおりに女の頭を打ち抜いた。
それを見た村の住人達には本当に複数の銃で撃たれていると錯覚した。
彼らは我先にと南に向かって走り出した。
「成功したな」
彼らは通称亡霊、保安警察内に存在し外部には後悔できないような任務をこなすための人員だった。
今回彼らの任務はリーゼベレクが戦争を仕掛けるための口実を作る事だった。
既に戦争までのシナリオは決まっている。
*****
中に入るとそこは居ような光景だった。
部屋に窓は無く、部屋の殆どを占める長机の上には地図が広げられ、部屋の置くには軍旗が飾られている。
しかし、何より異様なのは部屋の中に要る軍服をきた将校達の存在だろう。
一番奥に鎮座するシュトルフ上級大将が入ってきた男に言った。
「保安警察が工作を成功させました」
「そうか」
シュトルフは興味が無くなった様に視線を地図に戻した。
他の将校達の反応も薄く当然の事を聞かされたと言わんばかりだ。
「下がっても良いよ」
ミューラの一言で男は敬礼をすると外に出た。
男が出て行くのを見届けたミューラは懐から軍旗と同じリグフィエルが刻まれた銀時計を取り出し、開けた。
「命令は停止されず、現在時刻を持って574号は発令された。
これは、戦争だね」
ミューラは全員に見せるように時計を裏返す。
時計の針は長針も短針も12をさしている。
統一帝国では皇帝からの極秘命令を番号を付けて呼ぶ、特殊なところは予め皇帝によって指定された条件を満たしたときに自動で発動される。
今回の命令は『クラウス・フォン・シュトルフ上級大将、並びにその指揮下にある全将兵は二日後にラティーシアに進行を開始せよ』。
条件は『国家保安警察より、工作完了の報告がなされ尚且つ日付け変更までに命令の停止が通達されなかった場合』であり、これから皇帝その人が直接乗り込み作戦の中止を命じでもしない限りは彼らは行動を停止できない。
他の将校達も同じデザインの銀時計を取り出し時間を確認する。
誰もが無言で頷く、自分の時計でも間違いないことを確認した。
「傾聴せよ!!」
シュトルフが立ち上がり言った。
士官達は立ち上がり直立不動の体制を取る。
シュトルフはゆっくりと語る。
「現在時刻を持って祖国は我々に開戦を命じた。
語ることは無い、我ら統合陸軍の唯一の義務は祖国に仇名す全てを我らが全てを持って砕く事である。
北方軍集団、全軍は義務を忠実に履行せよ。
二日後に『ベルリットの行進』を実行する、各自準備にかかれ」
「了解!!」
部屋に居たすべての将校は敬礼をした後、小走りで部屋を出た。