俺の移動
俺の移動
その日、話しかけられた。
「お前は、体力もあるし、好奇心も強いみたいだ。どうだ移動するグループに入らぬか?」
彼は移動のリーダー。
彼らは、八ヶ岳や浅間山を渡り歩く。
「俺は海の男で山登りには慣れてない。興味はあるが、大丈夫か?」
「歩けるなら、大丈夫だ。」
考えるよりも先に反応した。
決めた。
俺は息子を妻に頼み、移動するグループに入った。
歩き始めて直ぐに気が付いたのは、大陸の山とは違うということだ。
そう、道は古くから踏み固められていた。
人が、そこを歩いてきたからだ。
そして、縄文の景色は、今も残っている。
俺は、感動していた。
温暖なんだろう、草木が多い。
始めに行ったのが春日山だった。
山は険しく、歩くのにコツがあるようだ。
歩幅が大きすぎると言われ、これを小さくする。
さらに、足を左右に広げろと言われた。
俺は、言われた通り動くと、簡単に登れるようになった。
歩き方が違うのかと、感心した。
暫くすると、大岩があった。
花が飾ってある。
何だと感じた。
すぐ先に小屋があった。
リーダーが挨拶し、巫女が出てきた。
「ほう、南の方の渡来者とは違うな」
巫女は俺の顔つきが、違うことに驚きもしなかった。
見透かされてるような気がしたし、南北に移動するグループも寄る所で、渡来人の話を聞いていたようだ。
渡来人。漂流者とは違うみたいだ。
その後は妙高を抜け、今度は戸隠に入った。
至る所が、山なのだなと感じた。
獣道は険しく、森の奥に入った。
ここにも大きな岩を祀っているのか。
獣道の途中に大岩を避けるようにあった。
戸隠の小屋は複雑に二重になっていて、手前に男が火を扱い、料理のようなものを作っていた。
その奥にまだ小屋が重ねてあって、侍女に囲まれた巫女がいた。
俺は紹介されたが、帰ってきた言葉は春日山の巫女と同じだった。
情報の伝達が正確なのか。
よく分からない違和感が走った。
その後、侍女が巫女の周りをゆっくりと足を土に叩きつけるようにドン、ドン、ドンと回ってる。
踊っているのだろう。
巫女は、自分の前に小さな火を焚き、祈りのように手を合わせていた。
パッと手が伸びると、ボッと青い火が登った。
その途端雰囲気が急に暖かく、静かになった。
その日は暮れていた。
小屋の前で焚き火を起こし、夜になった。
飯は思いの外、肉やスープがあり贅沢なものだった。
山の夜は木々の間から見える月が、輝いていた。
静かだった。
翌日は、先に進んだ。森は険しいが、獣道はあった。
古くからある道に思えた。
山で泊まり、道を進むと谷間に出た。
夏の暖かい日差しが照りつけたが、風が通り涼しく感じた。
谷間の平地は、歩くのが楽だ。
内陸を渡り歩くのに、慣れてきたのだと思った。
好奇心の強い俺には向いてる。
そして、諏訪湖に着いた。
縄文の集落が山に向かって幾つもあった。こんな規模の集落は初めて見た。
移動するグループは、知られていて、知らない奴という違和感は無かった。
昔からあるもののようだ。
湖の近くに祠があった。
湖は、海とは違い、平たく広がっていた。
吹く風に、煽られ、揺れる湖面は、静かだった。




