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退魔師としての才能を買われ、決められた御幸との結婚。その存在価値が否定され、堅牢だった足元が崩れていく。
(私は、御幸様に見合う人間でないといけないのに……っ)
気づけば神奈は、会場の外にある中庭へと辿り着いた。辺りを見渡せば、満天の夜空と色とりどりの花が咲き誇る庭園が目に入る。
(どうしましょう……会場を飛び出してきてしまったわ)
いろいろな感情がない交ぜになり、神奈は中庭の真ん中にある階段に腰掛け、膝を抱えた。
赤い薔薇の花に囲まれたその場所にいると、御幸との思い出がよみがえる。初めて自分の誕生日に、薔薇の花束を贈ってくれた婚約者のことを──。
「神奈さん」
その時だった。背後から名を呼ばれ、神奈の体がびくりと震えた。
振り返らなくても分かる。自分の後を追って、御幸が来たのだ。けれど、神奈は振り返ることができず、そのまま自分の膝をギュッと強く抱きしめた。
「……珍しいですね、貴女があんなことで取り乱すなんて」
その言葉に、胸がずきりと痛くなる。「あんなこと」と御幸が言う通り、確かにこの程度のことで平静を保てないとは、桐生院家の令嬢として失格だ。
『桐生院の名に恥じぬ振る舞いと力を見せてやれ』
『はい、お父様……!』
『私は出来損ないを子に持った覚えはないぞ。ほら自分で立て、神奈』
厳格な父は、いつもそう言って神奈のことを厳しく躾けていた。退魔師の訓練をする時も、幼い神奈が怪我をしたって手を差し伸べたりせず、黙って一人で立ち上がるのを見ているような父だった。
なのに、人前でこんな醜態をさらすとは、さぞ父も落胆したことだろう。きっと、御幸も……。
けれど、神奈にはもう限界だった。
自分の心を押し殺して、完璧であろうとすることに。恋心を抱く御幸に、偽りの姿を見せ続けていることに。
「御幸様……お願いがあります」
両手をギュッと握りしめると、神奈は立ち上がり、婚約者に背を向けたままそう言った。
「……何ですか」
その穏やかな優しい声に、神奈の胸は一層締め付けられた。けれど、意を決して言う。
「婚約を、破棄してほしいのです……」




