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「特訓、ですか……?」
「はい、神奈さんが僕に慣れるための『特訓』です。これからスキンシップを増やしていきましょう。……例えば、こんな風に――」
御幸はにっこりと笑いながら、対面に座る神奈の方へと手を伸ばしてきた。かと思えば、テーブルの上に置いていた神奈の手の甲に、つーっと人差し指で触れてくるものだから、思わず体がびくりと震えた。
「み、御幸様……っ?!」
分かりやすく赤面しながら狼狽える神奈に、御幸はクスクスと笑って「だから、訓練だと言ったでしょう?」などと平然と言ってのけた。まるで神奈の反応を楽しむかのような視線に、一層胸が高鳴ってしまう。
それから、神奈の手の下に自分の手を滑り込ませたかと思うと、今度は指と指を絡ませるように、右手をギュッと握られた。
これには、さすがの神奈はキャパオーバーらしく、「御幸様、ちょっとお待ちくださいませ!」と言いながら目を回している。
「こ、こんな破廉恥な訓練、私やり遂げられる自信がありませんわ!!」
「ただ手を握りしめただけですよ? これから『もっとスゴイこと』もしたいのに――」
「もっとスゴイこと?!」
頬杖をつきながらご機嫌な様子で、自分の手をにぎにぎと握ってくる御幸に先ほどから神奈の胸のときめきが止まらない。たおやかな見た目に反して、御幸の手は、ごつごつと骨ばった男らしい手をおり、ギャップに悶えてしまうばかりである。
(「手を握りしめただけ」なんてものでは、ありませんわ……! 御幸様はご自分がどれほどの殺傷能力をお持ちなのか、ご存じないのよ……!)
神奈が平常心を保とうと、心の中で必死に「心頭滅却すれば火もまた涼し……心頭滅却すれば火もまた涼し‥‥…(以下同文)」と唱えているのをよそに、御幸が甘えるように指を絡ませてくるので、とうとう堪えきれず。神奈は、ガンッ!と額をテーブルの上に打ち付けた。
「神奈さん、大丈夫ですか?」
「……ええ、お構いなく。私の堪え性がないだけですので……」
こんな状態では特訓の成果がでるのは、随分と先になりそうだ。心臓が爆発しそうで、しばらくは耐えられそうにない。
(まあ、お優しい御幸様のことですから、きっと徐々に段階を踏んでくださるはず……)
そう思っていたのだが、対面に座る御幸は「神奈さん」と愛おしそうに婚約者の名を呼び、容赦ない一言を放った。
「今日は、手を繋いで帰りましょうか」
顔を上げた自分に、にこりと美しく微笑んでそう言った婚約者を、「御幸様は鬼なのかしら!」と思ったことは神奈の心の中だけの秘密である。




