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「さすがはエリート退魔師、桐生院家のご令嬢だ!」

 

 桜の花が街を彩る、ある晴れた日の昼下がり。着物や洋服姿の人々で賑わう大通りの真ん中で、桐生院(きりゅういん)神奈(かんな)は周囲からそんな称賛の声を向けられていた。


 神奈が先ほど祓った魔鬼は、黒い煙となり跡形もなく消え去って、街には再び平穏が訪れた。


 胸ほどまである艶やかな黒髪に、涼しげな目元、通った鼻筋。陶器のような(なめ)らかな肌は日焼けをしておらず、整った顔立ちはどこか冷たさを感じさせる。だが、そんな美しい容姿もまた、彼女が注目を浴びる理由のひとつだった。


 いまも彼女が魔鬼退治に使用した刀を鞘に納める姿を見て、若い娘が黄色い声を上げている。――その時だった。


「惚れ惚れするほど見事な刀(さば)きですね」


 神奈が振り向けば、にこやかな笑みを浮かべる美男子、芦屋(あしや)御幸(みゆき)が拍手をしながら近づいてくるところだった。


「御幸様……」

「さすがは僕の婚約者だ。刀を振るう姿も美しい」


 肩より短いさらりとした色素の薄い髪に、流麗な目元はどこか中性的な雰囲気を纏っている。灰茶色のスーツにネクタイと春らしい装いが、より一層彼の華やかさを引き立てていた。


 道を歩けば男女問わず視線を集めてしまう御幸は、まさに「眉目秀麗」という言葉がぴったりな美青年。神奈の婚約者である彼もまた、人々の注目を浴びてしまう帝都の有名人である。


「御幸様ったら、またご冗談を。そんなことより急ぎませんと、取引先との会食に遅刻しますわよ」


 だが、そんな美青年の眩しすぎる微笑を目の当たりにしても、顔色変えずに歩き始める神奈。


 今も美麗な婚約者の方を見ようともせず、御幸は苦笑を浮かべて、その後ろをついていく。紫に白百合が描かれた着物は、そんな凛とした彼女の謹厳さを表しているようだった。


「僕がこんなに笑顔を振りまいているのに、表情ひとつ変えないのは貴女くらいですよ」


 「まったく」とおかしそうに笑う御幸に、神奈は「そうでしょうか」と相変わらず淡々と返した。


 親同士が決めた政略結婚で、婚約者となった二人。恋愛感情がない相手に、世の中の恋人同士がするみたいな反応を期待するのは難しいことだろうか、と御幸は思う。


 けれど、彼は知らない。神奈がどんな思いで彼の婚約者になったのかを。婚約者の笑顔ひとつで、彼女がどんな苦悩を抱いているのかを──。

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