第37話「僕たちは、変わった」
格納庫の空気が重たい沈黙に包まれていた。
全機、感情適性値:戦闘不能域。
つまり、彼らは――“もう壊れていない”。
凪沙は、報告書のデータを見つめながら呟いた。
「そうだよ……私たちは……もう前みたいに壊れてない」
かつてのように、泣き叫ぶことも、誰かを拒絶することも、しない。
だけどそれは、感情がなくなったからじゃない。
感情を、少しだけ受け入れられるようになったから。
しかし、それは共鳴兵器としての適性の喪失を意味していた。
彼らの機体は、“負の感情の共鳴”を動力としている。
壊れていないこと=起動不能という、残酷な公式。
だがそのとき、瑠璃が顔を上げた。
「でも……戦わなきゃいけないんだよ。変わった自分たちで」
歩夢も、それに続いた。
「もう昔みたいには戻れない。戻りたくない。
でも、それでも……俺たちはここにいる。戦場に、立ってるんだ」
教官室から葉月の声が響く。
「共鳴システムはもう使えないわ。
……それでも出るのなら、“手動モード”で行くしかない」
それは、かつて誰も試したことのない方法。
“自己駆動型戦闘モード”――感情ではなく、意志によって動かす機体。
マニュアル接続。
共鳴フィード遮断。
内部ブースター制御、手動切替。
コクーンの座席で、歩夢は深く息を吐いた。
「動け、動いてくれ……!
俺は、もう“全部失ってからじゃないと動けない”自分じゃない」
数秒の沈黙の後、
――コクーンの目が、ゆっくりと開いた。
他の機体も次々と、遅く、ぎこちなく、だが確かに、起動を開始する。
カナタ:「うまく動かなくても、壊れそうでも……それでも、行こうよ」
透:「これは“感情”じゃない。“選択”だ」
凪沙:「何も信じられなかった私が……いま、自分を動かしてる」
瑠璃:「これは……希望でも絶望でもない。“私たち”の意志だよ」
共鳴ではなく、共存。
依存ではなく、対話。
痛みを隠すのではなく、抱えながら動くという、新しい在り方。
出撃準備完了。
五機、非共鳴状態での出撃という、異例の戦闘ミッションが発令される。
戦闘AIは警告を表示し続ける。
『感情共鳴:無反応』
『推奨:出撃中止』
『生存率:3%以下』
歩夢は、静かに言った。
「それでも行く。俺たちは……変わったからこそ、行くんだよ」
エレベーターが上昇する。
空の彼方には、グラン・ヌルの光が、神のように降り注いでいた。
──そして、五つの機体が、それでもなお、飛び立った。




