第22話「変わってしまった適性」
陰影機関、調整室。
大型スクリーンには2人のパイロット名が赤字で表示されていた。
《MD-01:一ノ瀬歩夢》
《MD-03:鷹津凪沙》
《共鳴適性:急落》
《自己否定率:83% → 61%(適性下限値以下)》
《ペア・レゾナンス:失敗》
機体内で再現された訓練空間。
互いの思念を重ねるはずの“ペア・リンク”が、失敗していた。
歩夢がゆっくりとゴーグルを外す。
「……だめだ。重ならない。なんか、空回りしてる感じ」
凪沙も無言のまま端末を外し、ぽつりと呟いた。
「……私、変わりたいって思っちゃった」
その場にいた葉月教官が、腕を組んで深く息を吐いた。
「いいことよ。それ自体は。
だけど、それは“戦えなくなる”ってことでもある」
歩夢が、振り向く。
「……どういう意味ですか」
「自己否定率、共鳴深度。
この機体たちは“壊れた心”とリンクして起動する。
君たちが立ち直り始めたら、機体は“戦う理由”を失うのよ」
凪沙の顔が曇る。
「つまり……私たちが、ちゃんとした人間になろうとすると……
この世界では、役に立たなくなるってこと?」
葉月は答えなかった。
それが真実であるということは、誰よりも分かっていたから。
その夜。居住ブロックの廊下。
凪沙は歩夢と並んで歩いていた。
会話はなかった。沈黙が、いつもより重く感じられた。
「……ねぇ」
不意に、凪沙が小さく言った。
「もし、私たちがちゃんと笑えるようになったら──
もう、誰のことも救えなくなるのかな」
歩夢は立ち止まり、考える。
「……それでも、笑えるようになった方がいいんじゃないか。
戦えなくなったって、誰かのそばにいたいって……そう思えるのって、悪いことじゃないだろ?」
「……うん。そうなんだけどね」
凪沙の声は、どこか寂しげだった。
次の日のブリーフィングルーム。
カナタ、瑠璃、透が先に集まっていた。
「歩夢と凪沙、また駆動率下がったらしいよ」
瑠璃がタブレットを眺めながら言う。
「うわー、青春しちゃってますねぇ」
カナタが皮肉っぽく笑うが、その目はどこか遠い。
透が静かに言った。
「彼らは、かつて“共鳴の中でしか救われなかった”者たちだ。
共鳴から解放されるということは──救済を手放すことでもある」
葉月が入室し、全員に告げる。
「次の出撃は、4人で行くわ。MD-01とMD-03は……待機」
室内に、わずかに重い沈黙が落ちた。
戦えなくなるほど、心が癒えていく──
それはこの世界で、**いちばんやるせない“幸せ”**だった。




