第21話「共鳴しない仲間」
訓練後、居住区ラウンジ。
久しぶりのオフ、のはずだった。
だがその空気は、微妙な温度を孕んでいた。
歩夢は黙ってコーヒーを啜り、瑠璃はスマホをスクロール。
透は読書。凪沙はソファの端にうずくまり、誰とも目を合わせない。
そして、カナタは──まっすぐ笑顔で、言った。
「ねえ、僕もさ……もう、“仲間”って思ってもいいよね?」
一瞬、誰も答えなかった。
沈黙の中、凪沙が低い声で言った。
「……あんたは“陽キャ”でしょ。
陰の世界にまで、入ってこないでよ」
カナタの笑顔が、ひとつ強ばる。
「……陽キャ? またそれ?
僕がどれだけ傷ついてきたか、君たちに分かるの?」
凪沙の目が細くなる。
「分かんないよ。
笑って誤魔化して、“全部自分で勝手に処理して”、
“可哀想な過去”を盾にしてさ──
何? 『僕も傷ついてるんだよ』って? 今さら?」
カナタの声が上ずる。
「勝手に“陽”って決めつけたのは、そっちじゃないか。
僕だって……苦しかったよ、ずっと。
本音を殺して、空気を読み続けて……」
そのとき──
「ああもう、うっさいうっさい! みんな面倒くさい!!」
瑠璃がソファから立ち上がって叫んだ。
「陰キャだの陽キャだの、どっちでもいいでしょ!?
全員メンタルぶっ壊れてんのに、なにマウント合戦してんのよ!」
透は本を閉じ、冷静に一言。
「感情の共鳴は、相互認識が前提。
だが今のこれは、ただの自己投影と拒絶反応だ」
その場の空気が、完全に冷え切った。
そして──
警報が鳴った。
《緊急任務発令》
《ヌル端末・高濃度出現》
《部隊連携必須》
《チーム共鳴率:不安定》
歩夢はゆっくり立ち上がる。
表情は曇ったまま、だが声は静かだった。
「……出撃しよう。たとえ“共鳴しなくても”、今は、動くしかない」
戦闘中、5機の共鳴波はずれ、同期は不安定。
《共振率:32%》
《感情ログ:矛盾・混乱・隔絶》
《戦術支援不能》
敵の群体型ヌルが、リンクの弱い箇所に集中攻撃を仕掛けてくる。
「……まずい、バラバラにされる……!」
教官・葉月の声が震える。
だが──
歩夢の通信が、チーム全員に入った。
「共鳴なんか、今はいい。
バラバラでも、生き残る方法を考えよう」
誰もが、一瞬戸惑う。
だがその声に、なぜか少しだけ安心した。
たとえ今は、心が通じ合わなくても。
信じられなくても。
それでも、戦う。
「共鳴しない仲間」でも、「敵」じゃない。
任務終了後、ブリーフィングルーム。
言葉はない。空気も重い。
だがその静寂の中、瑠璃がぼそっと言った。
「……ま、たまにはこういうのも、悪くないかもね」
カナタは、初めて“笑わなかった”。
「僕……何も言えないや。
今まで、“仲間になろう”って言えば通じるって、思ってたのかも」
歩夢が、小さくうなずいた。
「……そうだな。俺も……誰かと一緒にいること、簡単に思ってたかもしれない」
まだ修復しない。
でも、壊れたままの距離を、少しずつ見つめ始める5人だった。




