◆第七話 ⑤ ◆
確かにルビアはセイとコウに比べたら頭一つ分背が低い。だが、ちっさいと言われるほどではないと思いたかった。
「ええと……ご飯は、侍女たちが用意してくれたものを食します。小さい……かどうかは、どうでしょう? 同じ年で、わたしよりももっと背の低いものもおりますし……」
そうなのか? とばかりに首を傾げるセイ。
「ジジョ? ああ、侍女ね。ということはルビア・マリーってばニンゲンの中でもかなり身分の高いほう?」
「あ、はい。侯爵家の、娘です……」
ドラゴンに侯爵という位が通じるのかと、言ってからルビアは疑問に思ったが、コウから観察されるようにじっと見つめられて、そのまま口を閉じてしまった。
「えーと、ちょっと待ってね」
コウは「うーん」と低く唸った。
「……えっと、ルビア・マリー。貴女、このドラゴンの谷で、自分が生きていけると思う? 食べるものとか、自分で採集できる?」
「無理ですね、きっと」
「じゃあ、どうやって生きていく?」
どうやって生きていくのか。
選択するまでもなく、ルビアはあの『星詠みの国ヴェンタール』の外に出てしまったのだ。
経過はどうであれ、これからを考えていかなくてはならない。
だが……何一つ生きていく術などは思い浮かばなかった。
「先ほども、セイ様にはもうしあげましたが。このようなところで何の力もない小娘一人、生きていけるとは思えません。もしもあのように空を舞うドラゴンのどなたかに食べられるのであれば、見知らぬドラゴンよりは、その、言葉を交わしたセイ様に食べられた方が良いのではと思ったのですが」
「オレはっ! 人間なんて食わねえって言ったろっ!」
「はい、ですから、どうしましょう? 人の形態に変化できるドラゴンの方々は、わたしのような人間を食べないというのであれば、コウ様も、わたしなどお食べになりませんわよね……?」
「食べないけど。ルビア、アンタ自殺願望でもあるの? 食われたいの?」
「いえ、食べられたいわけではないのですが……。どうしたら生きて行けるのかも分かりませんので。空腹の末に餓死になるのも嫌なものでして。もし、わたしがここで生きていく術があるのなら嬉しいのですが……」
積極的に死にたいわけでは決してない。
だが、どう生きて行けばいいのかわからないのだ。
嫌だと思いつつ、『星詠みの国ヴェンタール』から逃げることを選択できなかったのは、そういうわけだ。
(わたしは……自国であれば、それなりに仕事や政務ができて、生きるのには困らない。嫌だけど、本当に嫌だけど、わたし、それしか、その生き方しか……知らないのよ)
苦しいのは嫌だ。
辛いのも嫌だ。
だけど、どうやったら苦しさのない生き方ができるのか。
ルビアには全く分からない。
(『悪役令嬢』なんて嫌だけど、その生き方しかできないなんて。わたしはやっぱり一生『運命』に支配されたままなのかしら? だけど、今はヴェンタールに戻ることもできないのよね。戻りたくはないけど、どうしたらいいのかしら……)
結局、ルビアの辛さはこれに尽きるのだ。
ここではない、どこかへ行きたい。
だけど、そのどこかで生きて行けるのか、わからない。
(問答無用で国の外に……『悪役令嬢』の運命の外に出られたというのに。結局わたしは何も出来ないのね……)
ルビアは、そのまま遠くを見た。
青い空と白い雲。悠々とその空を飛ぶドラゴン。
(こんな高いところから飛び降りたら。意識を失って、痛みも感じないまま死ぬのかしら)
立ち上がり、そっと地表を見ようとした。
しかし、目が眩み、へなへなと腰が抜けたようにまたしゃがみこんでしまう。
(わたし、死ぬことも選べないのかもしれない。そうよだって、死にたいわけじゃないのだもの。わたしが、幸せになれる場所は……あるのかしら?)
そんな場所があるかどうかも分からない
ルビアは、どこにも行けず、動けず、蹲るばかり。
(助けてほしい。でも、誰に?)
思い浮かぶのはリシャール・デルトだが、彼はこの場には居ない。そして、彼は既に自身の道を選び、その道に、ルビアはきっと進まない。
(セイ様とコウ様。今であったばかりの、しかも種族の違う方に、助けてほしいなんて言えないわ。でも……)
せめて、近隣の人里まで送ってはもらえないだろうか?
ルビアがそう考えた時に、コウが「あっ!」と声を発した。
「あ、ルビアさあ、セイ兄に食べてもらえばいいじゃん!」
「はあ?」と呆れた声を出したのが、セイだった。
「赤いの、お前な、オレに共食いさせる気か?」
コウはぶんぶんと首を横に振った。
「あー、食うの意味が違う」
「はあ? お前何言ってんの?」
「もぐもぐごっくんじゃなくて。ほら、ルビア、幼体じゃないって言ってたじゃない。成体なんでしょ? ならいいじゃん。セイ兄の番になれば」
「はい? ツガイとは……」
「へ?」
「あ、食べるって言い方が悪かった? じゃ、言い直すと、大人の男と大人の女なんだから、自己責任にてつがえばいいでしょってこと。セイ兄はルビアを嫁にして、面倒を見る。代わりにルビアはセイ兄の子を産む。」
「ちょっ、待てよ、赤いのお前っ! い、いいいいいいきなりなななななにをっ!」
「だーってセイ兄、ヨメの一人も連れてきたことないじゃん。そろそろ発情期終わるよ? いい加減に子ども作らないと。丁度いいから産んでもらえばって思うんだけど」
「なにがちょうどいいだああああああああああああああああっ!」
セイの絶叫が、ドラゴンの谷に響き渡った。
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第七話、終わり。
次回第八話になります。




