86 リッチィさん、悪魔に問い掛けられる
連投です。
「人間族、王国との和平交渉についてです」
真剣な顔で私に問うイケメンさん。
和平交渉とは、人間族の王国と和平を結ぶと言うことなのだろうか。
てか、それを何で私に聞くのだろうか。
これからの未来の魔族と人間族に関わる重要な事を私に聞かないでほしい。凄く面倒くさいです。
「リッカさんは魔王城――魔王軍の幹部であり、魔王様と宰相様に継ぐ権力者。是非意見を聞かせて頂きたいです」
そうだった。
私はいつの間にか、この魔族の国のNo.3になってたんですよね。おい、本当に大丈夫かこの国。私の一言で下手したら国の未来が傾くぞ。
「リッカさんは人間族との和平についてどう思いますか?」
イケメンさんが期待した目で此方に質問してくる。
どう思いますかと聞かれても、いきなりそんな事を言われても私には全く分からない。
この世界の人間族と魔族の歴史など、異世界人の私には知識が皆無なので簡単に答えようが無いのだ。そのせいで周りからは『常識知らずのアホ』と、中々に酷い風評被害を受けているんだから。
イケメンさんの質問に困ったとしていると、
「魔族と人間族は今まで長い時間を争ってきました。今現在は領土問題は勿論、人種問題も抱え、多くの種族が傷つきながらも今尚、戦争を続けています。ですが、それは全てお互いの勘違いから始まった事なのです」
イケメンさんは急に熱く語り出した。
「初めに人間族は知性無き魔物を生み出し、操って襲っているのは魔族だと言い始めました。そして魔族は、この世界に三つの大災厄を生み出し、世界の理を乱したのは人間族と言い始めました」
イケメンさんは続けて語る。
「確かに、長い歴史を紐解けばそれは半分事実ではありますが、もう半分は全くの勘違いなのです。我々魔族は知性無き魔物から進化する者もいますが、基本的には子を身籠り、人間と同じように繁殖し、知性ある子を育てていきます。我々は魔物を生み出しても操って等も決していませんし、そもそも魔物を操る事など不可能なのです」
何故だろう。
魔王様からチラチラと視線を感じる。
はい、ごめんなさい。
クリエイトアンデッドですね。
私はゾンビの魔物を無限に生み出し、自在に操る事が出来ます。
更に言えば、死体さえあれば知性有りゾンビ、エルダーゾンビをも大量に生み出す事も可能です。
「人間族も世界に三つの大災厄を生み出し、世界の理を乱したと言いますが、これは全て誤算から生まれたものです。そもそも大災厄を生み出しのは異世界からの人間であり、召喚された勇者なのです。人間族も決して世界の理を乱すつもりは最初からなく、元は魔族と――魔王様と対抗するための唯一の手段として呼び出した、異世界からの勇者の暴走が原因となっているのです」
何故かな。
宰相様からもチラチラと視線を感じる。
はい、ごめんなさい。
私は元勇者、異世界からやって来た人間です。
異世界の皆さん、本当にご迷惑を掛けてごめんなさい。
だけど私はもうアンデッド、リッチなので勇者とは無関係なのでそんな目で見るのは止めて下さいお願いします。
そして、イケメンさんは私に語り掛けた。
「僕はこの勘違いを正し、いつまでも続くこの争いに終止符を打ちたいのです。魔族も人間族も、これからは争う事なく、仲良く暮らす時代を作り上げていきたいのです。その為にも――リッカさん、僕に協力をしてくれないでしょうか」
長々と語り終えたイケメンさんが、期待した目で私を見据えている。
魔族と人間族、お互いが手を取り、争わず仲良く暮らす未来。
確かに想像してみれば素晴らしい未来であり、理想の世界だ。
そんな世界を予想し考えると、思わず笑みが溢れる。
「そうですね、確かに素晴らしい未来だと思います」
「分かって頂けましたか、リッカさん!! 貴女とならば平和な世界を――」
「ですが、すみません。はっきり言って無理です」
「――なっ、何故ですか、リッカさん!?」
裏切られたとした顔で此方を見詰め迫るイケメンさん。
――ちょっ、こっちに寄らないで下さいお願いします。
私、本当に貴方の事が生理的に受け付けないんです。淫魔のお姉さんなら未だしも、淫魔のお兄さんに迫られるとか本当に無理ですし鳥肌が立ちます。その淫乱イケメンオーラを止めろ。
近寄るイケメンさんに遠ざかりながら私は説明した。
「これ以上、魔王城のお仕事が増やされると本気で死にます」
冗談ではなく、本当に死ぬ。
人間族との和平条約が結ばれれば、それは国交が開かれるかも知れないということ。
国交が開けば、お互いの資源や技術力、経済効果など色々なメリットが見込まれる。
しかしその一方で、私達文官は死ぬほど大忙しになる事は間違いない。
今でさえギリギリなのに、これ以上に仕事が増えると本当に死ぬ。冗談とかでなく、本当に魔王城の機能が麻痺して国が死ぬのだ。
「そ、それなら人手を増やせば――」
「無理です。この国に文官に適正がある人はほとんどいません。いたとしても、それは皆、商業ギルドに引き抜かれています」
そもそも、文官に適正がある優秀な人が魔王城で働きたいと思うだろうか。
私は思わない。
日々の日常業務がブラック過ぎて死ねる。
魔王様の愛らしいカリスマ的な魅力で何とか魔王城が機能してるレベルだ。魔王様がもしも魔王から退位しようものなら……もう終わりだよ、この国。
それにイケメンさんが語る戦争の始まりがどうとか関係なく、もはや戦争という争いを純粋に楽しんでいる魔族から娯楽を取り上げるとか私には無理。どんな反発が起きるか分からない。
はっきりと不可能だと断言する私に、イケメンさんは答える事が出来ず『それでも……』と、中々に現実が理解出来てない様子だ。
「魔王様はどう思いますか?」
そこで暇そうにしている、ワシは関係ないのじゃとしている魔王様に振ってみる。
魔王様は突然に話を振られたせいか、『ワシに聞くのかや?』としながらも凄い面倒くさそうに答えてくれた。
「面倒じゃし、ワシも今のままでもよいと思うんじゃが……ワシ、これ以上に面倒な仕事を増やしたくないんじゃ。てかはよう魔王を降りて隠居したいのじゃが……誰か代わってくれんかのぅ」
ぶっちゃけまくる魔王様。
やっぱり魔王様は人間族の事など眼中にないみたいである。戦争中に平気で敵の首都にお菓子を買いに行ってるくらいだからね。
そんな魔王様は、チラチラと宰相様に『退位したいのぅ』と合図を送るも、『戯れ言ですな』と一蹴されていた。
「魔王様、ふざけないで頂きたい!! これは魔族として、国としての未来がかかっているのです!!」
魔王様の曖昧な態度に怒鳴るイケメンさん。
余程に怒っているのか、遠慮なく魔王様に罵声を浴びせているその姿は、この魔族の国に来て初めてみる衝撃的な光景―――私の知る限りでは、この国の人は皆が魔王様大好き信者で甘やかしまくるイメージだったから。
長期で家出をしても『仕方ないですねぇ』と、慈しむように許されるくらい甘々なのだ。私は絶対に許さんけども。
「じゃがのぅ……ワシ、そういうのはよく分からんのじゃ。ゼブルに聞いてくれんかや?」
「魔王様、いい加減何でもかんでも私に振るのはお止めくだされ。しかし、私もリッカ殿と同様、これ以上仕事が増えるのは賛成出来ませぬぞ」
魔王様の振りに呆れながらも同意する宰相様。
やはり宰相様も王国との和平は気が進まないようだ。
人間族との和平条約が結ばれれば、国交が開かれ色々なメリットがお互いに見込まれる。
魔王様の秘書官として働いていて分かったのだけど、魔族領土は資源が乏しい土地だが、ドワーフの金属加工技術やエルフの魔法技術能力は人間族と比べると非常に高い技術を持っている。
それと特殊な環境での採掘――アンデッド族の状態異常無効化能力を活かした過酷な場所での採取は人間族には真似出来ない不可能な事であり、そして凄く地味だけど、獣人のタフな労働力も馬鹿に出来ない。
そして魔族領とは逆で、人間族領は資源が豊富で鉱石が沢山埋まっていそうな山々がゴロゴロしているのだが、採掘技術や加工技術が未熟で持て余している状態だ。
お互いの状況を見てみれば、確かに和平を結び協力した方がメリットがある。
だがその一方で、私達文官は死ぬ。忙しくて死ぬ。冗談ではなく死ぬ。その時は私は魔王様と一緒に逃亡するのも辞さない。
外交官担当をしているイケメンさんならば、そんな魔王城の内情くらい分かってるだろうに……どうしてだろうか?
チラリと宰相様に伺う視線を向ければ、コッソリと教えてくれた。
「彼は親人間族派ですからな」
と、言うことらしい。
世界が違えど、やはり人が集まれば派閥というものが生まれるみたいだ。
「恐らく彼は、リッカ殿を親人間族派に引き入れたいのですな」
「えぇぇ……」
凄く面倒くさい。
どうやら私は知らぬうちに魔王派と親人間族派との争いに巻き込まれてしまったようで、新参者でありNo.3の権力を持つ私は、数が少ない反魔王派――親人間族派からしたら絶対に取り込みたい人物らしい。
「私には政治的な事は全く分からないので勘弁してほしいです」
本当に、本気で面倒くさいので勘弁してほしい。何故に異世界まで来てそんな事に巻き込まれないといけないのか。
それに私はどちらかと言うと、魔王様直属の秘書官であるんだから魔王派に属しているようなもんだろうに。
「リッカ殿は直接魔王様を泣かせる事が出来る数少ない人物ですからな。彼からしたら絶対に取り込みたい人物である筈ですぞ」
何故か凄く良い笑顔で言う宰相様。
もしかしてあれか? あのオリハルコンで魔王様の頭をグリグリした時の事を言ってるのか? アハハ、そんなバカな……
「あれでも魔王様は歴代最強と名高い尊いお方。そんな魔王様を直接お仕置きする事が出来るリッカ殿は……ご自身が思っている以上に重要な人物と位置付けされておるのですぞ」
主に次代の魔王候補として。
そう語る宰相様だが、そもそも私は元は勇者なのだからそんな事は絶対にあり得ない………そうですよね? と確認してみれば、無言の微笑みで返ってきた。私は今すぐにでも逃げ出したい気持ちでいっぱいです。
「うぅぅ……」
何故にそんな事になってるのか。
いやどうしてこんな事になったのか。
直ぐそばで大声で言い争うイケメンさんと魔王様を尻目に、私は本気で国外に逃亡しようかと悩んでいると、
「分かりました! それならばリッカ殿、僕は貴女に決闘を申し込みます!!」
何故か突然、イケメンさんが私に剣を突きつけていた。
読んでくれてありがとうございます。




