71 リッチィさん、完済する
「清々しい朝です……」
夜が明けた、朝が来た!
昨日までの絶望が嘘のような気持ちのいい気分だ。徹夜明けの疲れがまるでない。
今日は待ちに待った借金返済期限の最終日、朝である。
堂々と私は胸を張って冒険者ギルドに入る。
ちなみにソラは良い素材が手に入ったからとダンジョンに帰っていった。
相変わらず酒臭い酒場を通り抜けながら、目的の人が待つ受け付けへと進む。
早朝だというのに、冒険者ギルドは沢山の冒険者達で賑わいをみせている。みな働き者だ、酒場で飲んだくれている奴は働け、羨まけしからん。
ゆっくりと歩き進んでいると、少し違和感を感じる。
あれ、気のせいかな?
いつもよりも冒険者達が集まっている気がする。
それに皆の視線が私に向いてるような……まぁ、いっか。
「ようこそ、リッカさん。お待ちしておりました」
目的の人であるミラさんが、受付嬢たる凛とした態度で声を掛けて来る。
今日が私の運命を決める日にも関わらず、その様子は仕事に私情は挟みませんと立派だ。
「今日は冒険者ギルドが肩代わりした賠償金、600万ゴールドの返済期限の最終日となります。よろしいでしょうか」
ミラさんが『準備はいいですね』と、受付けの下からある物を取り出す。私が交わした借用書の契約書、それと……奴隷の証たる首輪を目の前に静かにコトリと置いた。
「ひぇ……」
意図しなく、私の声から怯えた声が漏れた。
それと同時に、周りにいた冒険者達が楽しそうに騒ぎ始めた。
あ、分かった。
こいつら全員野次馬だな。
私が今日、借金の最終日と知ってて皆集まったんだ。お前ら、私が奴隷に落ちる姿がそんなに楽しいのか? そうなのか? え、私の絶望が凄い顔に出るから娯楽で来た? ぶさけんな、帰れ! と、言いたい所だが――
「ふふふ」
馬鹿め。
お前らに目に物を見せてやる!
私は《チラシ》を展開して、じゃらじゃらと金貨を受付けの上にばらまいた。
「……え」
ミラさんの表情が酷く崩れた。
それと同時に、周りで楽しそうに騒いでいた冒険者達も口を閉じたかのように静かになる。
「返済期限ギリギリになってしまい、本当にすみませんでした。どうぞ、返済額600万ゴールドになります。お確かめください」
金貨にして実に600枚。
私は見易いように縦に10枚ずつ並べ、丁度60個のタワーを作ってあげた。
これこそ昨日、ソラと一緒に夜通し賞金首狩りに励んだ成果だ。とばっちりで傭兵団にも流れ弾を当てたけど、悪名高かったから多分大丈夫。
時間が無くて、朝イチで半年前にも一度牢獄でお世話になった屯所、兵士さん達が詰める建物に急いで通報し換金することになったけど……その話は別にいいか。
とりあえず『もう二度と来ないでくださいお願いします』と兵士さんに見送られながら冒険者ギルドへとたどり着いたわけだ。
「そんな、嘘……たしかに昨日までは、リッカさんの残金は25ゴールドしか無かったはずなのに……」
信じられないとするミラさんの呟きが微かに漏れる。
25ゴールド?
あぁ、確か昨日ミラさんと話してる時、手持ちで見せたのが25ゴールドでしたね。
ミラさんは金貨を一枚手に取ると、確かめるように聞いて来た。
「本物、ですよね……」
「はい、もちろん本物です」
なにやら水晶玉のような物を取り出し、金貨をかざし確かめるミラさん。もしかして、金貨の偽造が分かったりする魔道具だったりするのかな。
特に反応を示さなかった水晶玉に残念そうに? したミラさんは金貨を受け取った。
「たしかに、本物でした……」
「はい、頑張りました!」
「頑張っちゃったんですね……」
「超頑張りました!」
「頑張らなくてもよかったのに……」
「死ぬ気で頑張りました!」
本当に、死ぬ気で、頑張って、狩りまくりました!
もう色々と私は後戻りが出来ないくらい狩りまくりました。私は日本にはもう絶対に帰れませんね。後悔はしてますが反省はしてません。私は悪くない、全部襲ってくる準備をしてた悪人達が悪いのだ。二度としませんとは言えない、死ぬほど困ったら三度やるかもです。もう開き直りました。私はアンデッド、不死の王たるリッチです。これからは平穏に生きていきます。おわり。
金貨も無事に600枚、600万ゴールドを確かに受け渡し、残りは借用書に返済完了のサインをするだけになった。
野次馬の冒険者達も『つまんねぇの』と、野次を飛ばしながら散っていく。馬鹿め!
それじゃあと、私はこの状況を締めくくる為に借用書にサインを書こうとペンに手を伸ばす。
異世界の文字は相変わらず読めないが、自分の名前くらいは書けるようにと前もって勉強したのだ。一本角のお母さんに言われて習って。
「えっと、あの、ミラさん……?」
つたない手つきでサインをしてると、何故か途中で『ガシッ』と腕を掴まれた。
「――やです」
「え?」
「嫌です嫌です嫌です」
「み、ミラさん?」
ミラさんが変だ。
いつものミラさんじゃない。
「リッカさんは私のです!」
「いや、私は私のですよ」
嫌々と『妹が欲しい』と駄々を捏ねるミラさん。
これまた新しいミラさんが見れて嬉しいのだけど、今の状況は嬉しくない。
絶対にサインさせないとミラさんの腕が私の邪魔する。
誰かこのミラさんを何とかして下さいと他の受付けを見て見れば、人魚のマーメイドさんは『あらあら~』と困ったように静観しており、オバちゃんこと羊の獣人オバちゃんは『おやまぁ』と珍しそうにミラさんを観戦している。吸血鬼っ子はいつも通り怯えて話にならない。
「――あぅっ!」
ゴツンとミラさんの頭に拳が落ちる。
「何をしてるんだ、お前は」
面倒くさそうに呆れたギルド長がミラさんを見下ろす。結構な衝撃な拳骨に『ギルド長ぉ……』とミラさんが涙目で睨んでいる。
だが、ギルド長はそんな事は知らんと私に目を向け、厳しい口調で言った。
「お前は一体何をやらかした」
ギルド長の言葉に固まる。
色々と心当たりが有りすぎて困る。
ギルド長は続けて、
「魔王城から呼び出しだ」
嫌だ、絶対に嫌です。
断る、私は断る。
行きたくない。
「――ひゃっ!?」
そして返事をする間もなく、ギルド長が私を抱える。
「降ろしてください」
「断る」
逃がさないぞとギルド長。
いつもなら面倒くさそうに平気で上からの命令を無視してるはずなのに、なんでこんな時だけ――『魔王城でディナーが待ってるからな』買収済みかぁあ!! これ絶対、呼び出したの宰相様ですよね!? 前と同じやり口じゃないですか!!
「降ろしてください!」
「駄目だ」
「に、逃げないと約束します」
「どの口……顔が言ってるんだ」
「チクショウ」
本当にこんチクショウだ。
ギルド長が私を担いで外へと向かう。
「あ、ちょっと待って下さい。その前に、きちんと返済完了のサインだけは、サインだけはさせてください!」
どうせいくら暴れても、この貧弱ボディではギルド長からは逃げられないのだ。なら、せめてちゃんと借用書の契約書にサインだけはしときたい。
無いとは思うのだが、もしかすると後から『金貨は受け取っていません』『サインしてませんよね?』とか言われたら本当にまた一から借金を払わされそうで怖い。
何とか必死にお願いしたらギルド長は止まってくれて、私は無事にサインをすることが出来た。よかったー。
「むぅっ」
ミラさんの口が悔しそうにとんがっていたのだけは、気にしないでおこう。本当によかったー。
読んでくれてありがとうございます!
ついに目標の70話を越えました!
初期は70話くらいで完結を目指してたのに、何故ここまで続いているのか……とりあえず完結を目指して頑張ります。




