67 リッチィさん、帰還する
午後から2回目のワクチン接種に行ってきます!
もがく、もがく。
必死に手足を動かしてもがく。
ここは何処だろうか。
辺りは真っ黒な闇に包まれ、体が自由に動かない。
もがく、もがく。
私は必死にバタつきながらもがく。
つい先程、閻魔大王様にドヤ顔をかましながら『さようなら、死んだら会いましょう。あ、私はリッチ、不死でしたね。ありがとうございます』と、別れの挨拶を言ったら拳骨が落ちてきて空間が壊れた。
もがく、もがく。
私は身体を捻ろうともがく。
頭がズキンズキンと痛い。
なんだこれ、超痛いんですけど。病気かな?
もがく、もがく。
全く体が思うように動かない。
あれから暫くもがいてるのだが、まるで全身を拘束されたかのように体が動かない。
もがく、もがく。
なにやら少しずつだが進んでいる。
くんくん、何やら土臭い匂いがする。もしやもしや……
もがく、もがく。
少しずつではあるが、光が見えてきた。
もがく、もがく。
手足が徐々に軽くなっていく。
もがく、もがく。
光に向かって手を伸ばすと何かを突き抜いた。
◇◇◇
「こんなの死んでまうわ……」
思わず関西弁が出てしまう。
「もう死んでますけどね」
地面から突き抜けた両手を軸に体を引っ張り出す。
ズッポリと地面から頭、胸、腰、太股、足先と抜け出す。
辺りを見渡せば一面墓石だらけ。
体に着いた土を払い落としながら目の前の穴を見る。
「またこの展開ですか……」
そこには私が埋められていたであろう場所、土の穴がぽっかりと空いていた。
「なんで私はまた土の中からスタートしてるんでしょうか」
長い黒髪に付着した土を払う為に頭を振りながら考える。
もしかして、私は死に戻りして最初からやり直したとか?
そこでふと自分が出てきた穴の前にある墓石に目がつく。
『リッチィちゃん、お休み中~』
「うっさいわ!」
日本語で書かれた不愉快な墓石を蹴りあげ、その辺に適当に転がす。
何かデジャブだ。
私は慌てて不愉快な墓石を確認する。
良かった、ただの不愉快な墓石だ。
ダンジョンコア再びとか勘弁だ。
改めて落ち着いて周囲を確認すると、やはりダンジョンの中のようで、遠くに見覚えがある野菜畑が見える。
「やっと帰って来れました……」
地獄から無事に帰れたと安堵する。
どうやら私は埋葬されていただけのようだ。
墓石に刻まれた不愉快な日本語は、恐らくエルダーゾンビさん達が書いたのだろう。
だってあいつら絶対日本人だしね。
とりあえずはと、遠くに見える野菜畑を目指して歩き進める。
相も変わらず、どんよりとした雰囲気なダンジョンを進む。
前世であれば恐怖で足がすくんでいただろうが、今の私はアンデッドなのでとても心地好い気分だ。
野菜畑に近くと、ふと私の横を何か赤い物体が通り過ぎた。
「ん?」
気になり後ろを振り返る。
何かよく見たことがあるような物体がいる。
私は地面に土魔法のスキルを発動し、その赤い物体を拘束した。
歩いて近付き、手足をじたばたと暴れる物体を遠目に観察する。
「モンスター?」
いや、違う。
ここはアンデッドのダンジョンだ。
あんなモンスター見たことない。
私は更に近付き、その赤い物体を手にした。
「ニンジンだこれ」
思考が停止する。
一体全体、私は何を手にしてるんだ?
動くニンジン?
意味不明だ。
恐る恐る注意深く周囲を観察してみると、ニンジンの他にも色々とおかしな事になっている事に気付いた。
「これはないわー」
茶色と緑色、黄色に紫色に赤色の物体がモゾモゾと動いている。
うん、全部野菜だね。
野菜がモンスター化してないかな?
私がいない間に何があった!!
「誰か説明してぇ……」
戸惑い呟く私の目に、遠くで手を振るエルダーゾンビ――田中君が見えた。
◇◇◇
「アアァァァ」
田中君が色々と説明してくれた。
私がマンティコアに首ちょんぱされた後、どうやらエルダーゾンビさん達は私の首と胴体を拾い上げダンジョンまで帰って来たらしい。
それからはどうも私は半年近く眠っていたようだ。
予想通りといえば予想通りなんだけど、では何で土の下で寝ていたのかと聞くと、私が何をしても目覚めないので埋めれば生き返るかと思って埋めたらしい。アンデッドなだけに。
色々とツッコミをいれたい所なのだけど、それよりもと私は何故に野菜畑がこんなカオスな状態になっているのかを聞いてみた。
結論、ソラが色々とやらかした。
「はぁ……」
驚きを通り越して呆れてくる。
やはり目を離すべきじゃなかった。
魔王軍一のサイコマッドサイエンティストは伊達じゃない。
一体どうしたら野菜がモンスター化するというのか。
これも田中君が話してくれた。
私が眠り続けている間、ソラと田中君は順調に畑仕事にせいを出していたらしい。
だけどある日、困った事が起きた。
畑が余りにも広大過ぎて人手が足りない。
「そりゃそうだよね」
だって私が新たに拡張した野菜畑を加算すると、全部で東京ドーム6個分相当の広さがある。アホみたいな広さだ。
それをソラと田中君、他数名のお手伝いを名乗り出たエルダーゾンビさん達だけではとてもじゃないが手が足りない。
私を頼ろうにも眠り続けている。
そこでエルダーゾンビさん達はソラを交えて会議をした。
田中君は皆で頑張ろうと意見したが、『働きたくないでござる』『社畜は勘弁』『労働はクソ』『面倒くさい』『いいよー』『だが断る』『俺は食べるの専門だから』『酒が欲しい』『眠い』『ペンと紙が欲しい』と、中々に難航したらしい。
そんな中、ソラが『任せる』と言って、眠る私を墓から掘り返し一緒に部屋に籠った。
……んんん?
一ヶ月後に出て来たソラは、何やらドス黒い液体を手に戻って来ては私を墓に埋め戻し、それを水で薄めて畑に撒いた。すると、どうでしょうか。畑の野菜達はみるみると育ち、自我を持ち始め活動を始めました。
それからは、野菜達は私達の手を借りる事なく、自分で自分を育て始めました、とさ。
「おい、ソラはどこにいますか」
もう意味が不明だと私はソラを探す。
微妙になんとも言えない感覚が私の体を駆け巡る。
てか、ソラは私の体に何をしたの? 変な事してないよね?
慌てて体を触り確かめてみるが、特に異常は見られない。
モヤモヤとしながらもソラを探しいると、ソラはちょうど畑に黒い水を撒いていた所だった。
「起きた?」
「起きましたね」
私に気付き、水撒きを中断し此方に歩み寄るソラ。
半年ぶりに目にしたその姿は、以前とかわらず半目の銀髪ケモミミ美少女だった。
相変わらずの無表情だったが、どこか嬉しそうする姿に思わずホッコリとしてしまう。
「ところで、ソラさん」
ついつい雰囲気に流され忘れてしまいそうだったが、何とか我慢してソラに問い掛ける。
「これは一体なにをやらかしたんですか?」
「頑張った」
「いえ、だから何をやったのかと聞いてるんですが」
「ソラ、頑張った」
嬉しそうに褒めろと語るソラ。
駄目だ、話にならない。
そこでふと、私はソラが手にしていたモノに目がいった。
「その黒い水はなんなんですか?」
「リスチリンカリボックラエカリシー」
「はい?」
「リスチリンカリボックラエカリシー」
駄目だ、訳が分からない。
誰か通訳をお願いします。
「見る」
混乱する私に、結果を見せるとソラが黒い水を野菜畑に撒きはじめる。
すると、瞬く間に成長した野菜は手足が生え始め、此方に礼をして走り去っていく。
「えぇぇ……」
なにこれぇ。
色々とカオス過ぎて訳が分からない。
ソラの方を見ると、何やら実験結果をメモしているらしく、私の視線に気付くと忘れてたと教えてくれた。
「略して、りっか汁」
「略すな」
バカ野郎。
リスチリンカリボックラエカリシー
略してりっか汁だそうだ。
本当にバカ野郎。
てか、りっか汁ってなんだ。
もしかしなくても、私の体液なの?
お前、本当に私に何をしてくれたの?
それに何だ、そのネーミングセンスは。
隣で聞いていたエルダーゾンビさん達が爆笑しているのが腹が立つ。
とりあえずはと、ごねるソラから黒い水を強制的に取り上げる……あれ、やけに素直に従ってくれたな。まぁ、いいか。
それとエルダーゾンビさん達には『爆ぜろ』とお仕置きし、私は家に帰り再度眠りにつくことにした。
一本角の少女、お母さんが『まだ寝るの?』としてたので、ごめんなさいと私は寝ます。
いくら体は半年近く眠っていても、精神体は地獄で労働していたので凄く眠いのだ。
「ん」
さぁ寝ようかとベッドに体を倒していると、何故かソラが私の部屋に入って来た。
珍しい、なんだろうなと思っていると、
「一緒、寝る」
どうやら私と一緒に寝たいらしい。
枕も持参してるみたいだけど、男女が一緒のベッドで寝るのは世間的にどうなん……あ、そう言えば私はもう女でした。
でも心は立派な男なわけで――
「邪魔」
どうやら私に拒否権はないらしい。
私を押し退けて、ベッドの半分を占領された。
まぁ、色々と思うこともあるが、一つ屋根の下で暮らしてるんだから今更だよね。
問題点を上げるとすれば――
「襲わないでね」
「……ん」
それならば安心だ。
私はゆっくりと寝ることにした。
読んでくれてありがとうございます。
2回目は副作用が出ると聞いてるので、もしかしたら更新が少し遅くなったらごめんなさい。




