59 リッチィさん、魔王様と遭遇する
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一本角の少女、エルダーゾンビのお母さんの朝ごはんを完食した私は、二度寝することなく『いってらっしゃい』と送り出され冒険者ギルドに向かっていた。
考えてみれば、私は冒険者ギルドに登録してから一度もまともにクエストを受けていない。
魔王城からの強制指名クエストは受けたが、あれはちょっと違うきがする。
昨日の無理な魔力消費の影響か、まだ若干眠い目を擦りふらふらと歩いていると、くいくいと服を引っ張られる感覚が……『じゅるり』……?
なんだろうと振り返ると、そこにはヨダレを垂らしキラキラと私を直視する黒髪の幼女―――
「ぎぶみーじょごぉれーと」
――魔王様がいました。
「……ん?」
私はまだ寝ていたようだ。
眠い目を擦り、しっかりと意識を覚醒させるが、
「ぎぶみーじょごぉれーと」
凄く可愛いらしく此方に両手を差し出す魔王様が見える。
てかおい誰だ、魔王様にその言葉を教えた奴。絶対に勇者だろ。怒られるぞ。私が、宰相様にな!
「こんなところで何してるんですか……」
「ぎぶみーじょごぉれーと」
「いや、それは分かりましたから……」
「ぎぶみーじょごぉれーと」
「…………」
「ぎぶみーじょごぉれーと」
魔王様がチョコレートマシーンならぬチョコレート中毒者になっている。
話が通じません。
前回、魔王城であげたチョコレートならぬジョコレートがよほど忘れられなかったのだろう。
「……えいっ」
とりあえずと、ヨダレを垂らす口の片方からはみ出す牙を押してみる。
「なにをするのじゃっ!?」
良かった。
やっと反応してくれた。
「はみゃ? お主は、リッカか?」
「はい、そうですね」
本当に良かった。
会話が出来る。
正気です。
「リッカはここでなにをしているのじゃ?」
それは私が聞きたいことなんだけど、とりあえずは無難に答えておきましょう。
「私はこれから冒険者ギルドに行く予定ですね、お嬢ちゃんはどうしてここに?」
あ、マズイ。
つい勢いで魔王様にお嬢ちゃんって言っちゃったけど……今更ですよね、大丈夫かな? 不敬罪で捕まるとかないよね?
「ん、ワシか? ワシはちょいと口やかましいじじいから逃げ出し―――散歩じゃな!」
おーい、魔王様、隠せてませんよー。
凄く可愛いらしいけど、また魔王城から逃げ出したんですね。ぶつぶつと『あんのクソじじいのあんぽんたんが……』『執務執務といつもうるさいのじゃ』と呟いてるのが丸聞こえです。
「う、うむ、散歩じゃ。ちと散歩しておったらお主、リッカのすがたが見えて、な……みえて……みえ、て……じょごぉれぇーと」
「戻ってこーい」
必死に優しく魔王様の頭を撫でまくる。
不敬とか知らないです。
私は魔王様だなんて人は知らないんだから。
今、目の前にいるのは可愛い幼女だ。美幼女だ。
撫で続けていると、幼女は『はみゃ?』と正気を取り戻した。よかったよかった。
「そ、それよりもお主、ちゃんとあれから無事に冒険者をやっておったのじゃな。ちぃとばかし心配しとったんじゃぞ」
頬を染めながらも誤魔化そうとする魔王様。
子供らしくて可愛いですね。
微笑ましくて『そうなんですね』と私は答えた。
「お主はそうとうのあんぽんた……世間知らずじゃったからのぅ。ぶっちゃけ、ギルド長に喰われ……味見されたのかと思うたわ」
可愛いくないなー、この子。
何にも言葉が隠せてないぞー。
とりあえず、わちゃわちゃと頭を撫でまくっていると『な、ななな、なにをするんじゃあああ!?』と、少し嬉しそうに慌てていた。
「じょごれーと」
「も、戻ってこーい」
マズイ。
撫でまくり過ぎて元に戻ってしまったか!?
「ち、違うのじゃ。リッカ、ワシはじょごれーとが欲しいのじゃ」
どうやら今回は正気みたいだ。
幼女ならぬ魔王様は真剣な表情で訪ねている。
だけど、ごめんね、
「チョコレートはちょっと品切れなんです、ごめんね」
チラシで買いだめしてある分のお菓子在庫はゼロである。
食材やお魚、野菜なんかは大量にあるんだけど、お菓子は残ってない。
全部ソラとエルダーゾンビさん達の腹の中だ。
調子にのって昨日の宴で全部放出しちゃった。
「なん……じゃと……」
ガックリと膝を折る魔王様。
まるで世界が滅亡したかのように項垂れている。
仕方ないなぁと変わりに《チラシ》からピーマンを取り出し渡してみる。
一瞬顔を上げて喜んだが、ピーマンと分かると無表情で『いみくじピーマン』と虚空の空間へと投げ捨てられた。なんだ今の……凄い、魔法かな。
にしてもこの魔王様、色々と召還されてやってきた勇者に染められてるね。
いや、この世界が染められていたりするのかな。
「ま、まて、待つのじゃ。たしかお主は、スキルでじょごれーとを造ってなかったかや。ほれ、チラシとかいう固有スキルがあったはずじゃ……!?」
思い出したと私ににじり寄る魔王様。
そう言えば、魔王様も私の《チラシ》スキルは知ってたんだよね。というか、魔王様が色々とスキルのことを教えてくれたんだった。でも、
「……ごめんね」
魔王様に見えるように《チラシ》スキルを展開し、説明する。
「なん……じゃと……」
一点を見詰め絶望する魔王様。
そこには、
『あなたのいらない不用品・粗大ゴミ回収します! なんでもお任せください!』
と、あった。
チラシはチラシでも、こういった一般家庭に入るようなチラシ広告も出るんだなぁと、私も見た時は少し驚きました。
魔王様は私にしがみつき涙目で訴えてくるが、私にはどうすること出来ないので顔を横に振る。
今度こそ本当に絶望した魔王様は『ワシ、お家かえ……らん』『お菓子、人間領いってくる』と言い残し、去って―――
「ちょっと待って下さい」
この魔王様は今なんて言った?
「ワシ、お菓子かってくるのじゃ」
お菓子?
どこに?
「人間領じゃ」
人間領?
魔王様が?
「リッカも一緒にいくかや」
「え、でも、人間領って遠いんですよね」
確かここから凄い離れた場所だって聞いたことがある。一ヶ月は掛かるって聞いたような。
「ワシの転移魔法ならすぐにいけるのじゃ」
あ、やっぱり転移魔法ってあったのか。
凄いな、流石は魔王様。
「じょごれーとには及ばんが、ワシが頻繁にひいきにしとるお菓子屋さんがあってのぅ」
「へぇ、そんな所があるんですね。どこにあるんですか?」
「人間領の王国──王都じゃな。まぁ、お主は知らんじゃろうけどな」
知ってる、超知ってる!
私を召還した王国じゃん!
てか、今そこと魔族は戦争中なんだけど!
現在進行形で人間領と魔族領の境界で戦ってるよね。
魔王様を狙って王国は進行中なのに、肝心の魔王様は王国の王都に頻繁に堂々とお買い物に行ってるって……もはや言葉も出ないです。哀れすぎる。魔王様は王国とか眼中にもないみたいですね。
「一緒にいくかや?」
「遠慮しときます」
流石に今、ちょうど召還されて消えた勇者、私を探している王国に行くとか無理です。
捕まったら今度こそ奴隷にされて戦争に参加させられる。絶対に嫌だ。私は平和に暮らしたい。
ごめんなさいと断ると、魔王様が少し残念そうにしてたので『また今度誘って下さい』と言ったら喜んでくれた。
うん、あと50年後くらいでお願いします。
流石にそれだけ時間が経てば王国も忘れてくれるだろう。
それじゃあと、魔王様は呪文を唱え出した。
恐らくは、転移する準備をしていると思うのだが、
「ん? あ、そうじゃった。ワシ、うっかりしとった」
何やら忘れておったと私に言った。
「いぜん言っとったあれじゃ。たしかワイワイ……いや、ワイフィー……?」
「ワイファイ(Wi-Fi)のことですか?」
そう言えば、魔王城に行った時にそんな話をした覚えがする。
固有スキルでWi-Fi持ちとか冗談な魔族がいるって。
「おおう、それじゃ、それじゃ。それでな、お主、リッカが教えてほしいといっておった、えーいーえす? じゃったかのぅ」
「AES、暗号キーですね。もしかして聞いておいてくれたんですか!?」
マジですか!?
本当に聞いてくれたんですね。
紹介してほしいって言ったら私のためにも絶対断ると言われて、泣く泣く1000円分の対価、チョコレートを賄賂で伝言でなんとかお願いした甲斐がありました!
「うむ、たしか――さんななごろく……ろく? えるおーなんとか、えむえー……? じゃな!」
「…………」
じゃな!
じゃねーよ!
なんでメモとってないんだこの幼女。
だからお手紙書くって言ったのに……ぐすん。
そう言って抗議をしたがときすでに遅く、転移の魔法陣が浮かび上がり発動した。
「うむ。ワシ、うっかりしとった」
すまんとした魔王様は、笑顔でその場から転移していきました。
ちくしょう!
◇◇◇
魔王様と別れた私は、冒険者ギルドに向かって歩いていた。
「……? なんだか皆、忙しそうですね」
なにかあったのか、城都の住民が忙しそうに動いている。
家財道具や家具などを運んでいるけど、引っ越しでもするのかな?
そんな光景を尻目に、私はドス黒く禍々しい建物、冒険者ギルドの扉を開き中へと入っていくと、
「武器をありったけ集めろ!!」
「冒険者全員に声を掛けろ! 全員召集だ!」
「久しぶりの祭りだ、お前ら気合いいれろよ!!」
「うひょー!! やべぇ、たぎるわ!!」
「馬鹿野郎、早くしねぇといい場所が取られちまうぞ!!」
「急げ急げ、獲物は全部オレのだぜ!!」
「あぁ!! ポーションないだと、ふざけんな!!」
「ははは、オレ達みんな死ぬんだ、派手に行こうぜ!!」
「魔王城からの連絡はまだか!?」
なにやら冒険者ギルドも騒がしいことになっていた。
一体なんの騒ぎかと眺めていると、受付の方から私を呼ぶ声が、
「リッカさん!? やっと見つけました!!」
ミラさんが呼んでいる。
冒険者達を掻き分けて受け付けまでいくと、ミラさんが焦ったように言った。
「モンスターの襲撃です!!」
読んでくれてありがとうございます!




