51 リッチィさん、商業ギルドへ
お、お仕事が沢山……そんなバカな……
冒険者ギルドを出て城都を進む。
行き先は商業ギルド。
目的は借金返済の為。
「ふっふっふっ、私は何をそんなに考え込んでいたんでしょうか」
借用書(600万ゴールド)を冒険者ギルドから突き付けられ途方にくれていた私。
返済期間は半年、月100万ゴールドの返済はガチで厳しい。
最後の手段としては、ギルド長に右腕を100万ゴールド(ポーション付き)で差し出す案も浮かんだ……が、
しかし、私は大切な事を忘れていた!
「そうです、私には異世界知識があるじゃないですか!」
いわゆる異世界知識チートである。
―――固有スキル『チラシ』発動!
頭で念じると、目の前にチラシが広がった。
【かなひで】
どうやら沖縄全域で展開しているスーパーのチラシみたいだ。
「おおう! 当たりですね!」
今ほしかったのはスーパー系のチラシだったので助かります。
「ほうほう、沖縄そばが99円。沖縄そばだし98円。サーターアンダギーが198円」
有名な沖縄の食材や食べ物が盛りだくさんだ。
これはガチで当たりを引いたかもしれない。
「なっ! SPAMの缶詰めが198円ですと!?」
安い、安過ぎる!!
前に住んでた場所のスーパーでは普通に倍以上の値段で売られてましたが!?
「お酒も美味しそうですねぇ……おっと、今は他に大切な事がありました」
泡盛や島酒も一度は飲んでみたかったのですが、それは後回しにしましょう。
とりあえず先に必要な物から、
「やっぱり異世界モノの定番と言えばこれですね」
『塩1㎏ 100 (1) 』
そう、塩である。
異世界モノに限らず、過去の地球の歴史上でも塩は人類の食生活を支える特別な調味料の一つ。
塩は人類の歴史と関わりが深く、地球の中世ヨーロッパ、日本の戦国時代も含め、塩税や塩の専売制が国家の財政を支えた事もあるくらい。
要は、金になるのだ。
「くっくっく、これを安く買い、商業ギルドに高値で降ろせば……!」
ふはは、まさにお金の錬金術の完成なのです。これで勝つる! 借金返済! チラシスキル万歳!
そうと決まれば、商業ギルドまで善は急げだ!
◇◇◇
「ここが商業ギルドですか……」
場所は商業ギルドの建物。
冒険者ギルドの黒く塗装された建物とは違い、商業ギルドの建物は白く美しく塗装され、古代ギリシャの神殿みたいな建物だ。
「受付は……何処でしょうか?」
オープンに開かれた扉を潜ると、これまた沢山の商人さん達が慌ただしく動いていた。
一瞬、私が入った途端に数人の人達が驚いて此方を凝視していたが、目を合わせると直ぐにそらされた。はて?
とりあえず受付窓口を探して奥に進むと、いくつかの列があった。
「どの列もいっぱいですね」
窓口はそれなりの数があり、受け付けの人達も種族と年齢はバラバラ。
冒険者ギルドとは違い、受付嬢を好みで選び並ぶ人達はいないみたいだ。流石は商人さん、無駄な事に時間は使わないね。
どちらの列も長さは一緒なので適当に端の列、金色の髪をした美人なエルフのお姉さんの所に並ぶ。
……他意はないよ?
「あっちは時間掛かるんだよなぁ」
冒険者ギルドの大半の冒険者達は、クエスト受注・完了報告プラスに受付嬢を口説いたりするから妙に時間が掛かる。そして、高確率で待ち時間の長さで乱闘騒ぎに発展するのだ。
ま、私の場合は何故かミラさんが優先的に呼んでくれるから待ち時間はないんだけどね。どんなに列が込んでても……。
あの荒くれ者の冒険者達もミラさんには絶対に逆らおうとしないし……本当に何者なんだろう。
「あら、初めての方ですか? ご用件はなんでしょうか」
考え込んでいたらどうやら順番が回って来ていたみたいだ。
「えっと、商品の持ち込みなんですが、買い取って頂けるでしょうか?」
「商品の買い取りですね。現物を確認させてもらってもよろしいですか?」
「はい、これです」
ニッコリと微笑み浮かべるエルフのお姉さんの前に、先程スキルで購入した『塩』1㎏(ビニール入り)を置く。
「――っ!?」
エルフのお姉さんの静かに驚き口を紡ぐ。
「こ、これは……? この手触り、透明度からいって薄い布ではないですね、スライムの膜でもなさそう」
恐る恐る、現物を触り確かめるエルフのお姉さん。
あれ、現物よりもビニールに興味を持っているのかな?
「はっ! す、すみません、失礼しました。本日はこの透明の膜をお売りということでしょうか?」
「え? あ、いえ、違います。買い取ってほしいのは中身の方なんですが……」
まさか本当にビニールに興味を持たれていたとは……。
いや、ビニールもこっちの世界では珍しいといえば珍しいんだろう。
違うのですかと残念そうにするエルフのお姉さんだけど、ビニールの製造過程なんて知らないんだよね。知ってるのは原料に石油? が使われているってくらいだし。
残念そうにしているエルフのお姉さんはいいとして、そろそろ早く買い取ってほしい。
私の後ろの列に並ぶ商人さん達の視線がギラギラしていて怖い。てか背後から覗き見してるよ。
私の視線に気づいたのか、エルフのお姉さんは笑顔に戻り聞いてきた。
「すみません、改めてお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「はい、リッカ・エンマといいます」
「……リッカ・エンマさん、ですか。失礼ですが、もしかして貴方様はもしや、最近と色々とお噂のリッチ様でしょうか」
「……はい、そうですね。どのお噂かは知りませんけど」
ここんところ色々ありすぎて、どのお噂か分からない。
これ以上は本当にもう勘弁してほしいです。
そう黄昏ていると、いつの間にかエルフのお姉さんは他の職員と密かに話をしており、
「リッカ・エンマ様、宜しければ奥の部屋で別の者が商談をさせて頂きますので、此方へどうぞ」
奥の個室へと案内された。
◇◇◇
「よろしくクマ! クマは商業ギルドのギルドマスター、熊獣人のクマなのさクマ!」
これまた予想外だった。
なんかすんごい可愛いのがいる。
「お前がいまちまたを騒がしてるリッチ、クマな。噂は色々と聞いてるクマ!」
ちっこいクマさん。
クマくま言ってる熊さんがいる。
熊獣人だけど、ちょっとモフモフしてる。
「なんでも面白い物を持ち込んだらしいクマな。見せてほしいクマ」
さ、触りたい。
けど、我慢だ。
先程と同じ現物、塩1㎏(ビニール入り)を出す。
「こ、これはなんだ……クマ? この手触り、透明度からいって薄い布ではないクマ、スライムの膜でもないクマね」
恐る恐る、現物を触り確かめるギルドマスター、クマさん。
なんだかさっきと同じ展開だ。
「凄いクマ! 買い取りはこの透明の膜でいいのかクマね!? いくつ用意できるクマ! 可能であれば膜の販売権利を高値で買うクマよ!」
「あ、いえ、違います。買い取ってほしいのは中身の方なんです……」
ビニールの製造過程が不明な事を説明を話すと、ギルドマスターは残念そうにガッカリとした。
「残念クマね。じゃあなんだクマ、買い取ってほしいのは中身クマか?」
「はい、そうです」
明らかにテンションが下がってるギルドマスターに、私はビニールを少し破り中身を取り出す。
「なるほどクマね。この膜は中身を保存するのに適してそうクマ」
ビニールから中身が流れるように零れ出すさまを見て、改めてギルドマスターはビニールに感心し落胆した。膜ほしいクマと。
「なにクマか、これ……まさか」
落胆していたギルドマスターが反応した。
ようやく中身に気が付いたかと思うのだが、少し反応が遅すぎやしないだろうか。
普通なら見た目からして直ぐに分かりそうなものだが………。
変な空気が漂う中、私は進めることにした。
「はい、塩です」
「…………」
「良ければ、味を確認してもらっても大丈夫ですよ」
「…………」
「ど、どうぞ……?」
「…………」
ギルドマスターが何か言いたげに此方を見ている。
ん、なんだ?
「……はぁ、クマ」
ギルドマスターが呆れたように突っ伏した。
「お前、本当に噂通りなのな、クマ」
信じられないと此方を見ている。
「噂、ですか?」
私のここのところの噂について考えてみる。
伝説の種族から始まり、魔王城呼び出し→ダンジョン撃破&ダンジョンマスター→誘拐事件→炎龍の称号騒動→証拠偽装事件→ソラ→多額の賠償金←いまここ。
「??」
分からん。
いや、分かるけど分からん。
今その噂が関係あるのだろうか。
「お前、本当に噂通りの世間知らずのアホなのなクマ」
おいぃぃぃッ!!
そっちか、そっちの噂か!?
誰だ、その噂を流した奴!!
復活しました!
お仕事が沢山です!
なんででしょうか、全く筆が進まない……




