44 リッチィさん、幽霊少女に助けられる
「…………」
無表情ながらも不満そうな顔をした銀髪の美少女が此方をジト目で見詰めている。
あれ、君は成仏したんじゃなかったの?
そう思い銀髪の少女に問い掛けようとするも、意味ありげな銀髪の少女の視線がチラシに向いた。
買わないの?
そう言いいたげな少女の視線が私を貫く。
「今は買いませんよ。ここで購入しても仕方ないですからね。それに多過ぎて持ち運びも出来ませんので、後で帰れたら購入します」
私の返答に納得いったのか、少女は少し考える仕草をすると頷き、牢屋の鉄格子に向かい手で掴むと──
「……え」
ギギギと嫌な音を立てて広がる鉄格子。
半目の無表情な顔をしながらも難なく鉄格子を広げた少女は、『早く帰る』と言いたげな感じで私を待っている。
「…………」
え、何だこれ、意味が分からない。
いや、もしかしなくても早く帰って購入して出してほしいって言ってるんだよね。だから早くここから出て帰りましょうと。
「出ない?」
混乱する私に不思議そうに声を掛ける少女。
「え、いや、あの……すみません。私は迎えの人が来るまでは勝手に出られないのです」
本当は今すぐに出たいけれど、ギルド長の言った迎えが来るまでは出てはいけないのだ。
勝手に出て行っては逃亡犯として扱われ追われるかもしれないと少女に説明すると、
「迎え来た」
んん?
「頼まれ来た」
自分を指差しアピールする少女。
「……もしかしてギルド長が言ってた迎えの人?」
「ん」
コクりと頷く少女。
え、幽霊少女じゃなかったの?
突然の事に混乱する私に『早く出る』とした少女が手を伸ばして檻から引っ張り出すと、そのまま手を繋いで入り口へ──
「あ、ちょっと待って下さい」
「ん?」
凄い力で引っ張る少女を言葉で引き止め、広がった牢屋の鉄格子に手を掛ける。
「一応はちゃんと元に戻して起きましょう」
土魔法、錬金を発動させて広がった鉄格子を元に戻す。
「……凄い」
余程驚いたのか、半目の瞳が全快になるほどに見開いて呟かれた。
「そうですか? 私は力付くでねじ曲げたあなたの方が凄いと思いますよ」
スキルを発動させた感じ、あれはただの鉄格子ではない。オリハルコンとまではいかなくとも、鉄以上オリハルコン未満の強度を持つ何かだと思う。
それを簡単にねじ曲げた少女は一体何者なのだろうか。
若干少し恐怖を感じる少女に手を引かれ、牢屋の部屋の入り口のドアを開ける。
入り口を出た向こうは警備室か何かだったのか、多数の兵士さん達が──
「何だこの状況」
壁を真正面にピタリと張り付き、ぶつぶつと何か呟きながら微動だにしない。
「ん、行く」
あまりのカオスに立ち止まる私を急かすように引っ張る少女。
「いえ、少し待っててください」
牢屋とはいえ、一応は数日間お世話になったのだ。礼儀を忘れてはいけない。
「この度はご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした。数日ではありましたがとてもお世話になりました。今度お詫びとして何か差し入れ───あ、ちょっ、止め」
何か四方から大量の布袋が飛んできた。地面にドサッと落ちた音からして、兵士さん達の財布なのだろうが……え、何で?
不思議に思い壁に張り付く兵士さん達を覗き込むと、『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』『許して許して許して許して許して』『死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない』………。
うん、聞かなかった事にしょう。
「凄い」
何故か尊敬の眼差しで此方を見詰める少女。
いや、何も凄くないからね。
「儲けた」
あ、こら待ちなさい。
その財布は拾っちゃ駄目ですよ。
せっせと地面に散らばる財布を拾う少女を嗜め、そそくさとこの場を後にする私達だった。
◇◇◇
銀髪の少女と手を繋ぎ、ダンジョンを目指す。
本当は冒険者ギルドでギルド長に一言お礼を言いたかったのだが、少女がチラシの商品を『早く出す』として聞かなかったのだ。
「それにしても……」
先程から手を繋いでダンジョンまで2人歩いているのだが……どうも周りからの視線が気になる。
小声ではあるのだが、周囲の人達からはヒソヒソと『お、おい、見ろよあれ』『おい、嘘だろ、マジかよ……』『死んだんじゃなかったのか?』『おい、眼を合わすな! 殺されるぞ!』『またこの国が炎の渦に……』
遠くてよく聞こえないが、どうもこの少女を見て何か驚いているように見える。
「もしかして、君って意外と有名人?」
「ん、有名」
さも当然だと頷く少女。
って、あれ? 前にも同じようなやり取りを何処かの幼女とやったような……
「ソラ」
「うん?」
少し考え込んでいると、少女が真っ直ぐと私の目を捉えて話し掛けた。
「君、違う。ソラ」
「ソラ?」
「ん、ソラ」
どうやら名前を教えてくれたみたいだ。なら私もお返しと自己紹介をする。
「私はリッカ、エンマ・リッカと言います。アンデッド種の、リッチです」
「ん、知ってる。ソラは狼、獣人」
ピコっと銀髪の髪に隠れていた2つの縦長の耳が生えた。まさかの獣耳である。ケ・モ・ミ・ミである!
思わずニギニギした私は悪くない。だってそこに美少女の獣耳があるのなら触りたいと思いませんか?
ちなみに、暫くして落ち着いた後に私の事はギルド長から聞いたと少女──ソラが話してくれた。
「ん、あれ? ソラはギルド長とお知り合いだったのですか?」
確かソラと初めて会ったのは謁見の間で、あの時はギルド長にソラの事を訪ねても知らないって……はて、そもそも何であの時は皆、ソラを認識していなかったのだ?
困惑する私にソラが教えてくれた。
「幻術魔法?」
「ん」
どうもあの時は幻術魔法で姿を隠していたらしい。
お伽噺の伝説のリッチが来ると知って、コッソリと覗きに来ていたようだ。……コッソリではなかったような気はするが。
「あれ、でも私はソラの事が見えてましたよね」
「ん、不思議」
どうやら今まで幻術魔法を見破られた事はなかったらしく、初めて見破った私が気になっていたらしい。
「あぁ、そう言えばお礼がまだでした」
「お礼?」
「はい、お礼です」
いつかの幼女にやったようにソラの目線に合わせ屈み込み、
「今日は助けに来てくれてありがとうございました。近いうちにきっと必ずお返しはしますね」
今できる精一杯の感謝の言葉を込め、笑顔で頭を撫であげる。
「………ん」
若干照れたのか、頬を赤くして頷かれた。
相も変わらず無表情の少女だが、何だかとても可愛くみえる。
ふふふと微笑を浮かべていると、ソラはやはり自分の幻術魔法が見破られたのがどうしても気になるのか、私に『どうして?』と問い掛けてきた。
「んー、何故ですかねぇ」
聞かれても私には分からない。
正直、自分のこの体の事も色々と謎すぎて分からないのに、魔法について私が答えられる訳がないのだ。
だがやはりそれでも気になるのか、ソラは何度も繋いだ手を引っ張って聞いてくる。
私はもうここは場を濁らせておこうと、
「もしかしたら私の眼力かも知れませんね」
適当に答えてみる。
「眼力?」
不思議そうに頭を傾げるソラは、『眼力ってなに?』と聞いてきたので『心眼的な?』と適当に返してみた。
「そう」
するとどうしたのか、少し考え込んだソラが私に向かって手を差し出した。
「欲しい」
無表情ながらも何処か興奮するような顔で言葉に口にするソラ。
「ちょうだい」
初めて見せる表情は、その端正な顔立ちと相まって一瞬ドキっとしてしまった。ロリコンちゃうよ。
「その眼」
ん?
「眼球」
んんんん?
「お願い」
……私は今何をねだられているのだろうか。
「眼球、ちょうだい?」
……この子は可愛い顔で一体何を言ってるのだろうか。
「ダメ?」
「駄目ですよ?」
そんな目で見詰めても駄目ですよ?
するとソラは懐から何か液体の詰まった瓶を取り出した。
「ポーションでも駄目ですよ」
その件はギルド長とやった。
いくら部位欠損がハイポーションで治るとはいえ、そんな怖い事できない。
「ポーション?」
ソラが懐疑的に頭を傾げる。
「ポーション違う。これ培養液、直ぐ保存しないとダメ。質、落ちる」
あれ、この子もしかして、
「片目だけ」
「駄目です」
サイコパスなの?
「お礼する、言った」
「言ったけど、言いましたけど、体以外の事にして下さい!」
ごめんなさい、本当は眼球とか心眼とか嘘なんです。実は体質的な何かだと思うんです。リッチの特性的な?
そう説明すると今度は何処から取り出したのか、液体が詰まった巨大な瓶、全身が入りそうな培養液を引っ張り出してきた。おい、待て。
「これなら、全部入る」
サイコパスワールド。
誰か助けてー!
この子、目がマジなんですけどー!
「ダメ?」
ダメ、絶対駄目。
シュンとするソラを尻目に、私はギルド長が前に言っていたある言葉、二つ名が頭を過った。
「あ、あの、ソラさん?」
「ん?」
どうか違いますように。
「少しお聞きしたい事があるんですが、もしかして『称号』を何か持っていますか?」
私の問い掛けにソラは『ん』と頷き、私を指差した。
「一緒、同じの持ってる」
それはもしかしなくても《炎竜を煽りし者》ですか?
「嬉しい、なかま」
やはり、こんな時でなければ思わず抱きしめたくなるような表情で微笑を浮かべるこの子が、
「剥ぎ取り、いく?」
《魔王軍一のサイコパス》で間違いないのか。
取り敢えず炎竜の剥ぎ取りに誘われた私はいかないと断った。
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