43 リッチィさん、脱サラならぬ脱冒したい
ブクマが300を突破しました。
本当にありがとうございます!
ギルド長が去っていって暫くが経った。迎えを寄越すとは言っていたが、未だそれらしい人は現れていない。
「やることもありませんし、暇潰しにチラシでも眺めていましょうか……」
牢屋の鉄格子を背にもたれ掛かり固有スキル、チラシを展開する。
透明状の画面一杯に開かれたチラシには『大特価農業キャンペーン』とデカデカと記載されている。
「へぇ、こんなチラシもあったんですねぇ」
農業用品から家庭菜園、野菜や腐葉土等、様々な物が載っている。
過去にこういったチラシが自宅に入っていた事は何度かあるが、その時は特に興味は示さなかったなぁ。
「改めて見ると面白いです」
農業用品として載ってるチェーンソーや耕運機、これを見てると何か触ったり動かしたりしたくなるのは何故だろうか。子供の頃は実家の近くの畑で動いていた耕運機に目を奪われ追い掛け回していた記憶が懐かしい。
野菜もピーマンからキュウリ、キャベツや大根等、果物ではイチゴからブドウ等、花の苗から多種多様の物がチラシに記載されている。
「野菜かぁ……」
そう言えば、会社の上司が将来脱サラして田舎でのんびり農業を始めたいと言ってたなぁ。毎日毎日電車に乗って社畜のように働くのが限界だとか。
まぁ、実家が農業を勤しんでいる私からすれば、それは甘いとしか言えないんだけどね。
かくゆう私も農業に興味が無い訳ではない。
老後は実家で農業を継ぐのも良いかと、ストレス社会の都会で働いていれば何度も思ったもんだが……
「もう実家も何もないんですけどね……」
実家は野菜と果物、特に野菜を中心に栽培しており、手付かずの空いている畑も結構な面積があったので、うちの親からは好きに使っていいと言われていたのだ。
だからいつか果物を中心に栽培してみるのも面白そうだと考えていたのに……本当にどうしてこんな事になったのか。
これも全て人間の王侯貴族達が悪い。
老後のプランが台無しである。
うちの畑の土地は肥沃な地として結構有名だったし、土地を買う必要もなく僅かの元手で始められたのに……ん、いや、ちょっと待てよ。
「畑……土地……肥沃な土」
この3つが揃った場所を私は知っている。てか所有してる。
「ダンジョン!!」
そう、墓場のダンジョンだ。
土地の広さに関しては言うまでもないし、畑は耕せばいい。
肥沃な土地かどうかは土魔法、錬金を使って地中深くの土をコネコネ混ぜ合わせれば問題ない筈。
ダンジョンで勝手に野菜を育てる事については、モンスターの管理さえちゃんとしてれば冒険者ギルドから文句は言われないだろう。そもそも丸投げしてきたそっちだしね。
「ふふふ」
いきなりダンジョンを丸投げされた時は厄介事を背負わされたと思ったが、よくよく考えてみれば良い事ずくめではないか。
現在、あのダンジョンは『立ち入り禁止区域』である。誰も来ないし入れない。
それに高ランクモンスターの住みかという事もあり、ダンジョンの奥に辿り着ける者などそもそも誰もいない。それ即ち、
「やりたい放題ですね」
ダンジョンの奥でいくら何を育てても誰にも知られる事はない。
もし冒険者ギルドから怪しまれても、どうぞご自分でご確認下さいという事だ。
「そうだ、この際お家もダンジョンの奥に造ってしまいましょう」
野菜を作って自給自足、憧れのスローライフの夢がここにあった。ありがとう異世界、くたばれ現代社会。私は自由に生きる!
「野菜を育てて売るというのもいいですね」
上手くいけば冒険者で稼がなくても暮らしていけそうだ。その日暮らしの冒険者等、初めから私には向いてないと思うのだ。
「あ、でもそもそも野菜の種はどうすれば……野菜を直に植えたら生えてくる?」
ネギやかいわれ大根はよく根っこだけを残せば生えてくると言うし……大丈夫かな?
「んー、とりあえず出来そう野菜だけでも選別しときますか」
トマト、ピーマン、ナス、唐辛子、ネギ、カボチャ、トウモロコシ、サツマイモ、種が直接取れそうなのを候補にタップし、購入リストに入れていく。サツマイモに関しては好物なのでお試しで直植えして是非とも増やしたい。これだけは譲れないのだ。サツマイモ食べたい。
「こんな所ですかね」
あらかたタップして候補に入れておいたので、ダンジョンに帰ったら購入しょう。今購入しても多過ぎて持ち運べませんからね。
チラシの中には他にもキャベツやレタス、人参に大根等があったが、これらの野菜の種が一体何処の部分にあるのか私は見たことがないので止めとくことにした。はて、キャベツの何処に種があるというのだろうか。ネギは直植えでいけるとかネットで見た事がある。
「──ん?」
チラシのスキルを閉じようとした瞬間、鉄格子を背にしていた背後から伸びた細い指が購入ボタンへと勝手に近付いていく。
勿論、私の指ではないのでスカッと空を切る。だが、それでも諦めないと何度も細い指がスカッと空を切っていく。
前にもあった光景である。
恐る恐る伸びてきた指の方へ顔を向けてみれば、
「…………」
牢屋の向こう側、若干不満そうな目をした無表情の銀髪少女が此方をジト目で見詰めていた。
あれ、君は成仏したんじゃなかったの?
読んでくれてありがとうございます。
ブクマと下の評価をポチっと押してくれたらとても嬉しいです!




