32 リッチィさん、疑われる
誤字報告ありがとうございました!
見逃しが多いので本当に助かります!
「なんですか、この状況は……」
武器を手に構え、血走った目でジリジリと皆が迫ってくる。
おい止めろ、本当に洒落にならないくらい怖いんですけど?
唯一、ギルド長だけは目の前で煎餅を食べているけど……あの、そんな面倒くさそうな顔をしてないで助けて下さい。
そんな中、ミラさんだけが私に普通に近付いて来て手を頭に乗せた。
「少し失礼します。……はい、大丈夫ですね。リッカさんは特に操られていたりはしてないようです」
そう言うと全員の顔が安堵の表情に変わった、驚かすなよ馬鹿野郎と。こっちが驚いたわ馬鹿野郎。
どうやら私はスペクターに操られていると思われたらしい。
ギルド長だけはそれはないと確信があったのか、二袋目の煎餅に手を伸ばしている。無関心かな。
何だかギルド職員の皆さんが忙しなく動き出した。
「何だか大袈裟過ぎじゃないですか?」
スペクターというモンスターが脅威なのは分かったが、いまいちピンと来ない。
「そうか、お前は常識外れの世間知らずだったな」
まるで大馬鹿者を見るような目をしたギルド長はミラさんを指差し、
「ミラが複数体ダンジョンをさ迷っていると言えば早いか?」
「ひぇっ……」
「その例えは止めて下さいギルド長! リッカさんが勘違いしてるじゃないですか!」
「あぁ、すまん。ミラの下位互換が複数体だったな」
「ひぇぇっ……」
「ギルド長!? あ、待って下さいリッカさん、違うんです、誤解です、距離を取らないで下さい!」
若干距離を取り出した私に詰め寄りユサユサと揺らすミラさん。
だだのギルド長の悪ふざけだとミラさんは言うが、周りの皆さんの反応は明らかに違う。ミラさんのお父さん、おじさんに視線を向ければ明らかにわざとらしく反らされるし、ギルド職員なんかはスペクターが出たと言い出してからはミラさんから一定距離を絶対に離れようとしない。絶対的な強者の傘ですかね。
「精神系統の魔法はかなり高度の魔法だ。スペクター以外でその魔法を扱えるのは今現在確認されているミラただ一人だけだ」
「あぁ、そう言えばミラさんも精神系統魔法の使い手でしたね。どうりで……納得です」
魔王城で宰相様があれだけ警戒していたのも分かりました。
ミラさんは『固有スキルですから仕方ないじゃないですか』と地面に突っ伏しているが、本当に固有スキルってとんでもないのがありますね。
「それで、他に異常はなかったのか?」
黄昏れ出したミラさんをよそに、ギルド長がまだ何かあるんじゃないのかと聞いてきた。
「いえ、特にこれと言った事はありませんでしたが……」
「分かった、言い方を変えよう。お前が見たゾンビを詳しく話せ」
何だろう、このあんぽんたんがって感じは……
「先程も言いましたが、数はかなり減っていましたよ」
「そのゾンビの様子はどうだ」
「様子ですか、特に……あ、そう言えば」
ギルド長がため息を吐いて続きを促す。ギルド職員は『もうこれ以上は止めてくれ』とした感じで祈っているが……
「一部の群れの中に走り回っていたゾンビがいましたね。正直、驚きました」
ゾンビって意外と素早いのもいるのですねと言うと、ギルド職員一同が再び凍り付いた。
「石で土を掘り返していたゾンビもいましたが、こっちは目が合うと会釈してきましたよ……あの、ギルド職員さん達が物凄い顔をして固まっているのですが大丈夫ですかね?」
「馬鹿者、それはゾンビはゾンビでもエルダーゾンビだ」
「エルダーゾンビ?」
また知らない名前が出てきた。
「こっちは大昔の文献にしか記載されていないくらい珍しい個体のゾンビだが、確か温厚で極めて厄介なモンスターとして載っている」
「厄介なモンスターですか」
「そうだ。物を扱え素早くなっているという点は、大昔の文献に記載されているエルダーゾンビの特徴と一致している」
どうもかなり稀少な珍しいモンスターらしく、この魔族の国が建国して以来一度しか発生していないらしい。
「ちなみに当時、エルダーゾンビが発生した年に国が滅び掛けたという言い伝えが残ってる」
「……え」
「何でもゾンビ群れの中に異常種―――エルダーゾンビが何体か混じっていたらしくてな、当時に面白がった魔族がエルダーゾンビの率いるゾンビにちょっかいを掛けたらしく、ぶちギレたエルダーゾンビが魔王城都を襲い城都は半壊、魔王が相討ちで仕留めたらしい」
「マジですか」
「これは大マジだ」
何時になく真剣に語るギルド長を余所に、周囲の皆を確認してみれば……
「た、大変だ! 早く魔王城に報告をしないと!」
「まさか、そんな……嘘でしょ? だってあの言い伝えは作り話じゃ……」
「あれは作り話ではない、この場違いの場所に建てられた堅牢な門が証拠を物語っている」
「そうだ、今の若い魔族は知らない奴が多いが、誰がこんな墓場を遮断するためにこんな門をわざわざ作る。この墓場は当時の魔王城都が位置していた場所であり、主戦地で多くの魔族が散っていき眠る場所でもあるんだ」
「魔王様にも直ぐ連絡を……下手をしたらこれは前回よりもとんでもなく厄介な事になりうるかもしれぬぞ」
「……ダンジョンか。確かにこれは不味い」
「スペクターとエルダーゾンビ、これだけの高ランクのモンスターを生み出すダンジョンの奥には……」
「不味いな、ダンジョンコアを早く潰して成長を止めないと更に状況が悪くなるかもしれないぞ」
事態が急展開を迎えていく。
話を聞く限りでは何かとんでもない事になっている。
ミラさんまでもが焦っているのが分かる。
ギルド長だけは変わらず煎餅を噛っているが……ん、あれ? ダンジョンコア?
「どうしたリッカ、そんな呆けた顔して」
「あ、いえ、ダンジョンコア何ですが……私そんな顔してませんよ?」
「「「ダンジョンコアがどうかしたのですか!?」」」
「お、おおぅ」
皆が恐いくらいに一斉に反応した。
「えっと、ダンジョンコアならもうすでに討伐済みなんですが──」
「「「なっ!? そ、それは本当ですか!!」」」
「──あ、ちょ、すみません、ちょっと恐いんで離れてくれませんか?」
ヤバい、本当に恐いくらいに詰め寄ってくる。
「そんな馬鹿な、あり得ない!! たった一人でダンジョンコアがある最奥まで辿り着ける訳がない!!」
いや、本当です。
「いや、リッチ殿の特性ならばあり得るかもしれんぞ」
はい、ゾンビは襲って来なかったので殆どフリーパス状態でした。
「しかし、ダンジョンには必ずダンジョンマスターがコアを守っている筈だ」
「? そんなのいなかったですが……」
「馬鹿な!? これほどの高レベルのモンスターを従えているダンジョンですぞ。恐らく災厄クラスのダンジョンマスターがいるはず」
「いえ、本当にそんなものはいなかっ……」
ふと嫌な記憶が蘇る。
『帰還をお待ちしておりました、マスター』
『何を言ってるのでしょうか、マスターの帰る場所はここですよ』
『既にマスターはダンジョンマスターとして登場された為、このダンジョンから外に出ることは不可能です』
『マスターは私と一心同体。共にこのダンジョンが滅びるまで永久に一緒です』
『マスターの仲間はこのダンジョンコアただ一つだけなのです』
『それでもまだここから出て行くというなら──逃がしませんよ?』
あれ、ダンジョンマスターって私じゃね? 私だった。しかも災厄クラスのダンジョンマスター認定。災厄と言えば古龍レベルらしいですよ。あはは、参ったなー、どうしよう!?
「リッカ、右手を出せ」
「え、どうしてですか、食べるんですか、今は止めて下さい」
「いいから右手を出せ、この方が手っ取り早い」
余りの事態に考え込んでいると、ギルド長が強引に私の右手を掴んだ。
そして、丸い水晶なような物に手をかざして、
「あれ、これって確か冒険者ギルドにあった……」
「ああ、これは冒険者のステータスを計る水晶だ」
「どうして今やるんですか?」
「簡単だ。お前がダンジョンコアを討伐したのが本当ならステータスに変化──ダンジョン撃破者の称号が増えている筈だからな」
「成る程……え?」
何か猛烈に嫌な予感がする。
確かにダンジョンコア討伐が本当かどうかハッキリさせるには良い方法なのだけれど、これは明らかにまずい。何がとは言えないが、ダンジョンコアが私の墓石だった時くらいの嫌な予感がする!
そんな私の心境とは裏腹に、無情にも私のステータスは表示された。
名前:リッカ・エンマ
年齢:16
種族:リッチィ
レベル:1
スキル:
固有スキル:チラシ(改) 土魔法 クリエイトアンデッド
加護:▲◆◇★
称号:わぁれの娘だぁ ダンジョンマスター ダンジョン撃破者
あ、これ絶対にダメなやつだ。
読んでくれてありがとうございます!
ブクマと下の評価をポチッと押してくれたら大感謝です!




