14 リッチィさん、先代勇者を知る
「それで、リッカはどうすんだ。よかったら俺達と一緒にクエストにいかねぇか」
後ろで袋叩きになっているユーリさんを後目に、ガウルさんがクエストに誘ってきた。
一緒にクエスト……少し迷う所だ。
ガウルさん達が信用できないと言う訳ではないが、ミラさんからは一般の雑務のクエストから始めた方がいいと念を押されているし、昨日の恩もあって心配はかけたくない。
「すみません、やっぱり私では力不足だと思うので……初めは一般のクエストからやっていこうと思います」
「そうか。まっ、仕方ねぇよな。いきなり今日会ったやつと組む馬鹿はいないだろうし」
「いえ、ガウルさん達を信用できないと言う訳ではないですよ……?」
むしろ好んで関わりたいくらいだ。
「ところで、ガウルさん達はどんなクエストを受けるんですか?」
「あぁ、俺達は冒険者ギルドからの指名クエストでな、ちょっと遠出すんだよ」
「遠出ですか? ここから何処か遠い町にでも行くのですか?」
「俺達はこれから人間領と魔族領の境界線にまで行くんだ。いくら勇者が敗北したからって、まだ人間族達との戦いは続いているからな」
そう言いながら、ガウルさんはニャリと強面の顔に笑みを浮かべ『血がたぎってきたぜ!』と、ガハハハと笑っていた。
一緒にクエスト行くと言わなくてよかった!
と言うか、勇者が負けたとはどういう事なのだろうか。
人間族と魔族が長年争っているって事は閻魔大王様から聞いていたが、勇者が負けたとは聞いていない。
てか勇者は私の筈じゃあなかったの?
「あの、ガウルさん。勇者が敗北したってどういう事ですか?」
「なんだ、知らねぇのか」
「昨日、田舎から出てきたばっかりなので……」
正確には日本、又は地獄からだが。
「それじゃあ仕方ねぇな。勇者は4日前にうちの魔王様に敗北したんだ」
「……え?」
4日前?
「いつもなら勇者が負けた時点で、人間族も兵を境界線から退くってぇのに、今回はやけに粘りやがるんだ……冒険者ギルドからの情報では昨日、人間族の王都で王様貴族連中が何かやってたらしいが……どうした? 顔色が悪いぞ、リッカ」
「え? いや、別に……」
なんだろう。
ガウルさんの話を纏めると、4日前に私じゃない別の勇者が存在していたが、魔王に敗北した。本来ならその時点でいつも退く筈の人間達の兵が境界線にまだ残っている。
冒険者ギルドからの情報では王様貴族連中が昨日何かやってたらしいというが……うん、それは勇者召喚の事だろう。
実際に私が昨日召喚されそうになって何とか魔族領に逃げて来たし、境界線にいる人間達の兵も召喚された勇者が魔王と直ぐに戦う事が前提で残っているに違いない。
やっぱり、あの時に閻魔大王様に願った事は間違いじゃなかったんだ。
私、もう少しでガチの戦争に巻き込まれる所だったよ。首輪付きで。
正に危機一髪だったと考え込んでいると後ろからマリーさんの声が、
「あー、ガウルがリッカちゃんいじめてるー! 殺すぞ?」
「いじめてねぇよ、マリー。てかお前、なんか恐ぇよ」
「じゃあ、何でリッカちゃんは泣きそうにしているのよー」
泣いてる?
マリーさんの言う通りに顔を触ってみるが、
「泣いてませんよ? マリーさん」
「もー、マリーさんじゃなく、マリーお姉ちゃんって呼んでよー!」
「はい、マリーさん」
「もー、もー、リッカちゃんたら、もー!」
牛さんかな?
てかこの人は自由人だな。
喜怒哀楽が凄い。
それに直ぐに抱き付いてくるからお山も凄い。
「ふぅ、こんなものかしら……どうしたのよ、そんな顔して」
一息付いたとして、リズさんがボロ雑巾に成り果てたユーリさんを引き摺ってくる。
あれ?
これから冒険者ギルドからの指名クエストにいくのでは?
「ユーリさん、大丈夫ですか?」
「いいのよ、こんなの何時もの事なんだから」
「そ、そうですか……それにしても皆さん凄いですね、冒険者ギルドからの直接の指名なんて」
冒険者ギルドからの指名でクエストを受けると言う事は、やはりガウルさん達は高レベルの冒険者なんだろう。
「全然そんなことないよ? 私らの他にも何組かのパーティーが参加するし、それに……」
「あぁ、久々の大戦になりそうだ」
「私も魔力ポーション沢山買わないとねー」
何処か妙に人間味のある人達に感じるが、戦いと聞いて嬉しそうにしているのはやはり魔族なんだなと改めて実感する。いや、魔族も基本的には人間と大して変わらないのかもしれない。
魔族にも善い人もいれば、悪い人もいるのだ。
ガウルさん達みたいな善い人達も……。
「最近はストレス溜まってたし」
「あぁ、魔物相手じゃ少し飽きるからな」
「汚物は消毒しないとねー」
こ、好戦的な人達だけど。
でも、本当に愉快な人達だ。
見てるとやっぱり昔を思い出す。
境界線まで遠く遠征ということは、恐らく短期間では戻って来ないのかもしれない。
「どうしたの? そんな落ち込んで……」
あ、しまった。
また少し考え込んでいたようだ。
リズさんが心配そうに此方を覗いている。
「あ、いえ、少し寂しくなるなと……せっかく仲良くなれたのにぃいあぶっ!?」
「なに、この娘、めっちゃ持ち帰りたいんだけど」
「あー! リズだけ抱き付いてズルい! 私もー」
山が見える。
大きい山と中くらいの山が4つも。
一緒に息子と登れないのが悲しい。
平地では『お、俺も……』と、死にかけのユーリさんが這い寄っているが……潰された。
「おい、お前らいい加減に離れろ」
「ちょっ、何すんのよガウル」
「もー、邪魔しないでよ!」
私の体が引き上げられる。
どうやらガウルさんが持ち上げてくれたみたいだ。
そろそろ苦しかったので助かる。
「もー、ガウルの近くにいたらリッカちゃん恐がるでしょー!」
「ガウル、あんたのそのデカイ体と顔は恐いんだからリッカを返して」
「うるせっ!」
片手で私を持ち上げるガウルさんだが、どうやら顔が強面なのを気にしているのか、直ぐに私を地面に降ろして謝ってくれた。
「ガウルさんは恐くありませんよ? カッコいいじゃないですか」
「え? ウソ……」
「正気なの、リッカちゃん」
はて?
強面ではあるが、特に恐い人に思えないのだけれど。
「恐ろしくないのか? 俺は鬼人族でも特にこの体だぞ……」
何を今更だ。
恐ろしいなら最初に話し掛けられた時に退散している。
「カッコいいじゃないですか。特にこの筋肉とか……凄いですね」
男なら一度はこんな風にバキバキになりたいと憧れたもんだ。
今はフニャフニャのヤワヤワになってしまったが。
「……うぅっ、リッカ、分かってるじゃねぇか」
「泣かないでよ、ガウル。鬼の目にも涙とか笑えないわよ」
「リッカちゃんは天使なのねー」
アンデッドですよー。
「それに、本当に恐い人は言葉が通じない人ですからね」
そう、本当に恐ろしいのはモンスタークレーマーなのだ。
どうみても相手の過失の筈なのに、延々と『俺はこんなの知らない』『聞いてない』『全部お前らが悪い』と、言葉を理解してくれない人なのだ。
最後には『賠償金を寄越せ』と言われた日にはもう恐ろしい。
「そう、例えばこんな人とか……」
ふと私の体が浮き上がる。
「ね? ギルド長」
「じゅるり、なんだ、ここにいたのか、リッカ」
ニコリと微笑む先には、ヨダレを垂らしながら私を脇に抱えるギルド長がいた。
「腹へった」
誰か助けて!
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