表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/151

残された佐々木友弥の日々

 かたん。


 なにかの物置小屋の戸を開けてみる。

 中は菜園の肥料だけ。


「おい友弥、またかよ」

「悪い、気になったんだ」


 一月前に高校で起きた大事件。

 昼休みに三年二組の29人が忽然と消えた事件。

 真っ昼間の行方不明に学校と警察どころかテレビも新聞も大きく賑わせた。

 跡形もなく消えた29人。

 これだけの大人数なら隠しきれない筈なのに消えた。

 身代金要求もなく、犯行声明もない。学校の壁のなかや天井も捜索されたが手がかりはなかった。


「いたか?」

「いや」


 道路脇のU字溝の蓋の下を覗くが何もない。

 あれ以来物陰を見るのが癖になっている。友人には人んちの小屋とかは触るなよと言われるが思わずやってしまう。


 佳子が居ないかって。


 あの29人の中には俺の彼女も含まれてる。

 失踪の少し前までは女バス仲間と一緒に居たと確認されている。彼女が消えたのは教室に戻ってから。荷物も全てそのまま。机も椅子もそのまま。人間だけが居なくなった。佳子も。


 学校の帰り道、佳子の家の前に行ってみる。

 だけれども何もない。

 事件直後は毎日訪問したが、もうしていない。

 毎日残念な報告を交わすことに疲れたから。

 騒ぎになってないところを見ると今日も変化なしみたいだ。


 二階の窓。

 そこは佳子の部屋。

 灯りはない。

 温かい佳子の肌を感じながら、一生この女を幸せにするとと誓った場所。


 含みのある笑顔で夕飯を勧める母親にこっちがびびった。

「プレゼント」

 そう言ってテニス終わったあとに新品の避妊用具一箱渡してくる姉にもびびった。

 佳子は家族に愛されてる。

 家族のマスコットかもしれない。



 何処に居るんだよ・・・・




 ナイターテニスの帰り道。

 不思議な女性がコンビニ前に居た。

 その女性は俺の顔をまじまじと見ている。

 あの事件以来こういうことはよくある。同じ高校の生徒だから話を聞かせてだとか、マスコミだとかうんざりする。聞いてくるだけで情報は持ってこない。


「佐々木友弥君かしら?」


 またか。


「そうですけど」


「そう」


「なんでしょう?」





「貴方、罪を被る気ある?」


 その女性は変なことを言ってきた。








 ーーーーーーーー



 起きなきゃ。


 朝かな。


 今日はどうするんだっけ?







 ガバッと起きる!

 ここは何処?

 教室は?

 光って吸い込まれる天井は?

 変な言語を話す暗闇は?

 大きくて怖いモンスターは?


 どれが本当の記憶?

 記憶の順番は?

 私の部屋じゃない、保健室でもない、ここはどこ?

 荷物は?

 スマホは?

 この服は?


 なにがなんだかわからない!



 ふと、横を見ると私のベッドとは違うベッドで起きて座って抱き合ってる子供二人。


「ちょっとまっててね」

 片方の女の子がそう言う。

 男の子の足の上に座る女の子。その胸に男の子の顔。


 どうみても両方年下。

 そういう関係?


「もういいの?そう」


 女の子が男の子の腿の上から下りて黒いTシャツを着る。ブラはしてない。

 てっきり、アレをしていたのかと思ったが違うらしい。二人ともパンツもズボンも履いている。


 女の子は男の子の後ろに陣取り、二人で此方を見ている。


 そして男の子が喋り始めた。

「すまない。食事中だったんだ」


 食事中?

 ああ、そう、食事中ね・・

 食事と言えないこともない。アレをしていると思ったのは私だけ?


「平井君。ようこそ異世界へ」


「異世界?」

「君にゆっくり説明するが、諦めて聞いて欲しい」


 今、『諦めて』と、言ったよね?そして平井と言ったよね?


「あ、ラララすまない。先に食事にしよう。平井君はそうめんは好きかい?」


「え、ええ」

 たいしてそうめんは好きではないがそう言った。



 ー ー ー ー



 目の前のテーブルには山盛りのそうめん。それとチャーハン。

 ラララという人が食器とめんつゆを配りながら歩く。

 そうめんを囲むのは私とラララと言う人と物凄い綺麗な銀髪の女の人と同じく銀髪の男の人とあの男の子。

 銀髪の女の人、あれは染めた髪だ。根元には別の色が出始めている。ブラウン?金?どうやら金髪っぽい。金髪でも美人だと思うのに何故染めてるの? いや、金でも銀でもどっちになっても美人であることは間違いない。圧倒的な美しさ。そしてなんていうか説明しずらいが、逆らってはいけない鋭さ的な美貌。


「食べながら聞いて欲しい」

 男の子はそういって勝手に説明を始める。他の人はそうめんとチャーハンを食べだすのにその子は食べない。食器すらない。どうやらさっきの部屋でしていたのは本当に食事だったらしい。

 食べながらと言われても箸が進まない。分からないことが一杯ある。質問したいことも一杯ある。


 ちろちろとそうめんを食べながら説明を聞いた。


 どうやらここは異世界。本当に異世界。この子は神様。

 中学の頃、西道(さいどう)にさんざん読まされた漫画で異世界というのは知ってる。まさか自分がそこに落ちるだなんて。

 今日この世界に落とされたのは私を含めて29人。そして私以外の28人は鬼という存在になってしまったという。身体も構造が変わって巨大化して人間の心はなくなり、人間を食べる種族になるという。一度なったらもう戻れないと。私が人間で居られたのはいくつかの条件が整ったのと、運が良かったのと、魂が優れていたからだというが、魂のことは褒め言葉ではなく、慰めだと受け取っておいた。

 そして28人は退治された。

 そこの美しい銀髪の女の人、コユキさんが鬼切りを職業にしている人だという。今日の鬼退治には大勢が参加して終わらせたらしい。そして、ラララさんは過去に一度鬼に食べられる経験をしてるという。それをヒールで治したのはユキオさん。

 この世界にはヒールがある!魔法か!

 鬼になった人間はヒールで人間に戻せないの?


「残念ながらヒールは万能ではなく、ヒールでも鬼を人間には戻せない」


 !!

 これは明らかに私の心への返答!


「そう、僕は人の心が読める。神だからね。だが、君の神ではない」


「神?え?神・・」


 驚愕の言葉なのに他の人は誰も驚いていない。

 そして、私達をこの世界に送ったのは別の幼稚な神の仕業だという。この神様は無関係だと。幼稚な神様のせいで皆が鬼に堕ちてしまったと。そして皆が殺された。気を失う前にその鬼を見た。怖かった。あれがクラスメイトだなんて。

 死んでほしくなかった。

「いや、君は鬼にさんざんーー」

 そこでコユキさんがテーブルをばんと叩く。

「聞かせないで。貴方も聞かない方がいい」


 どんな風景だったの?

 どんな事が起きてたの?

 私は何をされてたの?

 知らない方がいいの?


 そして神様はとんでもないことを言った。


「平井君、全ては難しくて説明しきれないが、異世界クラス転移をしたのは雑魚神で、トリガーを引いたのは西道優正という少年だ。彼がクラスの破滅を願い、現実逃避を願った。それには平井君の同行も含まれてる」


 ガタン!

 テーブルに両手を叩きつけ立ち上がった!


 ーーのはユキオさんだった。

「西道!あのやろう!」


 それは私の台詞!

 てか、なんでユキオさんか西道を知ってるの?

 まさか!


「俺に無実の罪を擦り付けたのは西道だ!」


 驚いた!

 ユキオさんも日本人だったって!

 話ではユキオさんはもう身体は残ってなくて、精神だけこの世界に来たらしい。転移ではなく、転生みたいなものだと。今の身体は本来の身体ではなく、新しい身体だと。

 ユキオさんの話では、西道とは小学校では知り合い。昔、西道はユキオさんが幼女強姦魔だと通報したらしい。しかも噂をネット上に実名で流された。

 西道は幼女痴漢をしていたらしいが、一度痴漢を発見して止めたユキオさんに恨みを持っていて、復讐されたと。

 しかもそのあと突然目の前に現れて「ざまぁ」と言い放って走り去ったらしい。

 その冤罪事件前まではユキオさんは順調な毎日だったのに全てを失ったと。

 勿論無罪だし証拠もないので逮捕補導なんてされなかったけれど、二度と外を歩けなくされた。

 そして証拠がないのは西道も同じ。しかもユキオさんが言いふらしてないので堂々と表を歩いている。捕まった後で西道が犯人だと警察に言ったけれど苦し紛れの言葉だと相手にされなかったらしい。あいつ、そんな酷いことしてただなんて・・・・

 ごめん、私の幼馴染がひどいことをして。大変申し訳ない。そう思ったけれど、幼馴染って見方を変えれば他人なんだよね。でもごめん。

 そして、ユキオさんと私は案外近い場所に住んで居たらしい。中学も同じで私がいっこ下。覚えてないけれど。


 ただ、トラックの屋根に高校生が落ちてきた怪事件は私も覚えてる。あれがユキオさんだったとは。


 そして神様は私に言った。

「日本に帰りたいかい?」


「当然です!」


「ユキオは?」


「里帰りなら行きたいけど、永住するならこっちがいい」


 西道がもう死んだと知ってユキオさんは落ち着きを取り戻している。

 私はまだ他のクラスメイトの死の衝撃に囚われているけれど。


「平井君を送り返したいが、今の僕は人間の身体でそれほどのパワーはない。何しろ神の身体を棄ててこちらに引っ越したからね」


 経緯はわからないが無理らしい。

 会いたい皆に、彼に、家族に。


「僕はこの世界で人間として楽しく生きて死ぬつもりだ。力は何人かに分け与えた。特にラララには多くの力を与えた。平井君を送り返すならラララにしてもらうのが近道だ」


「え?」


「神様は?」


「僕は神から人間になった。人間の体に入りきらない力は三人の女性に分け与えた。ラララが一番多い。だが、それでも送り帰すには力が足りない」


「そんな・・」


 私は、神様とラララさんを交互に見る。帰りたいのに・・


「足りないなら外部から貰うしかない」


「できるの!」


「協力を取り付けられればな」


 心が跳ねる!

 帰れるかもしれない!

 帰りたい!







 でも神様は恐ろしい事を言った。



「平井君は帰りたいかい?あの地球の人類は33年後に滅びるよ」



「え?」

「え?」


 私とユキオさんに衝撃が走った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ