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コユキ 対 変質者

 バイクの横に座りながら今回の事を考える。今の所平和。


 ノリコさんを狙う変質者はここ二日間は見ていないという。

 変質者の出没は前からポツポツランダムに有ったが、ノリコさんが変質者に遭遇してからは変質者の行動範囲がノリコさんの行動範囲と同じになってきたらしい。気に入って後をつけている?

 それともユキオの観測のようなものが使える?


 最後に襲われたのは酒蔵の外の道。つまりこの酒蔵の所の人間だということはバレているかもしれない。


 変質者は圧倒的な強さを持っている。酒蔵の従業員が立ちはだかっていても苦にならないだろうし、門や壁くらい簡単に壊しそうなものだが中には入ってこない。


 何故来ない?

 変質者は勇者だろうと推測しているが、ゆっくりと考えると勇者の行動パターンかどうかわからない。そもそも勇者の事をよく知らない。


 情報を整理してみる。

【変質者は普通の人間ではない、強い】

【変質者はロリ巨乳好きだが、多少歳を食っていてもいいらしい】

【変質者はノリコさんの家の中には来ない】

【変質者は対象者に泣かれると凹む】

【変質者は口ぶりから馬鹿らしい】

【変質者はボロい服を着ていた】

【勇者は処女好きだそうだが、ノリコさんが狙われたのは偶然か?】

【変質者=勇者なのだろうか?】


 変質者がただの強い変質者なら私でも対処出来るけれど、勇者となったら話は変わる。ユキオと交代した方が懸命だ。

 自分自身で成し遂げたいという欲求はあるけれど、仕事とするならば、完遂出来ないことの方が問題だ。


 こいつ(変質者)は勇者なのだろうか?

 仕方ない。糞ガキに聞いてみよう。



『おい、糞ガキ。どう思う?』


『あれ?自分で何とかするんじゃなかったの?』


『そうとは言って無いわよ。駄目ならユキオと交代するわ。変質者は勇者だと思う?』


『うーん、変質者を僕は見てないからなあ』


『勇者は見たんでしょ?』


『僕じゃなくて、ユキオとラララが見たんだけどね。その記憶を僕が読んだ』


『どんな格好だったの?』


『いかにも勇者っぽかったよ。小綺麗で背中にでっかい剣を背負ってさ。顔は良いと思う』


『そこが違うのよね。誰も変質者の顔を良い男だったって言わないのよ。それどころか汚くて馬鹿っぽいだって』


『じゃ、違うのかも知れないね。別の人かもね』


『別の人?』


『魔王とか。或いはホントに別の強い変態か。でもその変質者は勇者に近い能力を持っていそうだね。恐らくはステータス鑑定を使ってる。鑑定はね、見ただけで相手の事が色々測れる便利な技だよ。力や特殊能力や身体の状態までわかる。因みにユキオは鑑定は使えないよ。鑑定が使えれば敵を見つけても、自分より強いか弱いか見分けられるから便利だよ。自分のほうがが強ければ戦えばいいし、自分の方が弱ければ逃げればいいし』


『なにそれ。勝てる戦いしかしなくていいってズルいんじゃない?』


『ここじゃないけど、別の世界では大流行したんだよ。便利だってね。でも、見てる方はつまんなかったよ。最初から逃げるか降伏する者、危機感なく俺ツエエーする者。特訓や技を獲得するにしても、自分の能力の数字見ながらするから分かりやす過ぎるし』


『便利ね』


『つまんないよ』


『ところで勇者と同等の能力が有りそうってどうして判るの?』


『変質者は鑑定を使ってる可能性がある。変質者は勇者かどうかは判らないが処女好きで、鑑定で処女を探している可能性がある。処女が好きだと仮定すればの話だけど。だけどね、鑑定は直接相手を見なければ出来ないんだ。遠くてもいいけど直接自分で見る必要がある。壁越しでは無理。ユキオの観測技術のような透過観測は出来ないんだ』


『つまり、家の中に居たら判らないと』


『そういうこと』


『なら、外出やめて家に居れば暫くは安全ね。ノリコさんには悪いけど』


『たった数日籠るのを我慢できなかった君がそれを言う?』


『それは!』


『それより早く戻って来てくれないかなあ』


『ユキオは?』


『無線で鬼斬りの依頼が来たらスキップして出掛けちゃったよ』


『呆れた。ユキオ逃げたか。たまにはうんち拭きしろ!』


『うん。未だに一回もしてないねえ。今日はサクラがやってくれてるよ』


『サクラ姫に感謝ね』


『でもやっぱり君が一番上手いよ。流石は経験者だ』


『まあ、随分昔だけどね。慣れよ』


『サクラが拭いてくれたのは有難いけれど、あの娘は僕の性癖を探ろうとして弄くり回してくるんだよなあ。まだまだ甘いけど』


『偉そうに。身体が子供なだけじゃない。ラララは?』


『疲れて寝てるよ』


『無理させちゃ駄目よ』


『だったら戻ってきてよ』


『えっとその・・』


『はいはい、頑張ってね』


『話は戻るけど、変質者対策で何か良い方法ない?』


『まずは相手を見てみないとね』


『だからその良い方法を』


『ノリコを何処からでも見える高いところに吊るしておけば? きっと寄ってくるよ』


『流石に吊るすのは。でも、囮にするということね』


『やっぱり君は酷い奴だ。まあ頑張ってね。いざとなったらユキオ呼びつければいいから』


 そして糞ガキとの会話は終わった。

 サクラ姫、神の性癖を探ろうとか凄すぎる。赤ん坊に◯◯とかしてないわよね?


「暫くは自分でやるしかないか」


 取りあえず立つ。

 ノリコさんを吊るすのは無しだ。

 町を巡回してみよう。

 案外偶然に発見できるかも知れない。

 醸造所に入り、ノリコさんと会い、変質者を見たことがある従業員を一人を貸してもらう。私は変質者を知らないし。


 それとひとつ仮説を立てた。

 変質者は糞ガキの言うように鑑定を使えるのかもしれない。ノリコさんの処女を見抜いているかも知れない。

 その他に、話では変質者の行動範囲がノリコさんの行動範囲に近付いているのに、建物と敷地には来ない。



 変質者は匂いを頼りにしている?



 ここは醸造所で酒蔵だ。

 酒とかの強い香りでノリコさんの匂いが消されてるかも知れない。だから分からなくて入ってこない。

 やはり此処はノリコさんにとって最高の潜伏先になる。出てはいけない。



 従業員を連れて歩き、門の脇に居る鬼斬り(部下)に軽く手を振る。

「ちょっと巡回してくるわ」


「コユキさん、気を付けてください」


「大丈夫よ」


「いえその、コユキさんも美しいので、つまり・・・・」

 心配してくれたのか。


「有り難う。バイクお願いね」


 そうして町を二人で歩きだした。

 従業員さんにはいざとなったら一目散に逃げなさいと言ってある。それは彼の安全の為だし、戦えない者が近くに居ると私もやりにくい。やってほしいことは変質者を教えて貰う事だけ。後は逃げていいと。


 そして、町を歩いて回るにあたって、ノリコさんの服を借りてきた。使ってから洗ってない中着。それを私が背中に下げている。本当なら下着が良いのだがそれは貸してもらえなかった。

 もし、私の仮説通りに変質者が鼻の利く奴ならば食いついてくるはず。



 町をあちこち歩くがそれらしき変質者は見当たらない。

 そもそも居るとは限らないし、今はどこかで寝ているかもしれない。

 考えてもしょうがない。

 足で稼ぐしかない。


 中心街を歩き、問屋街を歩き、下町を歩き、郊外も歩く。

 そして。



「マナダダリ、グ、ダリダリ!」


郊外で目の前に変質者が現れた!


 言葉にならない声を発し、小汚ない服を着ている。

 顔を見れば二十代。

 背筋はピンと立ち、歩き方はしゃんとしている。

 わりと狂人は猫背が多いのだけれど、そうではない。


「こいつだ」

 一緒に居た従業員さんが言った。


「間違いない?」

「ああ」


 変質者は私達、いや私を見てイラついている。匂いで誘き出されたのにノリコさんでは無かったからか。


「テイカン!」

 変質者が怒鳴った!

 鋭い目付きが私に向かう。

 肌にざわりと嫌な感触。

 まさか、これが鑑定?


「ぺっ」

 変質者が唾を吐いた。

 悪かったな! 処女じゃなくて子持ちで!

 女の価値をそんなことで決めるな!


 そうだ、この変質者は勇者なのか?

 今は素手で背中にデカい剣は無いが?

 よく見ればこいつの汚れた顔を雑巾でごしごし拭けば良い顔かもしれない。


 一歩踏み出した変質者から殺気がする。

 目付きが怖い。

 やる気か?


「逃げましょう!殺される!」

 従業員さんが慌てる!


「貴方は逃げなさい!なるべく遠くに!」

 走り出す従業員さん。それでいい。兎に角走って頂戴!


 抜いては居ないが刀に手を掛ける。

 従業員さんはこいつだと言ったが、本当に?

 そして、そうだとして斬っていいのか?

 どうする?


 腰のホルダーから鞘の留め紐をほどく。

 刀は抜かずに鞘ごと身体の前で両手で持つ。考えなしに斬り殺してはいけない。抜かずに戦うことも戦略にいれる。


 変質者が更に一歩出る。

 奴は素手だが滲み出る圧が半端ない!

 恐らくは鑑定とやらで有利と踏んでいるのだろう。

 つまりは私の方が弱い!


「ナナリコス!」


 奴が飛びかかってきた!

 変質者の突き出した手を刀の鞘で受ける!


 ぐっ!


 何!

 この怪力!


 これを剣と認識してるのだろう、横取りしようとグイグイと引かれる。なんて強い力!人間ではない!

 振り回されながらも態勢を崩さないようにステップを踏み、引っ張りあいに付き合う。ここに来てまだ斬って良い相手か判断がつかない。


 引き合い押し合いで変質者が力一杯引っ張ったのを私は見逃さない!その力に合わせて刀を押し込み、変質者の足をふんずけた!

 あっさりバタンと後ろに倒れる変質者。更にその勢い利用して膝を変質者の腹に!


「グボォ!」

 変質者が腹の痛みに苦しむ!

 そして刀から奴の手が離れた!


 さっと後ろに跳び、立つ。

 そして右肩に刀を担ぐ。

「弱いからって舐めないで欲しいわね」


 ウエウエと苦しそうな息をしながら半身を起こす変質者。勝てないことは無いわね。


 変質者は怒りの表情で私を見ている。そして両手を胸の高さに上げ、こちらに向ける。

 そして変質者は変な言葉を唱え始めた。

「ボボファケタリンリンズッパンオオカオカンダラダラコンマネシ!」



 なに?


 すると変質者の両手の平の間に赤黄色い霧が出来はじめる。手品?

 それはどんどん膨らんで、()()から熱を感じる!


 ヤバい!

 直感で私は背中に背負ってたノリコさんの中着を変質者の顔に投げつけ視界を遮ぎった瞬間に変質者の腕を横から蹴り飛ばした! 直後離脱!


 変質者の手に有った赤黄色い霧は向こうに飛ばされ、地面に落ちてから、ドドォン!と大きな音を出して爆発した!


「あっぶない!」


 咄嗟に蹴り崩したが、あんなもん私に撃つつもりだったの?


 これは、


「殺していいよね?」


 剣を抜く。

 こんな危ない奴は生かしておけない。更に女の敵だ。


「ボボファケタリンリ・・・・」

 再び変な呪文を唱え始める変質者!

 今度は地面の砂を目一杯掴んで横に跳び、変質者の目に投げつける!

 呪文をやめ、目を押さえる変質者!強いといっても、目は鍛えようがなかったか。

 そのまま顔面を回し蹴り! 倒れた所で腹を踏み潰す! なんて硬い腹! でも手応え有り!

 腹と口が痛くて変な呪文は言えない筈!


「うううううあうあう」

 変質者は呂律が回らない。

 ついでに目も開けられない。勝負ありだ。



 斬ってしまおう。

 ギルド騒動以来、私にはある権限がある。

 あまり自慢出来る権限ではないが。


【殺人許可権】


 私1人の判断で捜査と裁判と判決と刑の執行が認められている。


 刀を抜き、鞘をほおる。

 大上段に構える。

 切れにくくてゴツい物を力任せに切る構え。




「死んで頂戴!」


 キイイィン!






 刀に衝撃が走る!

 投石?

 左からだ!


 瞬間、走ってきた女が間に割り込む!

 なに?

 驚いて後ろに距離をとる!

 手にはドデカい剣。どうみても変質者を庇っている。

 見ただけで判る!

 ただ者じゃない!


「ガミダンダンマッコリ!」


 ?


 何を言ってる?

 そして尚もドデカい剣を構えている。

 あんな重そうな剣を構えられるなんてとんでもない怪力。そして立ち姿も完璧。見た目は普通の女だが普通じゃない。


 そしてその女は何か思い出そうとしているのか、目がたまに泳ぎ、何度も小さく首を振る。

 そして。


「ゴメンナサイ」


 ご免なさい?

 そう言ってあの重そうな剣を両手から片手で構え直し、変質者を左肩に載せて、十数歩後退り、くるっと後ろを向いて走って去っていった。


「なんて怪力・・・・」


 走ってるところを追い討ちすることも考えた。だが、あの変質者はともかく、あの女は恐ろしい。見た感じ10キロ以上有りそうな剣を片手で構え、男を担いで走るなんて。そして剣を此方に向けて構えた姿。ただの怪力女ではない。


 それに確かに『ゴメンナサイ』と言ったのだ。

 片言だがそれは意味を持つ言葉。


 見送るしか無かった。


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