コユキ 久々の外出
バアアッ!
バアアアアアア!
バアアアアアアアアア!
バイクを飛ばす!
『コユキ様、ウエアル東山番屋まで願います。別件ですがお願いしたい事が御座います』
無線経由で連絡が入った。なんかの事件がらみかもしれない。
ユキオが、
「代わりに俺が・・」
と行こうとしていたが、いい加減狭い部屋に籠るのは嫌になっていたので、
「たまにはお前がうんち始末しろ!」
と言い放ってバイクに乗って飛び出した。
何が全部で3日だ。
もう5日目なのにまだ乳にしがみついている。まんまと騙されたわ。
普通なら胸に抱く我が子の純真無垢な仕草と表情でこちらのほうが癒されるもんだが、あの赤ん坊は頭に直接つまらない世間話をしてくるわ、人を呼ぶ時は舌を転がして合図するわ、ろくな奴じゃない。
大体我が儘なんだよ。
初日から予定が遅れたのはあいつの我が儘のせいだ。
『出来がいまいちだなあ。ヤり直すか』
5回もしやがって!
時間勝負な計画なので皆同じ部屋に居たのだが、ラララはすっかり意識が飛んじゃってるし、サクラ姫は至近距離でガン見して触ろうとしてるし。
あれはカオスだったわ。
ブロロロロロ。
ボボ。
ウエアル東山番屋に到着。
久し振りのバイクは気持ちが良い。思わず三倍の距離を無駄に遠回りしてしまったわ。
用件なんかほっぽいて走り回りたいけれど、流石にそれは良くない。
バイクの簡易スタンドを立て、ヘルメットを脱ぎ、手袋を外すと丁度番屋の中から職員が出迎えに出てきた。
「わざわざお忙しい所をすいません」
「いえ、丁度良かったわ」
「え?」
「あ、こっちのこと」
流石に育児から逃げてきたとは言えない。そんな事を言えば女としてまずいし、秘密に触れることにもなる。
なんか職員と岡っ引きの視線が胸に集中してる・・・・
数日前から胸が肥大してるし、母乳漏れの布も突っ込んでいる。
目立つ・・・
「あの」
胸見んな。
「用件を・・」
仕事しろ!
「あ、はい。その、鬼とは関係ないんですが、最近ヤバい奴が出るんです」
漸く乳から意識を離した職員が用件を話し出す。だが視線はまだ胸。
この見られる感覚は若い頃以来ね。
ユキオの肉体改造前はそっちゅうだったけど。
「ヤバい奴って?」
「この道の先の左に曲がった所に大手の酒蔵が有るんですが、そこの娘に変な奴が寄ってくるんです。何度も追いかけられたりしたというのです。ずばり変質者です。一度、酒蔵の若い衆で追い払おうとしたんですが、全員ぶっ飛ばされてえらいことになったんです。娘は大声で泣き叫んだら変質者は驚いたのか居なくなったんですが、若い衆は怪我人だらけで1人は重症です」
「もっと詳しく!その変質者の特徴は?」
「ええと、変質者は小汚ない服を着ていて、見えた顔は若いと言ってました。信じられない怪力の持ち主で、言葉は支離滅裂で馬鹿っぽいと言ってました。今、娘さんは家に居ます。ぶっとばされたのは7人です」
怪力の男?
ユキオ・・・・の訳ないか。
ユキオがスケベでも悪事はしない。
まさか、勇者?
以前、ユキオとラララの目の前に現れたという勇者?
怪力は勇者だから?
「その子に会えるかしら?」
「はい案内致します。今、岡っ引き1人と鬼斬り二人が番をしてますが、すぐお願いします」
「頼むわ」
職員と蔵元に向かう。
バイクは手で押しながら歩く。近場ならガソリンは温存したいし、町中では煩いし。
「師範!」
蔵元に行くと知ってる顔が居た。オーリンの中央奉行所の若手剣士だ。派遣組だ。
「警戒ご苦労様。娘さんには会えるかしら?」
「師範、今お取り継ぎ致します」
若手剣士は門から奥に行き、私が来たことを報告に行った。そしてまた出てくる。
「お会いになるそうです。どうぞ中に」
「バイクを敷地に入れていいかしら?」
「師範は特別です。構いません」
本来なら他人の馬や牛や荷車は、勝手に敷地に入れてはならないが、私は我が儘が利く。なにせ巷では『ギルドを潰した女』と言われてるから。半分は本当の事だけど、半分は違う。
バイクを門の内側に入れてスタンドを立てる。スタンドは、仮付けしたものだから慎重に使わないと折れる事がある。以前折った。スタンド立てたが地面が弛い。バイクバックから小さな板を出してスタンドの下に敷く。これで大丈夫。
そんな私を酒蔵の皆と鬼斬り達が見ている。
黄色いバイクは目立つし珍しいだろう。
いや、胸を見られてる。
ここでもか・・・・
特にバイクに乗る日はピタピタスーツだし。
案内されて経営者の居住区に入る。ここからは案内してくれるのは番頭さんだが、最近はギルドが無くなって感謝していると言ってくれた。ギルドを潰したのを感謝されるのはうれしいが、元ギルド員だったのは秘密とはいえ事実なので申し訳なくもなる。
ギルドがあった頃は作った酒は赤字同然で買い叩かれて、横流ししないように見張られて、本当に経営が大変だったらしい。流通が自由化したので利益率は10倍になったという。市場価格は変わってないのにね。
番頭さんについて廊下を歩き、とある部屋に通される。そこに居たのは酒蔵の大旦那様とその娘。二人は丁寧に私に挨拶をしてくれた。私を頼りにしているのか鬼斬りの親分が怖いのかは判らない。
これが変態に狙われている娘ね。名前はノリコ。
歳は21歳。
小柄でややぷよってるが、運動不足のお嬢様生活のせいだろう。太っているとは言わないレベル。白い肌と栗色のストレートヘアで顔立ちがいい。
そして・・・・
爆乳。
あー。
これはあれか。
この酒蔵に来てからやたら私の乳が見られてると思ったら、比べられていたのか。この娘とどっちが大きいのかと。
うむ。
いくら今の私が乳が出るから肥大して大きいといっても、私の負けですね。
悔しくない。
それより同情するわ。
その爆乳の辛さはよく分かるから。
確か勇者はロリ巨乳好きだったわね。
これはギリギリ勇者の好みの内だろうか? 年齢言わなければ実年齢より若く見えるし。
色々変質者と会った時の事を聞いてみるけれど、番屋で聞いていた情報以上の事はなかった。
それならば。
『おい、糞ガキ』
『呼んだかい?神様を糞ガキ呼ばわりとは酷いなあ。こんなに愛くるしいのに』
頭のなかで神様を呼ぶ。
今、私は神と頭のなかで話すことができる。それもかなりの距離でも。これは神の生誕に関わった者の恩恵。いや、呪い?
『確かに顔は可愛いわね。記憶も無くしてホントの赤ちゃんになってバブバブ言ってたら、もっと可愛かったわよ』
『照れるなあ』
『誉めてない』
『それより大変よ、勇者が出たかもしれないわ。今狙われてる娘の目の前に居るわ。この娘って勇者の好み?』
『ん~、ギリ範囲内だね』
『どうしたらいい?』
『ユキオに任せれば?』
『・・・・』
『自分で何とかしたいの?』
『関わったし・・ね』
『帰りたくないだけでしょ。まあいいや。ユキオに任せれば簡単だけど、君が勇者を倒すとなると結構大変だよ。多分勇者の方が強いから。時間を掛けて準備をして仕留めるしかないね。それもいつになるか判らない』
『くっ、やはり勇者には勝てないのね』
『恐らく君の方が弱い。だが負けるとは言ってない。それよりその娘が勇者から逃げるなら手っ取り早い方法がある。それはね』
なんということ。
気は進まないが糞ガキの言った事を確かめて試してみよう。
「ノリコさん。人払いをお願いします。内密で話したいことが有ります」
「え、ええ。お父様番頭さん、お仕事に戻ってくださいな。後は大丈夫ですから」
ノリコさんがそう言うと、父親と番頭さんは渋々部屋を出る。手持ちの生体反応観測機を見る。ちゃんと娘の言うとおり離れてくれた。
「一体なんですの?」
「ノリコさん。相手は勇者かも知れません」
「ひっ、勇者!怖い」
「落ち着いて。今勇者の行動原理には法則が有ります。それを利用すれば勇者を回避出来るのですが・・・・その・・・・」
「一体なんですの?仰って下さい」
「この10年間、勇者は非処女には手を出していません」
ノリコさんが両手で口をふさぐ。内容に驚き、それと同時に対策も分かってしまったのだろう。対策の原理は単純だが、実行するのはそうではない。
そして、この動揺の仕方は・・・・
「ノリコさん。貴方処女ですね」
一応誰もいないとは思うが小声で言う。
ノリコさんは『はい』と言うことも頷くこともしないが、この表情は肯定。
「私達も全力を尽くしますが、もしもの事も有ります。その・・・・恋人とかは?」
ノリコさんは首を振る。
この様子だとご令嬢に恋人は居なかったか
「婚約者は?」
ふるふると首を振られた。これも駄目か。
商売をしてる家に生まれたのに婚約者は居ないらしい。
「では、告白したい人は居ませんか? 或いは捧げたい相手は?」
「・・・・」
ノリコさんは黙って斜め下を向く。これは。
「誰です?」
「その・・・・」
「他言はしません。信じて!」
沈黙の中、ノリコさんは何度か言いかけるのと黙るを繰り返す。言いづらいらしい。そしてやっと、
「あの、その、ええと、あの、ちょっと、いや、えーと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お父さん」
それは駄目だあああああ!
絶対駄目!
いや、お父様がアレな人で良いよと言っても、私はさせるわけにはいかない!
百歩譲って、いや千歩譲って父娘のアレを認めるとして、奥さんどうすんの?
さっき奥さん歩いてたわよ!
生きてるわよ!
ピンピンよ!
ダメダメ!
絶対駄目!
「き、聞かなかった事にするわ」
「すいません・・・・」
『どうだったー?』
『駄目だったわ・・』
糞ガキが面白がって聞いてきた。
コユキのバイクはモトクロッサーです。
ライトもウインカーもスタンドも着いていません。スタンドは公道仕様にするための部品を取り寄せました。




