産休とは言わない
ブロロロロロ。
俺は一人で車を運転してウエアルに向かう。
無線連絡でで鬼が6体も出たのいうのでヘルプ要請が来たのだが、コユキは出掛ける訳にはいかないので俺が代わりに出張。実は神の産み育てに関しては四人だけの秘密である。各領主もガガガもリエも知らない。
ウエアルの街道番屋で鬼斬り剣士と落ち合う。
番屋から出て来て俺を出迎える鬼斬り剣士は明らかにガッカリしてる。番屋の役人もガッカリしてる。すいませんねえ、男でさ。
俺がにっこり笑顔で挨拶したところでコユキの薔薇の花束のようなスマイルには遠く及ばない。
本来なら鬼が沢山でたと言えば、地域住民のピンチなんだが最近は違う。関係者には噂のスーパー美女のコユキを呼び出せるチャンスなのである。
そこに俺が現れたもんだから一同ガッカリである。
「あのう。コユキさんは?」
「ごめん。今日は休み」
「コユキさん、なにか具合でも悪いのですか?」
「いや、健康。ちょっと忙しいだけ」
「そうですか・・・・」
もうね、あからさまにガッカリしてる。
ええ、コユキは健康体ですとも。毎日ヒールかけてるしね。
今朝も朝イチでヒールしましたとも。ついでに食料を大量に出して、新品のタオルとか一杯用意してさ。あの赤ん坊はちょくちょくうんちするからオシメは諦めた。とにかくうんちのサイクルが早い。時間進めてるからね。ということで、オシメでなくてタオル巻いてる。タオルも勿体無い、新聞紙でいいんじゃね?
『ダメだ、肌触りが悪い!』と神様に怒られた。
そしてサクラ姫は、
「勿体無い」
と言って使用済みタオルをザブザブ洗っていたなあ。うんちのサイクルのほうが早くて乾くのが間に合わず、殆んど濡れタオルとして使ってるけど。
まあ、なんて事無いタオルもこの世界ではスーパーテクノロジーだし、勿体無いと言うのは当たり前か。
「うわあああっ!また出たー! ラララ、タオルタオル!」
「ごめんコユキ。コユキの服についちゃったあ! 拭くからちょっと持ち上げて!」
「こらあ! こんなときくらい乳から離れろ!」
煩いなあ。
想像しちゃうじゃないか。
俺は部屋に入れて貰えない。搾乳中のコユキの乳が見れるかと思ったが見せてくれない。ヒールも壁越し。
ええ、元気なのは確かです。
ガッカリしてるのは君達だけじゃないんだよ。
「早いとこ済ませちゃいましょう」
「そうですね。案内します」
あっさりしたものである。
これがコユキ相手だったなら、『先ずはお茶を』とか時間稼ぎをされてるわ。
俺は車を番屋に置く。
ここはウエアルだけど、ウエアルもオーリンと同じように街道番屋で車を預かってくれることになっている。よほどの事がなければ町の中や森には乗っていかない。
この車が小さいといっても、案外狭くて通れない場所のほうが多いからだ。地面が弛い所もあるしね。
「では参りましょう」
「頼みます」
鬼が出た方向に案内されて歩き出す。案内は二人だ。
ふと後ろを向けば、数人車の近くに座って写生をしている。
車の絵なんか描いて楽しいんかなあ? それとも車の絵を売るのかな? ひょっとしたらコユキを描くつもりだったのかもね。
しらんけど。
案内の人と一緒に山に入る。
途中、案内の人が疲れて暑そうにしてたので休憩をした。
「これ飲む?」
案内二人に冷たいコーラの500mlのペットボトルを出してみる。
最近は俺が普通でないというのが知れ渡ってきているけど、さすがに左手から物を出す様子は直接は見せない。
あくまで袋から出したフリをして出す。
俺が同じコーラの蓋をひねって外して中身を飲むと二人も真似して飲み始めた。
「冷たい!うまい!」
「ビリビリする!旨いかも」
コユキには毒と言われたコーラもこの二人には受け入れられたらしい。暑いときに飲む冷たい飲み物は最高だ。ついでにメロンソーダも出してみた。これも好評。ちと、口がベタベタするけど。
「ユキオさん、どこで手に入るんですかこれ?」
「秘密だ。とても貴重なものだけど今日はお礼の印にね」
「いえいえ、世話になっているのはこちらの方です!」
そういやそうだった。俺仕事で呼ばれたんだったわ。
まあ、美貌がないなら飲み物で点数稼ぎだ。
「あの、これお返しします」
そう言って案内役が差し出してきたのは空のペットボトル。
「あげるよ」
「本当ですか!」
えらい喜んでる。
空ボトルで点数稼ぎが出来るなら安いものである。
昨晩、神様に、
「日本の物をばらまくのは不味い?」
と聞いたら、
「好きにすれば?」
と、あっさりとした答えが帰って来た。そんなもん?
まあやり過ぎるとストーカーに追いかけ回されることになるので時と場合と相手は選ぶけど。
この人達には、味方になって欲しいから優しくしました。はい。
そして休憩のあと、そこから更にひとつ山を超える。
「そろそろです」
そう案内役が言うので、ナビ検索を広範囲でかけてみる。
「いるね。言っていた通り6体いる」
「分かるんですか!」
「ああ、俺は勘が良いんだ」
嘘です。ナビの機能です。
鬼の反応の有った方にこそこそ近付くと、確かに鬼が居るので皆で木陰からこっそり観察する。
「なんだかなあ」
「あれって・・」
「モテてる・・」
そこに居た鬼は♂1体♀5体。ハーレムである。人間とは違うけれど、明らかに♂がモテモテである。
鬼にもブサとかイケメンとかあるんだろうか? 人間から見たら鬼は全部ブサだけど。
鬼は元は人間の筈だから美的感覚も人間と一緒じゃないの? それとも鬼になったら鬼にしか欲情しないの?
そういや、以前見た鬼の集団は1体の♀を複数の♂がなぶってたっけ。
あれは今思うにブサ男の集団に1人の美女が迷い混んだようなものか。
どっちにしろ気分悪い。
と、言うことで一分で全滅させました。
ええ、激しい戦闘シーンなんぞ御座いません。
「この山で鬼が出るなんて初めて見た」
倒した鬼を見ながら案内の一人がそういった。
「そうなの?」
「ああ、この辺は鬼は見かけることが無かったのにな」
「へえ。なんでだろうね」
「噂では勇者か魔王が住んでるから鬼が出ないとか聞いたことがある」
「本当に?」
「いや、年寄りがそう言ってただけで本当の事は判らないんだ」
「そう」
確かにもし俺が山で暮らしてたら、近くに来た鬼はみんな始末してるわ。勇者とか魔王も同じかな?
「魔王の屋敷とかあったりして」
「ユキオさん、ビビらせないで下さい!」
「いや、今の話なら、有ったとしても空き家でしょ。それとも空き屋敷?」
「なんか怖くなってきた。帰りましょう!」
「大丈夫大丈夫。探してみる?」
この辺に人間や鬼の反応がないのは既にナビで確かめた。
そしてちょっぴり興味がある。まあ、期待したのに何もなかったとかありがちだけどね。
三人で近くを散策する。
あんまり奥には行かない。帰りが遠くなるし。
そして。
「これ、人が住んでた跡じゃない?」
俺がそう言って指を指したのは洞窟。
山の中腹日向側に開けられた横穴。入り口には板が被せられ、その外側から枝とかが載せられてカモフラージュされている。見た感じ隠れ家的だ。
「魔王城にしては地味だな」
華やかさの欠片もない。
じめじめしてるし。
洞窟は割りと広い。人間が一人で掘るなら大変な大きさ。でも力が強い転生者なら?
「これ、服だな」
中にあったのは汚れた服。
それがいくつも。
湿気を減らすためか少し木の枝と板を敷いて高床になったところに、布類が載せられている。
「敷き詰めて布団がわりかな?」
「かもしれん」
「男物、女物、大きいだけの布もある。みんな古いな」
「こんなところで寝ていたら病気になりそうだな」
「やだやだ」
「魔王の物だと思うか?」
「さあ。勇者かも」
「ただの浮浪者の独り暮らしだったりして」
「確かに数人というより独り暮らしっぽいな」
「これ焚き火のあとかな?」
「そうだな」
「火を起こすのも大変だろうに」
「うーむ、わからん」
「おや?」
「なんです?」
「誰か来たと思ったら居なくなった」
「え?」
今、ナビの観測範囲内に人間の反応入ったのに、暫くしてまた遠くなった。
こちらに感づいて逃げた?
目視出来ない場所だった筈だ。
何者?
そして俺達三人は帰ることにした。少し警戒しながら。
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その頃のサクラ姫の住居の一室。
「もう予定の三日間は過ぎたんだけど」
『うん。食べるより飲むほうが効率が良いからもう少しね』
コユキの不満を神様があっさり流した。