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旧ギルド員の老人

「よくにとる」


 通りで日向ぼっこをしていた老人が呟いた。それに別の老人が返す。二人とも80歳超えの男。


「誰に?」


「んん~」


 なかなか言葉が出てこない。


「だめだなまえがでてこん」


「そうか」


 こういうやり取りはそっちゅうだ。

 今、目の前を懐かしい男が歩いていたと思ったのだが、名前が出てこない。


 ギルドが強かったこのタクトウで長生き出来たのは秘訣がある。


 多くは稼がない。

 稼ぐ奴はギルドに目をつけられる。財産を狙われるか手駒として狙われるか。


 身の回りはさっぱりさせておく。

 やばくなったらすぐ発てるように。一人で持てる程度の財産しか持たないのが鉄則。ギルドに立ち退きを要求されたらすぐ引っ越す。目をつけられたらすぐ夜逃げ。


 嫁は貰わない。

 どうせギルドにヤられる。

 悲しみを味わうのは辛い。


 老人は元ギルド員。

 冒険者ギルドと呼ばれてた頃のギルド員。

 だが、ギルド内のイザコザで逃げた。それ以来ギルドとのかかわり合いを絶ち、過去を隠して暮らしていた。

 もう回りの住人も年寄り仲間も自分が元ギルドだと知るものは居ない。あのギルドが襲撃された後でも何事もなく生き永らえた。


 老人は無事だが、元ギルドの人間は今は迫害されている。


 老人は思い出そうとしていた。

 かつての自分の上司、ギルドに君臨した男。不思議な手品のような力を持った男。火種もないのに薪に火を着けれた男。刃物で怪我をしたときに不思議な力で血止めをしてくれた男。夜の宴会になれば奢ってくれた男。良い時代だった。


 あの頃は毎日名前を呼んでいたのに、今はさっぱり出てこない。


「なまえなんだったっけなあ」

「まだ言ってる」


 記憶も曖昧だが、あの頃の嬉しかった感情だけが甦る。


「あのころにもどりてえなあ」


「何言っとる。あんたも俺も後は死ぬだけだよ。自分の墓でも用意するんだな」


 個人で墓なんて持てる金はない。だが、ギルドの始めた集団墓地事業のお陰で墓は要らなくなった。穴に投げ込まれれば終わりである。


 あの頃、全ての町にギルドが立ち、三人の幹部がそれを切り盛りしていた。

 でも、真面目に仕事をしていたのはさっき通りすぎた男(に似ていた奴)で、後の二人は役に立たなかった。

 強かったのは役立たず二人だが、弱かった一人が仕事で頑張った。


 残念なことに、女を取られたイザコザで真面目な男は、最終的にギルドを去ることになった。


 残された幹部二人。

 それでも奴らは仕事をしなかった。だが強いから逆らえない。その幹部二人は夫婦になった。毎日いちゃついて食っちゃ寝だったと思う。いつもまぐわった後の臭いがした。

 あれじゃあ、あの(名前が思い出せない)男も相磯を尽かせて出ていくよなあ。それも元は自分の女とあっちゃあ尚更だ。


 出ていった幹部の下についていた者はあれからギルド内の権力争いで不遇な目にあった。

 老人もしばらくギルドに残っていたが、やはり居たたまれなくなってギルドから去った。


 だが数年後、残りの幹部二人も居なくなってしまったという。

 老人は後悔した。

 あと数年我慢して残っていれば良かったのだ。そうすれば立場の逆転もあったかもしれない。

 強い幹部三人が居なくなったのに更に発展するギルド。強い奴なんて要らなかった。



「のこってればよかったなあ」


 老人の口癖だ。

 現実はギルドだったことを隠して暮らす日々だったが。



「おお、おもいだした。リョウさんだ」


 老人はぽんと手を叩いたが、掌はぺしと当たっただけで小気味良い音など出ない。所詮は年寄りの手。


 老人は『リョウさーん!』と呼び止めようとしたが、もうとっくにその男の姿はない。思い出すのに時間が掛かりすぎた。


「リョウさんもどってこねえかなあ」


 そう老人は呟いた。

 それは『リョウさん』がギルドを去った後に散々言った台詞だ。



「ムジナさん、なんとかしてくんねえかなあ」


 リョウさんに付いていった先輩のことも思い出した。

 自分もついていけば良かった。だがあまりにも突然で引っ越しなんて無理だった。家財道具が一杯有ったし、当時の女も捨てれなかった。身軽になれなかった自分の失敗である。


 そして今は自分より年寄りのムジナに何かを望むほど老人はボケていた。

 何も成せる訳がないのに。

 実際はムジナはもう死んでいたのだが。




 ー ー ー ー ー ー




 一方、リョウタはかつての部下にも気がつかず歩いていた。


 今まで年寄り達と山籠りしていたがいい加減飽きた。

 今は『銀の浮気妻』を叩きのめしたいという欲求がある。

 とはいえ、銀の夫より強いという銀の浮気妻を倒すなんて自分には無理だ。

 酒を飲みながら思い付いたのは、『なんとか銀の夫にもう一度会って、彼に勇気を持って立ち上がって貰う』という作戦だ。なんなら自分も協力して2対1なら勝てるかもしれない。

 そう思いながら町を銀の夫を探して歩いていた。

 銀の夫婦は全ての町を回るが、今はこの町でよく見るらしい。昨日の夜に酒場で聞いた。


「何処だ?同士よ」


 リョウタは勝手にユキオのことを同士と呼んでいた。




 ーーーーーーーーーーーー




 そしてその頃。

 ここはサクラの住居の一室。



「ううっ!こらっ!舌を転がすな!」


 コユキが自身に抱かれて乳に吸い付く赤子に文句をたれていた。




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