久し振りの町 リョウタ
タクトウの下町を歩く。
町を歩く人に知り合いは居ない。見覚えがある人も居ない。
俺とクラリスとジーヘイの三人は歳を取らない。
最初からそうだった訳じゃない、この世界に来てからだ。以前の世界では普通に皆成長して年齢を重ねてた。だがこの世界に来て成長と老化は止まった。
いつまで経っても二十代半ばの身体。今では俺たちの実年齢は120歳超えの筈。初めのうちは老化しない身体に喜んでいたが、次第に不安になってきた。回りの人はどんどん歳を重ねるのに自分達は変わらない。見た目が変わらないだけで寿命が来たらやはり死ぬのか?と思ったが、100歳超えても変わらない。どうやら不死らしい。
そして嫌な話だが、散々まぐわったクラリスとジーヘイに子供が出来ない。胎児が成長しないどころか、子種にならないのか。
彼らは果たして喜んだのか悲しんだのかは知らない。顔も見たくなかったし。
かつての冒険者ギルド。
その建物は記憶に残る骨格だが、見た目は違った。入り口のドアは開け放たれ、中はまるで廃墟のように荒れ果てている。金目の物はあらかた無くなっていて、壊れた物だけが残されている。血が流された跡もあるが掃除はされていない。
「荒れたな」
この建物が出来た時は協力者の町民と俺達の皆で喜び会った。あの時のことは今でも覚えている。
誰も居ない。
誰か居れば様々な情報を聞きたかった。ギルドのこと、旧いメンバーのこと、町のこと、銀の夫婦のこと。
中に入り、一部屋一部屋確認する。
やはり誰も居ない。
有るのは価値の無い壊れた家具ばかり。
かつてのホール、かつての俺の部屋、かつてのクラリスの部屋。
ひとつだけ開けずに過ぎた部屋はかつてのジーヘイの部屋。あの頃俺は気付いて居なかったが、クラリスはその部屋でジーヘイに跨がっていたという。直接見なくて良かった。何人か覗いた奴や声を聞いた奴はいたらしい。
二人を付き合わせない為に新設ギルドに分けて派遣したが、既に手遅れだったのを知らされたのは随分後だ。それもジーヘイのギルドでジーヘイ本人から聞かされた。
その時怒ってジーヘイに殴り掛かったが、止めたのは更に別のギルドに居る筈のクラリスだった。
二人は俺から離れたのをいいことに同棲していたようだ。ギルド業は部下に押し付けて毎日盛っていたのか。
2対1。
俺に勝ち目はない。
強いジーヘイと強いクラリスに組まれたら俺なんて虫けらだ。
目の前に寄り添う美男美女。
ああ、俺は負けたのか。
考えてみればクラリスが俺を選ぶ訳がない。俺とクラリスの婚約はあくまで両家の為。それがなくなれば、彼女を縛る物は何もない。顔の良いジーヘイの元に行くのになんの問題もない。
六階に登る。
六階といっても屋根裏部屋で物置。
かつて金目のものをここに置いておいたが、なにもなくなっている。この世界に来た時の衣類もここに置いて居たがそれもない。
「本当に何も失くなってしまったんだな」
この建物は80~90年経っているがよく考えたら俺が居たのは10年もなかったんじゃないか。何十年も使った気分になっていたが、記憶とは曖昧なものらしい。
さてどうする?
銀の夫婦が憎くて町に探しに来た。
だが、あっさり見つかった銀の男は何故か憎めなかった。妻に浮気され寝取られた男。知らない男の子供を押し付けられた男。
少し同情している。
自分の境遇と重なるからだろうか。
それにあの男には俺は勝てはしない。ステータスはいまいち正確に読みきれなかったが、あの鬼と戦う姿は忘れられない。あれは強すぎる。
銀の浮気妻。
銀の浮気妻は見たこと無いが、イメージがクラリスと被る。あの尻軽クラリス。
潰すならこいつだ。
男の敵。
先ずは銀の浮気妻の姿を見てみたい。
新たな情報を拾うべく、俺は人が集まりそうな酒場に向かうことにした。
流行っていそうで、ごみごみして汚い店を見つけて入る。いかにも情報が溢れてそうな酒場。
久し振りの町の食い物。俺は正直あまり好きではない。元の世界の食い物に比べて素っ気ないからだ。
だから山奥の生活でも耐えられた。町の食い物が恋しいと思わなかったから。
「へい、お待ち」
適当に頼むと言っておいたら、変な食べ物が来た。
白くて細長い練り物のようなもの。それが小鉢に少しの汁と盛られている。
「親父、これは?」
「ああ、オーリンで話題のラーメンを真似してみたんだが、実は俺もそのラーメンを食ったことがなくてな。これは俺のオリジナルだ。まあ食ってくれ。いつかは本場のラーメンに追い付きたいと頑張ってるんだが。食ったら感想くれや。もっと工夫するからさ」
「そうか」
その細いものをフォークに絡めて口に運ぶ。
ボソボソする。あんまり旨くない。材料は芋粉と麦粉だろうか。俺も食通じゃないから感想くれと云われても困る。
「よく分からないが旨いと思うぞ」
「そうか。ありがとよ」
そういうと、追加のラーメンとやらを更に盛り付けて持ってきやがった。さては余ってるな!
旨いなんて言わなきゃ良かった。
それはそうと情報収集だ。
「親父、銀の夫婦は見たことあるか?俺は見たこと無いんだが」
「ああ。奥さんの方ならたまに見るぞ。どてかい音がする変な馬に乗ってる。あんないい女は見たこと無い」
「変な馬?」
「ああ。馬も気になるが何よりあの美貌だ。ああいうのを良いオンナって言うんだな。いつもは一人だが、たまに若い剣士侍らせてる。夫じゃなくてオーリンの若手らしい」
「夫じゃなくてねえ・・」
糞女じゃねーか。
益々クラリスと被る。
「何処に行けば見れる?」
「やめておけ、おっかねえぞ。聞いた話だが、四つの町のギルドは殆んど妻が倒したらしいぞ。夫じゃねえ、妻だ!夫は尻に敷かれて後始末と鞄持ちらしい」
「なんだと!」
あの夫ではないのか?
あの夫だってとんでもなく強いぞ?
あれが尻に敷かれる?
ああっ!
そうか。
だから夫は浮気されても従うしかないのか。それがあの発言に繋がるのか!誰の子か判らない子供を受け入れるしかないと!
とんでもねえ糞女!
クラリスの上をいきやがる!
銀の糞女に怒りがグツグツと沸く。
なんとかその女にぶちかましてやりてえ。
しかしどうしたらいいかわからねえ。
「親父、酒くれや」
「へい毎度!」
俺は無駄遣いをした。




