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さらばムジナよ (リョウタ視点)

 ムジナの亡骸を運ぶ。


 初めて会った頃のムジナは生意気な若造で力も強くイキのいい奴だった。

 それが随分小さく軽くなった。

 90歳とか言ってたな。

 軽くなるわけだ。


 家の裏の墓場。既に一人眠ってる。彼もほぼ老衰だったが、最後はやはり俺が楽にしてやった。苦しませるのは酷だ。


 後ろから二人ついてくる。

 この二人はムジナが拾った男達。今日はムジナの為に墓を掘ってくれた。二人もいい歳だが、老体に鞭打って墓を掘ってくれた。あとひとりは町に買い出しに行っている。彼はまだムジナの死を知らない。


 簡素な墓にムジナを埋めて、ムジナと書いた木札を立てた。

「すまん、ムジナ」

 一言そう言った。

 俺と関わらなければ、いや、俺達がこの世界に来なければ、もっといい人生を送れたはずだ。


 そう、この世界は俺達が来たせいで狂った。



 俺達は五人の冒険者パーティーだった。

 リーダーで剣士のジーヘイ。彼は総魔力は9000超えで瞬間放出も一度に1000を出せる化け物だ。その魔力で剣を振れば無敵の剣士、弓をを射れば俊速で威力抜群の狙撃手。炎を起こせば大火となる。世の中、攻撃は様々なものがあるが、強さは魔力量がモノをいう。

 補佐のマリアとベッキー。

 はっきり言ってこの二人は総魔力はそれぞれ1800と1750で、平均よりマシな程度。(一般人平均は500)はっきりと言わせて貰えば彼女らはジーヘイの愛人だ。

 そしてクラリス。クラリスは商人の娘だったが異例の魔力持ちで総魔力4000。瞬間最大はジーヘイと同じ1000を出せる。


 元々クラリスはジーヘイとは無関係だったが、その魔力量は有名だった。しかも美貌の持ち主だ。

 クラリスはジーヘイに目をつけられた。ジーヘイにスカウトされ、ジーヘイと仲のいい領主の後押しもありジーヘイパーティー加入。その頃既にクラリスの婚約者だった俺はクラリスに口添えして貰うことで強引にパーティーに入った。婚約者の居る女を単独でパーティーに入れる事は出来ないと。

 ジーヘイは嫌々だが俺が入ることを認めた。

 俺の総魔力は550だ。本来なら入れない。


「クラリス。クラリスは綺麗なんだから気を付けろよ」(ジーヘイのこと)


「リョウタ心配しすぎよ。寄ってくる男は前にもいたでしょ。何を今更」


 クラリスはそう言っていたが、本当はどうだったんだろう?

 婚約者といっても、家同士の決めた婚約。商家と商家の決め事で本人の意思ではない。


 ジーヘイは美男子だ。

 身体も魔力も強く、非の打ち所のない男だった。性格は最悪だが。

 いや、女性からは性格が悪いという噂は聞いたことがない。まあつまりそう言うことだろう。

 クラリスもジーヘイを悪く言ったことが無い。


 一方俺はただの男だ。

 飛び抜けて良いところなどない。残念ながら顔もだ。

 飛ばされたこの世界で俺は最終的に魔王なんて呼ばれるようになったが、理由は()()

 そしてジーヘイが勇者と呼ばれる原因も顔だ。




 あの時既にクラリスはジーヘイを好きだった?

 冷静に考えればあの二人はお似合いだ。強くて美しい二人は絵になる。クラリスはあの頃まだ魔力が少しずつ成長中だと言っていた。もう少し待てばジーヘイに簡単には負けないレベルになったかもしれない。それこそ強者は強者としか付き合えない。


 俺は?


 未練たらしい無能か。

 力もないのにジーヘイのパーティー入りして。


「惨めじゃない?諦めて出ていったら?」

 そうマリアに言われたこともある。言われると更にムキになって居座った。


「分かってないわね。ジーヘイのパーティーに入ったと言うことは、ジーヘイを好きだと言ったようなものよ。二人が寝るのも時間の問題よ。代わりに慰めてあげようか?」

 クラリスを悪く言うベッキーに腹が立った。

 慰めてあげようかだって?

 お前はジーヘイの女だろ!

 他の男とも()()()()()

 それがお前らの流儀か!




 結局、ゴタゴタして(転移のせいで)時間は掛かったが、ジーヘイとクラリスはひとつになった。


 俺はひとりだった。







 後ろから人の気配。



 町に買い出しに行っていた一人が帰って来たようだ。彼は捨て子で我々が育てた男で一番若い20代。

 彼は息を切らせて来た。

 なんだか相当焦っている。

 ムジナの死に慌てたのか?


「大変だ!ギルドが、ギルドが倒された!全部だ!四つのギルドが全て倒された!」


 俺達三人は驚いて彼を見る。

 俺は最近の町の様子は知らないが、ギルドは100人、いや、200人?もっといた筈。それが倒された?そんなとてつもないことを?

 誰に?


「銀の夫婦という二人組が倒したと言うんだ!銀の髪をした美男美女の夫婦!もう町にギルドは無い!どこにもない!」


 銀の夫婦?

 美男美女?


 何かカチンときた。


 ギルドとは何十年も前に縁を切った。今はギルドから隠れて生きている身だ。だが、今でこそ無関係なギルドだが、元は俺が苦労して作ったギルド。

 昔、この世界で生きていくために作ったギルド。

 それを潰された?

 いや、それに怒ってはいけない。

 それよりも問題は銀の夫婦だ。

 ジーヘイは金髪でクラリスは紺の髪。違う。

 だが、その夫婦は関係が上手くいっているに違いない。二人で強いというのはそう言うことだろう。いくら二人が強くても仲が悪ければ力はマイナスになる。


 嫉妬。


 俺はクラリスに捨てられたというのに・・・・

 無性に腹が立つ。



「お、おい。どうする?」

「山を降りるか?」

「リョウタ様どうする?」


 そうか。

 こいつらは山を降りたいのか。確かにギルドから隠れる必要はない。町でうまく生きていけるかも知れない。




 だが俺は?




 三人が俺を見ている。

 俺の言葉を待っているんだろう。町に行こうと言ってくれるのを。


「明日、俺達は別れよう。今まで有難う。お前達は町に行け。俺は行きたい所がある」

「いやしかし・・」

「一緒に・・・・」


 彼らは俺が居ないと心細いのだろう。強い俺が居ないと。

 だが、ヤバい奴ら相手では俺の力など通用しないかもしれない。もしジーヘイにばったり会ったら最悪だ。

 一人でなら逃げれるし何か策を使うことも可能だが、大人数(足手まとい付き)では駄目だ。

 それに俺はこの三人に愛着がない。ムジナとは違うのだ。



「明日、残りの食料を分けあおう。金もだ」

「い、いいのかそれで」

「行きたいんだろう町に」

「すまない」


「ところでリョウタ様は何処へ?」

「銀の夫婦を見てみたい」

「危なくないか?」

「わからん。だが無性に見たい」



「戦うのか?」

「何故戦うと思った?戦う理由がないぞ」




「いや、顔が怖いぞ」

 顔に出てたか。

 俺が銀の夫婦に持ってる理由のない殺意が見えてしまったか。

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