ユキオが寝ている間の出来事
ここはクロマツ。
ユキオとコユキによりクロマツギルドは滅び、現在はサクラ姫の母モモカが統治する町。
母モモカとしては領主などという忌まわしい仕事はさっさと引退して、余生を楽しく過ごしたい。
かつてモモカの死んだ亭主クロマツが治めていた時は苦労の毎日だった。原因はギルドだが。
今はギルドが無くなり平和なのだが、それでも領主業はこりごりなのである。
そこに入って来たビッグニュース。
『ユキオとコユキがウエアルギルドとタクトウギルドを滅ぼした』
数百人に登る荒くれ者ギルド員をたった2人で潰したという物凄いニュース!
しかし、ウエアルとタクトウはギルドが強かった町。
ギルドが消えたと言っても旧ギルド派が町中にいて安心はできない。
それどころか、ギルドが消えたらギルド員は統治者無しで放し飼い状態になった。
今までギルド統治下でさえ好き勝手にして居たものもいる。更に好き勝手にするかもしれない。悪しき習慣と権力を持つ人を抑え込む人材が必要だ。
ウエアルの暫定領主はサクラとなった。
サクラ姫はユキオの僕で婚約者希望者。いうなればユキオの名前をチラつかせることが出来る存在。
本来の領主ウエアルはギルドに奪われた妻子の行方を探したいと現在休職中。いずれは領主の座を明け渡すだろう。
かつて、仕方がなかったとはいえ、ウエアルギルドの言いなりになって民の苦しみ痛みに背を向けて居た過去がある。今更堂々と領主なんて無理だろう。
近く、ウエアルはサクラと地名を変更するかもしれない。
一方、タクトウはタクトウギルドが壊滅すると、タクトウ邸と城に町民がなだれ込んだ。
ギルドに尽くして居たタクトウ一派はギルドの後ろ盾が無くなった途端に民に復讐されたのだ。
残った公務員はほんの少しだった。生き残りの公務員はかつて権力を持たせて貰えなかった下っ端ばかり。
彼らだけで統治なんて出来る筈もない。扱いづらいヤバイ奴も町には残ってる。
ということで、現在はオーリンの役人が駐留して公務にあたっている。
ユキオとコユキの本拠地のオーリンには旧ギルド派も逆らえない。
そして、ごくたまにだが、爆音を出す恐ろしい乗り物で町に現れる『銀の夫婦』の妻が旧ギルド派を恐怖させた。今でもその女は斬り足りないとばかりに郊外で鬼を斬りまくる。10人がかりで倒す鬼を簡単に斬りふせる女がうろうろして居る。
その恐ろしさに旧ギルド派は次第におとなしくなっていった。
ーーーーーーー
「疲れたー!」
仕事の合間、サクラ姫はクロマツ城の執務室で大きく伸びをする。
クロマツ城に居るとはいえ、やっているのはウエアルの仕事。
サクラ姫はまだ若く、領主をするには教養と経験が足りないが『サクラの男達』という強い味方が居る。彼らは資産力と能力があり、ウエアル統治におおいに役立った。こういう男を虜にして使えるるのもサクラ姫の武器と言える。
ブロロロロッロオオオオオーーー!
「コユキ姉様・・・・」
たまに窓越しにコユキのバイクの音が聞こえるが、コユキが城に寄ることはない。
あの音はコユキがバイクで走っている音なのは間違いない。
いつも通り過ぎるだけだ。
たまには寄ってくれても良いのにとサクラ姫は思って居るが、コユキは隙を突かれてサクラ姫に押し倒されてはたまらないので、城に立ち寄ることはない。コユキとしては、押し倒されそうになっても鬼や悪党なら斬り殺せばいいが、サクラ姫を斬るわけにはいかない。お菓子など貰って食べて、居眠りなどしようものなら何をされるか分かったものじゃない。
ボオオオオオオオオーーボッ。
「あら?」
いつもなら通り過ぎるはずのバイクが城の前で止まった。
暫くすると。
ブウウウウウウウウ。
ちょっと似てるがバイクとは違う何かの音。
それも下に来た。
サクラ姫が窓から下を眺めると、敷地にバイクを押して入ってくる愛するコユキ姉様と、青くて四角っぽい変な乗り物から降りるユキオとラララ。このメンツが行動を共にして居るのはただ事ではない。愛しいコユキ姉様に会えるのは当然嬉しい。だがそれ以上に胸が騒ぐ。
待っていれば、職員が3人が来たことをここまで知らせに来るだろうが、待っては居られない。大急ぎでサクラ姫は廊下を走り、階段を駆け下り、正門を飛び出した。そこに彼らが居る!
そして駆けて来たサクラ姫に向かって、待ち構えて居たユキオがこう言った。
「はじめまして。やあ、君がサクラだね。ちょっと部屋を用意してくれないか。大事な話があるんだ」
ーーーーーーーー
神と名乗るユキオ。最初はユキオが変なことを始めたのかと疑ったが、
「他人には聞かれたくない話だから」
といって、ユキオが指パッチンすると、いきなり三人の耳がおかしくなった。そして喉から声が出なくなる。
『あれ?声が』
『あーあー、みんな聞こえる?』
『変な音』
『どうなってるのこれ?』
『聞こえるけど』
『なんなの?気持ち悪い』
『口のパクパクが変な感じ』
三人は異質な状況に戸惑った。喋れないのに喋れる。聞こえないのに聞こえる。
空間全体に響くような声だけれど、相手はこの四人に限られている。
『今、僕の力で四人だけの意識の共有をした。他の者にはこれからの話し合いを聞かれたくない。ついでに言うと、ユキオも聞いていない』
目の前のユキオが『ユキオは聞いていない』と言う。
それも不思議な響く声で。
目の前のユキオがいつもと違うのは解った。いつものユキオが使わない技を使うし、自分を俺と言わず僕と呼ぶ。今までユキオの側で不思議なものを見せられていたから疑う気は起きない。
『聞かれたくないって一体なんの話を・・・・』
ラララが珍しく前のめりに話す。
『そうだね、まず自己紹介からしよう。僕は神様だ。この世界の神じゃない。ユキオの故郷の神なんだ。このユキオの身体は僕が作った。君達はそれぞれその恩恵を受けた』
それは確かだ。
ラララは鬼に食われていたところを助けられ、コユキはギルドからの足抜けと死刑回避、サクラ姫は町を救って貰った。
『納得する説明をしようとすると長くなるが、今僕は消失の危機にある。消えたところでユキオや君達に不利益は無いが、僕はまだ消えたくない。そこで君達にお願いがある。この世界でユキオを使って僕を産んでくれないか?』
ユキオ(神)の話にキョトンとする三人。
サクラ姫が恐る恐る質問する。
『ええと、もっと解りやすく・・』
『ああ、僕とセックスして妊娠出産してほしい』
『ユキオ様と?』
『いや、僕だ。身体はユキオを使うが中身は僕だ。ユキオには悪いがユキオの精神にはその間眠って貰う』
コユキが尋ねる。
『何故私達に?』
『君達三人がユキオの僕なのは知っている。もう一人リエが居るが、あれは中身は男で子は成せない。選ぶなら君達三人から選ぶのは当然の事だろう』
『神の子・・』
『ああ、産まれる子の意識は僕で肉体は人間だ。怪我もするし寿命もある。何しろ人間から産まれるんだからね。それと当然だが母親は一人だ。残りの二人は助産婦と育成を手伝って貰う。母親の胎内で生命になったならば、僕は意識を直ぐそちらに移す。後は時間の流れを早めて早急に産まれるとしよう。時間にして3日だ。残りの二人には妊婦の食事と下の世話をして貰う。妊婦は兎に角三日間食事をし続けることになる。実質母親の新陳代謝分を節約するからまるまる十ヶ月分の食事は必要ないが、それでも相当な量を食べることになる。世話係も大変だと言わせて貰う』
『何故そんなに急ぐの?自然に産まれるのでは都合が悪いの?』
コユキはこの中で唯一の出産経験者。妊娠出産が大変なのは一番よく知っている。
だが、妊娠中の幸福感も一番よく知っている。それをただの作業のように済ませろと言うのは不幸だ。
『ああ、時間がないんだ。それと、君達は悠々と産休がとれるかい?』
『それなら私が・・』
ラララがぼそりと言う。
『ラララも働き初めて楽しくなってきたところだろう。店員も大事な仕事だ。卑下してはいけない』
確かに店員は鬼斬りや領主業に比べれば下かも知れない。だが、神の見解は違ったようだ。
『コユキは鬼斬り、サクラは領主、ラララは店員。皆、休めないだろう。だが、三日で終わるなら誰でも其ほどの不利益は出ない。産まれたら暫く授乳を頼むが、離乳食まで行けたら後は勝手に育つから心配しないで。それと当然だが教育は必要ない。皆から貰う時間は三日間だ。それならなんとかなるだろう?』
『それはそうだけど・・』
コユキが小声で言うが、この世界では全てが全員に聞こえる。
『それから母親には産後のヒールは豪華バージョンで施そう。それと君達三人には神の恵みが与えられるが、産んでくれた者には一番恩恵を注ごう。先ずは誰が母体になってくれるか話し合ってくれないか? そうだな、一時間後に結果を聞かせてくれ』
『『『一時間後!?』』』
それだけ言うとユキオは椅子に眠るように沈んだ。本当に眠っているらしい。
その後、ユキオが目を覚ますと、女三人が怒鳴り合いの最中だったのだ。