神様再び
車が街道番屋に到着する。
敷地入り口の当直に「やあ」と挨拶すれば「どもー」と、返してくれた。
車を俺達の車専用のスペースに移動させて停車する。
「コユキ、起きろ」
起きる気配が無い。
寝言もうめきすらない。
熟睡している。まるで気絶しているかのようだ。
コユキは俺と違って身体は人間だ。いくら強いと言っても一晩で400人斬りすれば疲れて当たり前。つうか、お前は何者だ?
「起きろ」
もう一度肩を揺らすが全く起きない。
こりゃあエチゴヤ邸まで歩くのは無理だな。かといって車を街中には持ち込みたくない。
コユキの左腕を掴んで持ち上げる。
起きない。
掴んだ左腕を身体の中心付近に置く。
起きない。
コユキの助手席シートを目一杯ガコンと倒す。少し寝やすくなった筈だ。
起きない。
車のエンジンをかけ直しオートエアコンを25度設定に。
起きない。
目の前には無防備なスタイル抜群な美女。
裸は一度だけ見たことはある。触った事はない。
シートベルトを外してやる。
起きない。
チャンスなんじゃ?
目の前には二つの山。
何故山に登る。
そこに山があるからだ。
車の外を見回す。
誰も見てない。
もう一度見回す。
大丈夫。ナビの生体反応も遠い。
だが時間が経てば誰か来るだろう。
作戦は速やかに!
短時間で得られる最大の成果を!
ーーーーーーーーー
あれ?
ここはどこだ?
意識が途切れて、目が覚めると何もない空間だった。車の中じゃない。コユキも居ない。
白い空間。
奥行きもわからない。地面もない。何もない。
暗くもなく明るくもない。
『久しぶり、ユキオ』
この、空間全部に響く声はあの時の。
『そう、君の神様だ』
やっぱり。
『いかんなあ。寝込みで痴漢しようだなんて。実にいかん』
いやその・・・・
痴漢をしようだなんてそんな事はしないですってば。
『残念。僕には全てお見通しだよ。君のたててた計画を全て言ってみせようか?まずは右手を上着の裾から入れて彼女の左の・・・・』
すいませんすいません!
すいませんすいません!
『くっくっくっくっ、ああ楽しい』
やっぱり頭の中は筒抜けか。
『そういうこと』
なんてこった!
俺はエロ禁止なのか!
折角のチートなのに!
『いや別に?』
え?
俺の痴漢を止めたんじゃ?
『いや、これは偶然だ。話があったから呼んだだけだよ』
おおおう!
なんてバッドタイミング!
あと三分!あと三分待ってくれたって!
『煩いなあ。そんなの後だ後。人間の乳より神との話の方が先だ』
話って?
俺の夢を駄目にしてもしたい話って?
男のロマンを遮ってまでする話ってなんですか?
『僕は近く消えることになる。僕の神社が取り壊されることになったからね』
うそ!
なんで!
『市の決めた事だ。僕の神社は取り壊されることになった。建前上、移転と言うことになって居るけれど、新しい社モドキに僕は入れない。そして僕は消える。元々土地神としての役割は失くなっていたんだ。もうあの周辺に大地はない。君に与えた力は今まで使いそびれていた僕のエネルギーだ。あの頃誰か移転させようと思っていたのだが、君を選んだのは殆んど気まぐれに近い。まあ、結果から良い人選だったと思う。まあ、しいて言えば、君が遠くに行きたいと望み、トラックの運転手が死にたいと願い、君の妹と同級生が君が居なくなればいいのにと願ったからだ』
居なくなればいいのに・・・・か。
随分だな。
思い出さずに済んでいた顔の数々が頭に浮かぶ。
『元の世界の事が知りたいかい?』
心臓がどくんとする感覚!
これは恐怖だ。
知りたい。知りたくない。
知りたいのに答えが怖い。
『そうか。なら君の家族から。あの後君の家族は皆泣いていたよ。だが、心の底から悲しんでいたのは母親だけだ。あとは嘘泣き。今関係は最悪で離婚に向けて話し合っている。妹は母親についていく方向だが母親と喧嘩ばかりで、父親に乗り換えようか格作中だ』
そうか。
母さんは泣いてくれたのか。
『ああ、君の真の味方は母親だった。君が望むのなら母親にちょっとしたラッキーを起こすことができる。どうする?』
ちょっとしたラッキーを?
なら頼む!
母さんに!
『分かった。ならそうしよう。神社が取り壊されたらその後の報告は出来ないが』
有難うございます。
本当に有難うございます。
『君の妹だが、父親の方に引き取られた場合、55%の確率で近親相姦する。手を出すのは父親からだ。構わないかね?』
あの二人最低だな。親子だぞ?
でももう、どうでもいい。
俺の死を悲しまなかったんだろ?愛されてなかったんだろ?
『ああ。この14ヶ月はそうだ』
じゃあ、好きにすればいい。本人達の好きにすればいい。しらん。
『じゃあ、ほおっておこう』
『学校のことは聞きたいかね?』
知りたくない。
どうせ、母さんほど悲しんだ奴は居ないんだろ。
『ああ』
そうか。
分かっていても辛いな。
知りたくもない。
『まあ、高校の関係者は僕の力の及ばない所の住民が殆んどだからどうしようもないんだけとね』
なんだ。
案外神様って狭い範囲の神様なんだな。
『ああ。だが使いそびれた力は莫大だった。あとはトラックの運転手。彼女はーー』
彼女?
女性だったの?
『そうだ。女性ドライバーも珍しくないぞ。彼女は死ぬ間際、顔も名前も知らない君に感謝してたよ。やっと全てから解放されるって』
どういうこと?
『世の中には死ぬことでしか幸せになれない人も居るって事だよ。自殺すら禁じられた人。彼女は女性としてスペックが良すぎた。だから不幸のほうから寄ってきた。抗うのは彼女には無理だ』
聞かないほうがいいのか・・・・な?
『ああ。おおよそ君が想像したレベルの不幸だ。彼女の魂はもうない。転生もない。彼女がそう望んだからだ。だから墓に花を備えても無駄だよ、この世界に居ないんだから。そう言っても君は墓参り出来ないがね。彼女は生きていれば良いことあるという言葉が嫌いだと言っていた。それを言う奴も。そして君に感謝していた。名前も知らないのにね』
顔も知らないトラックの運転手。心の中で黙祷した。
『黙祷したって相手も居ないのに』
でもしたかったんだ。
『そしてここからは君の身体の話だ。君はまだ僕の与えた能力の1割も使えてない。エネルギーだって1パーセントも減ってない。僕は最後に、僕が消える前に君の能力のアップデートをしておくことにする。使いやすくなる筈だ。そして僕の残りのエネルギーも渡しておく。大丈夫、母親の分はあるから』
有難うございます!
感謝してます!
母さんを宜しく頼みます!
そうだ!
コユキ!
コユキはなんなんですか?
強すぎる!
何かの子孫か何か?
『ああ、コユキはコユキだよ。ただの人間だ。君が一番よく知ってるだろう。人体改造であそこまで強くなったのは彼女の才能と強い思い故だ。あれは君の最高傑作だね』
人間だったのか。
だだの人間。
コユキが。
『それと』
それと?
『いずれ君は勇者と魔王に遭遇するだろう。会った時君がどうすべきかは知らない。なにかたっても僕の与えた力が負けることは無いと思うが注意してね』
あれも転生者なのか?
『そうだよ。やったのは僕じゃない。別の世界からだ。それから、君たちが『鬼』と呼んでいる生き物。あれも転生者だ』
鬼が?
『ああ、能力もない神が転生、転移に手を出して失敗したやつだよ。先日もどこかのチンピラ神がクラス転移に失敗して40体程鬼が生まれた。迷惑な話だ』
クラス転移?
教室の床に魔方陣が現れて~って奴?
『そう、それ。流行りに乗ろうとしたイキッた神がやらかしてる。あ?まただ。失敗してるのにまたやりやがった。馬鹿は何度もやらかすからなあ』
ちょっと待って!
鬼が増えたってこと?
『ああ。あ、まただ。こりゃあ100体越えるな。あ、越えた。反省も改善もせず繰り返すって相当なバカだな』
やめさせてくれ!
『無理だよ。関与できないし。あ、今度は単発に切り替えたな。でも失敗。あ、また失敗。こりゃ相当な量の鬼が発生したな。まあ鬼は人間の心も記憶ももうないし処分していいよ』
早く戻らないと!
『その方がいいね。もっと話をしたかったけど送り返そう』
そうしてくれ!
『じゃあ、さよならだ』
有難うございます!
ーーーーーーーーー
目が覚めると車の中。
今何時だ?
何時間たった?
身体を起こす。
既に昼。
半日以上寝てた?
クルマの外に人気はない。
隣にはまだ眠るコユキ。
鬼が大量発生してる!
コユキ起こさないと!
待て。
一度だけ。
そ~~~~っと、
ぴと。
「なにすんのっ!」
ガッコーン!
アゴに激痛がっ!
「お、起きてた?」
「少し前に起きたけど、ユキオが起きるの待ってたのよ!寝込み襲うなんてサイテー!」
「いやこれは起こそうかと」
「場所が違うでしょ!このドスケベ!」
「す、すいません!」
「変態!」
「でもほら、昨日まで銀の夫婦って名乗ってた訳だし」
「名乗ってなーい!」
ばっちーん!
どんどんガード固くなってない?