新ウエアルギルド
その日、ウエアルギルドはタクトウギルドによって滅ぼされた。
町中に逃げたウエアルギルド員も次々と捕縛された。
町の人は知っていた。
ウエアルギルドより、タクトウギルドのほうが怖い、逆らってはいけないと。
隠れていたウエアルギルド員は町の人の密告により次々とタクトウギルド員に捕縛され、次々とウエアルギルドの施設に連行され、数日すると布にくるまれた死体が共同墓地と言う名の穴に放り込まれた。町の人は密告すればギルド員の死に直結すると知っていたが、下手に庇うと庇った側が危ない。
タクトウギルドは逮捕したウエアルギルド員から盗まれた金を回収し、本人の資産も没収して処刑した。ウエアルやタクトウの法は無視してギルド内の独法で裁判と処刑をしてしまう。まさにタクトウギルドはやりたい放題。ウエアルギルドは『置き金』に手を出しただけで全滅した。
そしてここはウエアル城の領主室。その部屋の主は気の弱そうなタクトウ出身の男。名前をウエアルという。
元々はタクトウの役所の中堅職員だったが、タクトウギルドに恐怖を植え付けられ心はいいなりの奴隷と化し、家も妻も娘もギルドに奪われ、今は生きているのか死んでいるのかも判らない。そして今は、何故か領主なんてものをしていて、タクトウギルドのギルマスから下げ渡された妻が居る。なかなかの美人だが、夜の営みなど一度もない。なのに婚後にしっかり子供は生まれた。男の子で顔はギルマスに瓜二つ。きっとこの子がウエアルの次の領主だろう。その時は自分は不慮の死をするのだろうと覚悟している。いや諦めている。
もし、妻と娘も殺されているならそれでもいいと。あの世に行きたいと思っている。そしてあの世で妻子に詫びたかった。
領主室のドアがノックされる。
「タカシです」
「入れ」
ドアを開けて入って来たのはタカシと言う男。ウエアルの事務方の側近だ。
タカシは入ってきてウエアルの正面に立つと、丸められた高級そうな親書を差し出した。
「ウエアルギルドからです」
丸めた紙を留めている紐がいつもと違う。これはタクトウギルドのものだ。
ウエアルは紙を開き中身を確認する。
読む前に上がった脈拍はまだ高鳴っているが、安心した。ウエアルの命をどうこうする内容ではないからだ。ギルドからの親書、報告はいつも読むのが怖い。
「あのなんと・・・・」
「ああ、ウエアルギルドのギルドマスターをタクトウギルドのギルドマスターが兼任することになったよ。前のギルドマスターは不慮の死を遂げたらしい」
「そう・・・・ですか」
このところのギルド同士の悶着は有名だ。
そうか、決着がついたか。
ギルマスも死んだか。
ウエアルはギルマスに酷いことはされなかった。それはウエアルがタクトウから派遣された領主だからというのもある。ウエアルに辛く当たれば間接的にタクトウギルドに歯向かう事と同義だからだ。しかし今後はタクトウギルドのギルドマスターが相手だ。怖い。
だが、自分にはどうにもならない。
ウエアルは親書に紙を一枚付け足し、自身のサインを一番上に入れる。読んだという印だ。
「タカシ。これを城内と各役場に周知してくれ」
二枚の紙を受け取ったタカシは二枚目の紙に自身のサインを書きたし、部屋を出ていった。これから歩いて役員のサインを集めるだろう。そして最終的に親書とサインを城内の掲示板に張り出す。
深く背もたれに沈むウエアル。
そして、後ろの寝室のドアが静かに開く。
ドアを開けて出てきたのは女だが妻ではない。そもそも妻はその部屋に入ったことすらない。
「聞かせてもらったわ。残り一億イセ分の仕事を始めるわ」
「好きにすれば。私に金は無いよ」
「知ってる」
そういってその女はまた寝室に消えた。
今頃はもう何処かに消えてしまって居ないだろう。いつの間にか入り込んでいて、またいつの間にか消える。
ウエアルはあれが銀の夫婦かとため息をついた。夫の姿は一度も見ていないが、今回のウエアルギルドの騒動は夫が1人でやったと言う。何をどうしたかは知らないが、事実ウエアルギルドは全滅した。そして新生ウエアルギルドも倒すという。
新生ウエアルギルド。
実体はタクトウギルド。
勝てるのか?
オーリン、クロマツ、ウエアル、タクトウの中で最大の規模と戦力を持つタクトウギルド。元初のギルド。
戦闘員300人以上の最大ギルド。非戦闘員もいれれば500人を越える。非戦闘員ですら、多少の剣は使うし、実際に人に振るうのも厭わない者達だ。
ウエアルギルドでも強い者はタクトウ側にスカウトされて行ったという。
そんなタクトウギルドにたった二人で立ち向かうなんてどうかしている。
だがあの夫婦は既に三つのギルドを潰した。
最後のギルドは・・・・
「どうでもいい」
脱け殻男は椅子を回して窓の外を眺めた。
ーーーーーーーーー
ここはウエアルギルドのギルマスの部屋。もう夜だというのにまだ仕事中である。
中に居るのは新ギルドメンバーのリーダー格三人。タクトウギルドから選ばれた現場のトップ達。
今回の騒動による色々な資料の確認と推察で大忙し。
その部屋に勢い良く1人の男が駆け込んでくる!
「た、隊長!」
「なんだ、騒々しい」
「大変です!」
「だからなんだ!」
隊長と呼ばれた男は煩そうに男に向く。他のリーダー格二人も同じように。
「タクトウが! タクトウギルドが襲撃されてます!」
「なんだと!」
「嘘だろ!」
「落ち着け!どうなった!」
「さっき、タクトウギルドから二人伝令が来ました! オーリンの銀の夫婦に襲撃されました!伝令が出てくるとき既にギルドの半数以上が倒されてまだ戦闘中!もしかしたら今頃は!」
「全滅・・」
「おい!滅多なことをいうな!」
「あそこにはヤシクもルトヴも居る!そう簡単には負けん!」
「で、ですが!」
「ウエアルに半数派遣したのが仇となったか」
「いや、ルトヴなら負けん。絶対に勝つ!」
ブオオオオオオオッ!
ゴゴーー!
バタン!
「おい!何の音だ!」
「外か!」
「どうする!」
1人が窓の外を見るが何もない。夜は暗くてよく分からない。
まさかという展開に焦る三人。さっきの男は既に居ない。逃げたのか?
暫くすると一階のほうから大声が聞こえる。聞こえる声は最初は怒号だったが、次第に悲鳴の方が多くなる。そして廊下伝いに階下でバリケードを作って侵入者を止めろと怒鳴る声と大きなものを動かす音。
「銀の夫婦・・か?」
「まさか?」
タンッ!
窓に人の気配。
ここは四階だぞ?
「みぃーつけた」
「ひっ!」
月を背に窓枠に立つ1人の女のシルエット。手には抜かれた長剣。銀の髪が揺れ、血の匂いがする。
死神。
死神が口を開く。
「逆らえば死。逆らわなくても裁判で死。どうする?」
死神の美しい顔。
絶世の美女だ。
だがその表情は修羅。
殺らなければ殺られる!
男達は一斉に剣を抜き死神に斬りかかる!
死神は窓を蹴って左に跳ぶ! その先にあるランプを剣で叩き消す!
暗闇に包まれた部屋。だが死神に暗闇は闇では無かった。
ヒュン!
ゴトッ。
ザクッ!
バタッ。
ドッ!
ギイー。
死神がドアを開けると僅かな廊下の明かりが部屋を照らす。
床に横たわる三人の男。
生きているのか死んでいるのか判らない。
死んでいたとしても死神は心を痛めない。
死神はかつて鬼斬りと言われた。
死神にこの三人も鬼とされた。新生ウエアルギルド最強の三人は死神の3振りで終わった。
そして1日でウエアルギルドとタクトウギルドは壊滅した。
両ギルド合わせて400人を倒したのは1人の女だった。
実際は夫?も活躍してますが、後に大衆は殆んど妻が倒したと吹聴しました。
ギルド覚書
オーリンギルド・コユキの居たギルド
クロマツギルド・サクラを追いかけてたギルド
ウエアルギルド・ユキオが置き金の罠をしかけたギルド
タクトウギルド・元祖ギルドで最後のギルド、コユキが一人で制圧




