ギルドの無い平和な世界
数日前にユキオとコユキはオーリンを発った。
タケオというウエアルからの使者は軟禁された。軟禁といっても実質の逮捕。彼にしてみれば報酬二倍に書き足された依頼書をとりに行かされ損。だが、その依頼書は本物だ。
そして、今日も女中頭にしごかれるラララ。しごかれると言っても今は新人は三人だ。オーリンの景気の向上によりエチゴヤもなにかと忙しい。エチゴヤが部下を増やせば女中も増やさなければならない。
女中頭も大忙しだ。
女中見習いが三人になってラララとしては初めての村以外での同僚。目上の知り合いは居たが、同格の同僚は初めてである。そのせいかエチゴヤ邸でラララの笑顔が増えた。そんなラララを見て女中頭はほっとしていた。何だかんだで心細そうなラララを心配していたのだ。
そして今、ラララは客間で椅子に座っている。それもお客様か要人か家主が座る椅子に。普段掃除手入れをすることはあっても座ることの無い椅子。ラララは緊張でカチンコチンである。別の席には領主オーリンとエチゴヤ。
少し離れた位置に立つ女中頭と見習い仲間。
ラララの目の前のテーブルの横に置かれる茶道具ワゴン。その茶道具を操るのは1人の高貴そうな少女。ラララと同年代だが豊満な胸と落ち着きのある表情はまるで勝者。一方カチンコチンのラララ。
少女は茶用の出汁で茶を淹れると、ラララの前に茶専用布皿を敷いて湯気の立つ湯飲みを置いた。そしてオーリンとエチゴヤと席にも同じように茶を置いて席につく。自身の席のお茶には布皿はない。
クロマツ流の茶道。
そこで見ていた女中頭がラララに声をかける。
「ラララ。もてなされる側になると色々良く解るでしょう。どの動作が何のためにあるのか。クロマツ流はオーリンと違うところは有りますが、目的は一緒ですから参考になったでしょう」
「はい」
「大変素晴らしいです、サクラ様。姫君であらせられるのにもてなしも完璧とは流石です」
「有難うございます。私は母様の教えの通りにしたまでです。母様によい土産話ができます」
そう、ラララに茶をもてなしたのはサクラ姫である。
将来のクロマツ領主。
「あなた達は下がりなさい」
そういって女中頭は女中見習い二人を下がらせる。覚えたての退室の礼をして部屋を出る二人。
サクラがなぜ此処に?
勿論遊びに来た訳ではない。領主オーリンとエチゴヤに会いに来たのだが、ラララと会いたかったのもある。ラララはユキオにとって重要人物。ひょっとしたら何かの要職に就けるか?とサクラが確認したかったのもある。ラララには無理そうだが。
サクラ姫はラララに向かってこう言った。
「初めまして御姉様。ユキオ様の三番目の妻のサクラで御座います。今日はご挨拶出来て光栄です」
そのサクラの言葉にラララはポカンとして、エチゴヤはそうじゃないといった感じで額を手でおさえ、良くわかってないオーリンは皆の顔をぐるぐる見る。
女中頭だけが真顔で立っているが、内心は呆れ果てているだろう。立ち振舞い作法が完璧なサクラ姫がこんな天然さんだとは。
ラララとコユキはユキオにその身を捧げ忠誠を誓っているが妻ではない。サクラの理屈ならガガガはともかくリエまで妻になってしまう。ついてるのに。
まあ、年齢的にはサクラはラララより年上だが、ユキオにその身を捧げた順番でいうならラララが姉さんと言えなくもない。
ユキオに忠誠を誓った順番は、ラララ、ガガガ、コユキ、サクラ、リエの順番でである。
「サクラ姫。あの、私は妻ではないのです。コユキも妻ではないのです」
そのラララの言葉にエチゴヤもウンウンと頷きオーリンはそうだよなあといった表情になる。
「まさかそんな!ラララ御姉様も美しいのに!」
確かにラララは可愛い。美人予備軍である。
「コユキ姉様という完璧な女性も側に居るのに手を出していないとは!」
確かにオーリンで美人投票したらコユキの優勝かも。
「まさかユキオ様は男を・・・・」
アホな発言にまたエチゴヤが額をおさえる。クロマツの将来が不安になる。
「はい?」
何の事か判らないラララ。
BLなんてラララの知識にはない。
見かねたオーリンが話題を変える。
「サクラ姫、そのことは身内で頼む。本題に入ろう」
「そうですわ。本題に入ります。七代目マツシタ様をクロマツ内に見つけました。偽名を名乗って暮らして居ましたので少々苦労しましたが、お話をすることができました」
それに答えるオーリン。
「そうらしいな。それで七代目はなんと?」
「ウエアルから町を奪還したら、一族は領主に戻るつもりはあるかと問いましたら、もう戻る気はないとおっしゃられ、好きにすればいいと言われました」
「そうか。マツシタ名義は欲しいのだがな」
「その時はクロマツが面倒を見ます。元々クロマツ、マツシタ、今は無きイッポンマツは親族です。領主代行として私がマツシタを再興させます」
かつてイッポンマツという町も有ったが、そこはタクトウに吸収された。この3地域は元々マツの一族が別れて統治していた。とうに昔話だが。
「サクラ姫は良いのか?クロマツを継ぐのでは?」
「いえ、母様はまだ若いです。引退なんてさせません」
「しかし、先日受け取った手紙では年齢のせいか辛いと言っておったぞ。まあ、強制隠居させられたのに、急に表舞台に担ぎ出されたわけだしな」
「あれは母の嘘です。本音はクロマツの景気が良くなって少し金が入ったものだから、念願の男性アイドル事業を始めたいんです。それには領主の肩書きが邪魔なんです!」
「ぶっ!」
静観していたエチゴヤが噴いた。
「母様は、私がコユキ姉様の記念館を作ろうと貯めておいた軍資金を横取りする気です!人に町を押し付けて!」
「いやそのな・・」
困るオーリン。
「話がそれました。七代目からの許可は頂きました。マツシタの権利はこちらの物です。そしてウエアルの次にタクトウさえ押さえれば!」
「この一帯から全てのギルドが消え去る」
念願の言葉をはき、背もたれに沈むオーリン。
一年前には想像すらしていなかったもの。
一旦はクロマツも完全ギルド化してオーリンもそうなるかと思われてた。だがユキオが現れ全てが変わった。そして今度はウエアルだ。
ウエアルギルドがユキオに倒されたら、残るはギルド発祥の地タクトウのみ。
タクトウギルド。
全てのギルドの始まりのギルド。
かつてはボーケンシャギルドと呼ばれた。100年前にボーケンシャが作ったギルド。今はそのボーケンシャは内輪揉めをしていなくなってギルドだけが残った。
「エチゴヤよ、ギルドの無い世界が出来ると思うか?」
「領主よ何を疑っておる。ユキオ殿とコユキが負ける訳が無かろう」
「そうだな」
オーリンは思った。
ユキオは強い。
これは間違いない。
コユキもいる。
ウエアル制圧の次はタクトウ制圧。
ユキオにより人々が怯えて暮らさずに済む世界がもたらされようとしている。
果たしてボーケンシャは黙って居るだろうか?今ではギルド運営には関わっていなかったというが、ギルドを潰されたら創始者としてのプライドを傷つけられたと攻撃してくるかもしれない
もう、随分姿はないという。居場所すら掴めないボーケンシャ三人。死亡説まである。
見たことの無いボーケンシャに怯える領主オーリンだった。




