真正面からギルド攻略
ユキオはギルドの正面にやってきた。
入口が思ったより狭い。そう思った。
石積みの建物に木の扉が嵌め込まれている。
扉の面積が大きければ石壁が崩れるかもしれない。
馬車停め場は狭く、馬車や道具は近隣の建物の前にも勝手に置かれている。そして営業している様だが扉は閉じている。 用心棒が横に椅子を置いて座っている。
これなら、いざという時すぐに固く閉めて出入りを止められる。それで外敵からの侵入を防ぎ、逃げようとする人を止めることの両方に対処できる。
ユキオは来る途中、ジムニー(多分)の中で作戦を数パターン考えて居た。
最初から馬鹿正直に『ラララを返せ』と言っても失敗する。自分が強くても辿り着けなければ、ラララを知らない場所に隠されたら取り返せない。乱闘してる間に連れて行かれたら失敗する。
ガガガの見張りだけでは心配だ。把握してない出入り口があるかもしれない。
村を出る前に村長がラララは売られるのかもしれないと言う言葉を思い出した。贔屓目かもしれないが、ラララは可愛い。商品として上玉だろう。すぐに汚して価値を下げる様な事はないと想像し、願ってる。
だからと言って平気なわけじゃない。黒い感情がユキオの平常心を叩き潰そうとしているのに耐えて居た。
ふう、と息を吐く。
冷静になろう。
服は村を出てきた時のまま。
腰にはナタ。
手には麻袋。
ぎいと、入り口のドアを押し開け一歩踏み入れる。
ここからは悪の巣窟。
入ったら、ドアの内側真横に用心棒がいた。
こいつもいざという時にドアを閉める係だな。物騒なものもぶら下げている。
中は幅6メートル奥行き15メートルくらいで細長い部屋。
外から見た建物を思い出す。おそらくはこの部屋は1階の1/3くらいで、他にも部屋があるはず。いくつも椅子とテーブルがあり、常連的ゴロツキが何人もいる。ガラが悪く、食い物飲み物が雑に置いてある。
だけど、酒がない。
こいつらシラフだ。
いつ襲って来るかわからない。
無言で男達の間を歩く。
絡んではこない。
俺が敵か味方か分からないうちは様子見なんだろう。
進む先にはギルド嬢。
右がカウンター左が執務机になっている。
ギルド嬢は左に座っている。だが、椅子の座面が高いらしく目線は立ってる者と変わらない。
ギルド嬢は金髪でダイナマイトな体をしている。それはもう、大変なお宝が服の中にある。
男の肉欲を満たす為に生まれたような女。
年上・・・・だな。
きっとギルドの中の有力者の情婦。あれだけのゴロツキの前でも安全が確保できてるのだから。
「何の用?」
声も色っぽい。
「ここは初めてなんだが」
「だから何の用?」
「ここは何をするところなんだ?」
神に貰ったイケメンマスクを最大限輝かせてみる。
「知らないで来たなら、帰りなさい」
効かなかった。
ここから声のボリュームを落とす。
「これを見て欲しいのだが」
後ろ方向の男達からは見えない様に麻袋に両手を入れ、小さなケースを取り出す。
袋から出している様に見えるが、実際は左手から出してる。それを袋でかくしているんだけど。
取り出したのは小さく黒く細長い箱。
箱の表面は布の様な感触。
それをテーブルに置き、ギルド嬢に向かって少し押す。
「なに?」
「どうぞご覧になって」
ギルド嬢はそのケースをとる。
布とも毛皮とも言えない肌触り。こんな美しいケースは見たことがない。おそらくはケースといえば木箱が常識だ。
「開けて」
ユキオの声にギルド嬢はこれが箱で、中身こそ本命だと認識する。見れば上下に開きそうな切れ目がある。軽くつまむとパカっと開いた。
中は黄金のネックレス。
ギルド嬢は動揺して体がブレる。
「静かに。やつらに見せない様に」
それをユキオが制する。
今の立ち位置ならユキオの体が壁になる。ゴロツキ共にはギルド嬢にワイロを送ってるところは見られたくない。同時にナビの詳細画面で後ろの部屋にも誰もいない事は確認済みだ。
ギルド嬢は動揺していた。
あまりにもそのネックレスが美しかったから。
ケースも未知の芸術品のようだが、中のネックレスはもっと凄い。
綺麗。黄金だろうか?
なによりそのネックレスのチェーンが信じられないほど細い。しかも引っかかりがなくシャラリと流れる様に動く。
チェーンの粒も完璧なほど大きさと形が揃っている。この国の鎖は親指ほどの太さが常識だ。しかも不揃い。
こんな細いものはない。
艶も凄い。
シンボルの宝石は深い青で透明。
カットも完全なシンメトリー。
「失礼」
ユキオが手を伸ばし、チェーンのフックを外す。また閉める。それにギルド嬢が驚く。
なんだこの小さく精巧な留め具は!
こんな物はどこに行ってもお目にかかったことはない!
「君に似合うと思うけど」
ギルド嬢は理解した。これは賄賂だ。しかも国宝級の。
「何が知りたいの?」
「色々。まずは影の味方になって。もっと美しくしてあげるから」
ユキオはネックレスを箱にしまい、もっとギルド嬢の方に滑らせた。
「悪くないわね」
箱を受け取り、ギルド嬢は思った。
こいつは取り敢えず貰う。絶対に返さない。
目の前の男の言葉は曖昧だ。
できることだけして、できないことはしない。
ただの口約束だ。だが、この男は敵にはしない。まだ何か良いものを持ってる。
ちなみにあのネックレスは高くない。
ユキオは0円で手に入れたが、多分1万円程度。
金色だが金では無いし、宝石も安物かガラス。
でもこの世界には無い技術で作られているから価値はあるだろう。
ユキオが考えたこと。
『ギルド内部に味方をゲットしたい』
ではなく、
『良い女は欲しい』
というゲスな理由である。
悪人だろうがあのナイスバディは宝だ。
更生しようのない悪人であろうとも、あのボディには罪はない。確かに年齢はいってるが、言い方を変えれば女盛り。
前世の母親より妹よりラララより村長よりすんごい胸。ああ、顔を沈めたい。両手で・・・・・・したい。
ここでユキオは声のボリュームを上げる。
振り向いて聞こえる様に言う。
「じゃあさ、この中で誰が一番強いの?」
後ろのゴロツキがびくんとする。
来たばかりの生意気な奴に反応した。
「みんな強いわよ」
悪い笑いのギルド嬢。
「生意気なガキだ」
「田舎者が」
来た来た。
テンプレ通り。
「持ってて」
わざとナタをギルド嬢に預ける。これで見た目は丸腰だ。チートだけど。
男達が立ち上がり、睨んで来る。
「リガル、相手して」
ギルド嬢が指名した。
一番強そうな奴が来た。
丸腰のユキオを見て剣は抜かない。
「抜いてもいいんだよ?」
挑発する。
だが、リガルは剣を抜かずにテーブルに置く。代わりにバットより短い棒を持つ。案外狭い室内なら軽い棒は正解かもしれない。用意がいい。棒と言っても、当たれば痛いし、最悪骨折する。なによりギルド内で命のやり取りはまずいのかもしれない。
とはいえ、入り口はロックされた。
ギルド嬢が背もたれに寄りかかりながら、
「ドギー、合図してよ」
なんか命令して来た。
ドギーと言うやつに開始の合図をさせるらしい。
これで殺し合いじゃなく、試合になった。
「ああ、俺がやるのか。じゃあ、はじめ!」
呆気なく棒読みで開始合図を出すドギー。
走り込み間合いを保ちながら棒で攻めて来るリガル!
遅い。
まるでスローモーションの世界の中で自分だけ加速装置を使っているかの様な感覚。それは鬼と戦っている時にすでに感じていた。速度差がありすぎる。
ユキオは棒をあっさり左に避け、リガルの脇腹を軽く殴り、さらに進んで背中を殴り、最後は右から首を刈った。
どさりと床に転がり首を抑えてのたうちまわるリガル。
勝負あった。
「次、バジル!」
ギルド嬢が次鋒を決めた。
バジルと呼ばれた男が前に出る。
手にはナイフ。
まあいいか。俺が文句を言わないからそのまま進める様だ。
「始め!」
またもやあっさり号令を出すドギー。
ナイフの持ち手の反対の手で俺の視界を遮って影からナイフを繰り出すバジル。
でも、すべてゆっくりに見えるんだよなあ。
ナイフを素早く奪って、彼の目に突きつける。
勝負あり。
「強いわね。嫌になっちゃうわ」
「次は誰だい?もしやおねえさん?強そうに見えるけど」
「察しがいいわね。でもヤメておくわ。流石に貴方には敵わないから」
やはりこの人も強かったか。
こんな所に平然と座ってるのはやはり強いからか。
でも、俺のチートには敵わない。
「ねえ、何が目的?」
そい言いながら、テーブル上でナタをこっちに押す。
戦う気は無いらしい。
「一番偉い奴は誰だ?」
「乗っ取り?」
「そうだ」
「う〜ん。参ったわね」
「ひょっとしておねえさん?」
「違うわよ」
そうしてギルド嬢は後ろの紐を引いた。
なにかの合図らしい。
詳細画面には、ここに近ずく赤い点がいくつも見える。
ギルド嬢の後ろ横のドアが開く。
入って来たのは男が5人。
「乗っ取りよ」
そういってギルド嬢は代わりにドアに消えた。
去り際に、
「どっちが勝ってもいいから、終わったら呼んで」
なんて言ってた。
強い者の味方らしい。
「お前が賊か」
一番偉そうな男が言う。
悪人に賊呼ばわりされるとは。
「ああ。このギルドは俺が貰う」
「無理だ。死んで貰う」
ユキオの目的。
『ギルドを乗っ取る』
『ついでにあのお姉さんも貰う』
ラララ1人を目的にすると失敗しそうだから、ラララの名前は一切出さずにギルドを丸ごと制圧するつもりだ。
短時間だけナビ画面にするが、誰も逃げる者はいない。
裏のガガガもちゃんといる。
そして何人もこの部屋に集まって来る。
ギルドメンバーは全員ヤバい剣を持ってる。
汚いヤロウが集まるだけ集まったところでユキオはナタを抜いた。
10分後、紐の合図を聞いてドアを開けてやって来たギルド嬢は唖然とした。
30人はいたギルドメンバーが全滅。
そして全員が変な小さな紐で拘束されている。後ろ手にされて指を数組縛られてる。生きてはいる様だ。
男どもを拘束した紐。それはナイロン結束バンド。
一度絞めたら人力では取れないすごい奴。
「全員負けちゃったよ・・・・」
ギルド嬢が呟く。
まだ外に出張中の幹部とか下っ端とかも居るだろう。
だが、ここの財産も取られたら従う者は殆どいなくなる。無報酬で命をかける奴は居ない。
あれだけの相手をしたのに平気そうなユキオ。
「あんたどうする?」
ギルド嬢はため息をつく。
選択肢は、逃げる、戦う、降伏する・・・
自身は強い。しかしこの男には敵わないだろう。それに従うべきギルド幹部率いる強者も既に床に転がっている。
「なんなりとご命令くださいご主人様」
従うべき相手を変えることにした。




