馬には乗った事がない
ぶおおおおおおおおおおおお!
朝日の中、疾走する車。
ロデオマシンのように揺れる車の運転席でガガガが必死にハンドルにしがみついていた。
あの後、ユキオはガガガと一緒にラララを取り戻しに行くと決めた。神から力を貰ってないガガガは戦力にはならないが案内役は欲しい。そもそもユキオは地理だけでなく、この世界の様式さえ知らない。ラララを追うにはガガガに頼るしかない。
ガガガも命を助けてもらった恩もるし、ラララを救いたいと思っている。なにより、ユキオが強いということを教えられたことで希望を持ったのだ。
折角生き返ったのに死地に向かおうとするガガガ。ガガガは必死にすがる奥さんをなだめ出発した。
一応、村長にはいろいろ口止めした。能力の事を言いふらされたらややこしいことになる。実際は口止めというよりは村全体でユキオの不都合にならないように行動するとうこと。
ガガガの予想では奴等は馬か牛を持ってたんじゃないか?徒歩じゃないだろうと言っていたが、ガガガの言うとおり村の外れに馬の足跡が数頭分あった。
賊は四人だったが、馬の足跡は4頭分に見える。
それに村の食料とラララを積んで走ったのだろう。食料はたいした量は積めないから本命はラララか。
町に向かって足で走り出したが、ガガガが遅い。実際はユキオが速すぎるのだが。
ならばと言うことで、ユキオはヤクオクで中古車を漁った。荒地に強そうでコンパクトで紹介写真のメーターの写真見て一番ガソリンが入ってそうな奴。しかも、即決の奴。(と、いっても0円になってしまうんだが)
そしてユキオが買ったのはスズキジムニー(のようなもの)
ガガガが顔をひきつらせながら運転する。
当たり前だが、車なんて初めて見るし、運転なんてしたこともない。
そもそもユキオの左手にびびった。
最初はユキオが運転していた。(初めて)
助手席で地形と道を説明しようとガガガが頑張るが、ユキオには理解できない!
「ガガガ代われ!」
「ええっ!」
「無理無理無理!」
「命令だ!」
命令だと言われればしょうがない。と、いうことでガガガが運転手になった。
「いいか!これが進む!これがかっつり止まる!これが下がる!これが休む」
オートマの説明。雑。
教習所の教官が居たならば首を締められるレベルの説明。
「そっちが動く!こっちが止まる!」
ペダルの説明。ガガガが試し運転すると、お約束のガッコンガッコンを何度も繰り返す。どうもガガガはペダルを全力で踏む癖がある。
ハンドルは説明いらなかった。
なんとかなるもんで、ジムニー(仮)は前に進んだ。じんわりブレーキ、ハーフアクセルも慣れた。
ワイパーとかライトとかの説明をしたかったが、ユキオ自身もよくわからなかった。
どのみち車の揺れが凄くてガガガはハンドルから手を離せないし、ユキオは手すりから手を離せない。でも、ガガガは目がいいようでまだ暗いのに周りが見えてるらしい。原始人すげえ。
「もっと速く!」
「怖い!」
「いいから速く!」
「ええええっ!」
恐らくは足で走るより速いが、馬より遅い。荒れた地面のせいだ。
そしてユキオは助手席で必死にガソリンを検索していた。この車のガソリンは少ない。
ヤマゾンにもモモタロウにもガソリンはない。
ガソリン配達をしてもらいたいが、ここには住所がないし、ユキオの能力では対面販売が無理っぽい。(神様なんとかして!)
車が配達されたのが不思議だが、そんなjことよりガソリンどうしよう。
最悪、農家向けの缶入り混合ガソリン入れてみるしかない。あれならモモタロウにある。
因みに車は便利だが、それ以上に左手が便利だ。
道が悪くて車が埋まって亀になっても、左手に収納して、安全な場所で出せばまた走れる。
それは立ちはだかる邪魔な木の向こうに行きたいとかでも一緒。なんなら横倒しになっても起こすより収納して出した方が早い。
車を収納するときガガガが乗ったまま入れようとしたら「怖い」とかいってドアから飛びだした。盗賊に立ち向かう勇気はあるのに左手に入るのは怖いらしい。実際、生き物は入れられるのだろうか?
「見えた!」
車を止めて目の前の町を指差すガガガ。まだ距離はある。
あれか。
車を降りて左手にしまう。
ここからは歩きだ。
「ガガガにこれを渡しておく」
そういって中くらいの大きさのアーミーナイフと超小型折り畳みナイフを渡す。ホルダー込み0円。
「す、すげえ!」
この世界の剣がどのくらいのものかは知らないが、量産品に驚いてくれるとは。まあ、あの村には剣は一本も無かったし。
「よし、行こう」
ガガガは年に数回この町に来るそうで、迷うことなくどんどん進む。
町の民家は木と土壁で出来ている。高い建物は木とレンガが多い。四角い石もあるが、切り出した石?それともモルタル?
ラララの村よりナーロッパに近くなった。一般住人が居るが皆村長よりいい服を着てる。
「ここがギルド。怪しいところといえば先ずはここだ」
このギルドが怪しいとガガガは言う。他にも小物悪党は居るが、全ての悪党はギルド傘下で、この街にギルドはここだけだと。
ガガガと一緒にギルドの建物を見上げる。
三階建ての石積み構造(木の柱も入ってるが)、一階はドアはあるが窓はない。二階の窓でさえ小さくて少ない。まともな窓は三階だけ。
恐らくは警備のための材質と構造なんだろうが、ユキオには怖い建物。
「地震きたら生き埋めでペチャンコだな」
日本人には受け入れがたいレンガ積みの建物だ。震度4でもガラガラ壊れそう。
「どうやってラララを探す?」
不安そうにガガガが聞いてくる。
どこにラララが居るかは判らない。居るかもどうかも不明。建物は割と大きく部屋数ありそう。呼んでも返事をしてくれないかもしれない。
「ガガガは裏からラララが連れ出されないか隠れて見張っててくれ」
「もし、出てきたら?」
「あ」
そういえば通信手段がない。現代生活に慣れきってるとこういうのが辛い。そもそも電波局ないので携帯も通じないし、あってもガガガは使えないだろうし、トランシーバーは割とガーガー煩いし。
と、民家の裏に野良猫が死んでるのを見つけた。
しめた。
野良猫の死体をポリ袋に入れ、更に麻袋に入れる。
「ガガガ。移動するならこれ持ってって」
「なんで?」
「目印」
「???」
ナビの詳細画面には赤いマークと黒いマークがぴったり。
これで判別が楽になる。
本当は赤いマーカーの個体判別機能が欲しいけど今日はこれで我慢。
「ガガガ。なるべく密かにこっそり地味にしててくれ。ラララが連れ出されたら後をつけてくれ。直ぐには殺されないだろう」
「わかった」
「じゃあ、行ってくる」
「そっちから行くのか?」
「大丈夫、任せろ」
ユキオはギルドの正面玄関に向かった。




