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第34話 『最深部 待ち合わせ』

「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」

「二名です。……ああ、一人は、遅れて来ます」

「かしこまりました。お名前を頂戴できますか?」

「滝本です」

「滝本様ですね。それではテーブルにご案内いたします」

「はい」


 一琉は黒衣を脱いで、店員の後について歩いた。昼の街の居酒屋に来たのはこれが初めてだ。外にあった行燈看板には大きく「新宿店」と書いてあり、その横に小さな字で他店舗の情報も載っていた。他にも展開しているチェーン店らしい。昼の街で飲むなんて、飲み代が足りるか不安だったが、まあここなら破産する程ではないだろう。案内された半個室のテーブルの手前の席について、電子注文のシステムの説明を受ける。テーブル端に据え置かれたタッチパネル端末に触れて操作することで、メニューを画面上で見ながら、遠隔で注文までできるという。


 店員が出て行ったのを見届けてから、一琉はあちこちパネルを触ってみた。サラダ、海鮮、肉料理、デザート……くるくる画面が切り替わる。


(ふーん。すごいな。便利にできてる)


 指に吸い付くようにしてページがめくれる演出の感触がおもしろくて、意味もなくめくり続けた。


「待たせたな」

 遅れて到着した佐伯に驚いて、わっと声を上げた。


「そんなにびっくりするこたねーだろ」

「別に……」


 一琉は憮然とした顔で、昼文明の利器から手を放した。


「悪いなーこんなところまで」

「いえ。誘ったの俺ですから」


 佐伯から聞きたいことを聞きだせるなら、金も労力も出し惜しみはしないつもりだった。


「さて、と。どうしたどうしたー」


 佐伯は腰を下ろすと、ピッ、ピと慣れたようにタッチパネルを操作し、ビールを注文している。


「俺もビールで」

「あーだめだめ。未成年はここではノンアルコール」

「……はあ?」


 佐伯がきょろきょろと店内を見回す。

「あっ! ? ここ禁煙席! ?」


「えーと」

 灰皿を探しているのか。


「かー、固いんだよなあ。ほんと昼は」


 佐伯はいらいらしたように、指をとんとんテーブルに打ち付ける。


「そこまで気が回りませんでした」


 居酒屋で禁煙席なんて、夜の街じゃ聞いたことがない。丈夫な昼生まれのくせして健康に気を遣ってんだな。


「あっ、ちょっとすいませーん、店員さーん、席替えてほしいんですけどー」

 佐伯は半個室から身を乗り出して、通りかかった店員を呼び止める。


「恐れ入りますが、お手元のタッチパネルからお願いいたします」

 一瞬止まってくれたものの、空いた皿を抱えて足早に厨房へと去ってしまう。


「来てくれればいいじゃんかよぉ……ちょっとだけなんだから」

 しぶしぶといったように、佐伯はタッチパネルに触れた。


「さーてと。まあいいや。俺もさ、そろそろまたおまえから、話を聞きたいと思ってたんだよー」

「何でも聞いてください。でも今日は俺、佐伯さんに情報をもらいにきたんです」

「ほー!」

 一琉の返しを面白がりつつ、タッチパネルのメニューを見ながら返される。


「佐伯さんって……一体なにを調べているんですか」

「まーいろいろとなー」


 苦笑いされた。ピ、ピ、と電子音が響く。


「過去の技術の研究施設のことも、知っていますか」

「あー?」佐伯の手が止まる。


「野々原まひる」静かな間。「知って、ますよね」目が合う。

「やっぱりその話か」


「あのとき……」

 まひるが話し終わって、丈人が帰宅して追い出された時。タイミングよく、佐伯が大慌てで一琉の家の戸を叩いた。不審な様子で。


「佐伯さん……なにを慌てて駆けつけてきたんです? そもそも、佐伯さんが普段からいろいろと嗅ぎまわっているのって、なんなんだろうって考えていたんです」


 あれから、佐伯と連絡を取ろうとしても電話が繋がらなくて、電報まで打ってようやく今日、こうして捕まえられたのだ。逃がしてなるものか。と、思っていたが、佐伯は意外と取り繕ったりもしない。聞かれることをある程度予測して来たのかもしれない。


「お待たせいたしましたお客様」

「ああ……喫煙席に変えてもらおうと思ったんだけど」


 佐伯の要望に、やってきた店員は申し訳ない表情を作り、言いよどむ。


「喫煙席……は、ただいま満席でして……」

「うん。よし、じゃあ、わかった」

 佐伯は、一琉の方を向くと、きっぱり言った。


「一琉、ちょっと店を変えよう」

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