第30話 『不穏』
一琉は自宅のドアを閉めると、黒衣も脱がずに椅子に崩れるようにして腰かけた。もう日は照っていて、真理子の運転する車から自宅まで、裸眼や顔に直射日光をさんさんと浴びたが、今はどうでもよかった。
ひとまず息を整えなければならなかった。
今、何が起きているのか。まひるの話を簡潔に整理すればこういうことだ。過去の技術解明のために、死者を蘇らせて資料整理させていた。そして、その産業廃棄物として死獣を生み出していた。
もちろん、死者蘇生なんて現代の技術じゃ不可能だ。でも、何らかのロストテクノロジーを使って実現させているのだとしたら、不可能とは言い切れない。過去の文明は我々の常識を超えている。死者蘇生技術だってありえない話じゃない。だがこれが本当のことだとしても、やっていいことではないはずだ。倫理的な問題をはらんでいる。だからこそ、組織的に大がかりな研究を行いながらもこそこそと隠れるようにしているのだ。
しかし。その組織に匹敵して余りあるであろう力を保持する軍の幹部に事件は伝わっている。いや、彼らはすでに動いているようだ。それなら、一隊員でしかない自分にできることはもう、上が何とかしてくれるのを待つことしかない。
一琉は天を仰いだ。あまりの重さに押しつぶされてスーッと口から空気が抜けていくような、ため息が漏れた。
その時、ドアをたたく音があった。
「一琉! 一琉! いるか! ?」
この声は……?
「佐伯……さん……?」
無理やり体を起こす。
「入るぞ、いいな! !」
あまりの剣幕に気圧されて、一琉は言われるがままに通す。
「一人か……」
佐伯の額から汗が流れていた。視線は鋭く、すみずみまで調べるように一琉の部屋に向けられていた。
「そう……ですが」
初めて見る、佐伯の真剣な表情だった。いや、初めてではないかもしれない。今までも何度か、その気配を感じたことはあった。
「そうか。……やられた。一歩遅かった。こういうことか……。大佐の手元じゃな……」
詳しく事情を聞こうとした一琉に構わず、佐伯は途方に暮れていた。
(一体、なにが……)
何が起きている?




